差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2012年6月3日日曜日 14:21
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 東の湯(岡谷市川岸中町)

ナカムラです。

今日(5/27)は、「東の湯(岡谷市川岸中町)」に行ってきました。 川岸駅(中央線)から、0.7キロ、10分くらいです。

中央本線が1983年に岡谷駅から塩嶺トンネルで塩尻に抜けるようになったため、岡谷と辰野の間に ある川岸駅は、中央本線という名称はそのままに鄙びたローカル線(辰野支線)になっている。

前日に続き岡谷駅前のホテルに連泊。先ず、茅野に行き小津安二郎が愛した清酒”ダイヤ菊”の酒蔵に向かう。茅野駅は八ヶ岳の登山基地で高校生の頃から知っている。山を下りて、駅前食堂でカ ツ丼とビールで打ち上げを行った記憶が鮮明だ。しかし、その後駅前一帯は再開発され、既にそれ も寂れ切っている。お目当てのダイヤ菊の酒蔵も日曜日のためか休業していた。。。

岡谷駅に戻り、岡谷が製糸業で栄えていた明治時代、片倉と並ぶ豪商だった人の旧林家住宅(重要 文化財)を見る。門は閉ざされ観光客などほとんど居ない。しかし、案内の方に解説してもらいな がらの見学は有意義だった。

さらに、岡谷の場末「丸山横丁飲食街」などを見て、タクシーで川岸に向かう。岡谷駅から2.8キ ロくらい。市のコミュニティバスや中央線でもアクセス可能ではあるものの本数が極端に少ない。 時間があれば歩くのだが・・・。

川に沿う川岸の中心地なのだろう。同湯と数軒しか隔たっていない農協の前に「川岸村役場跡(昭 和30年岡谷市と合併)」の碑があった。また、川岸は片倉紡績発祥の地で、旧事務所の煉瓦造の建 物が残っていた。

農協で車を降りたら、ステーで補強されたステンレスの細い煙突が見える。元々は土管積みだった。 近年更新されたようだ。

同湯は県道14号(諏訪-辰野線)に平行する角地に建っている。入口がある路地の口に「川岸商業 会」の古い街灯が1本だけ残っている。他は撤去された。県道はとても商店街という感じではない。

週2回、日曜日と水曜日だけの営業。開店時刻の16:30の少し前に着くと脱衣所から物音が聞こえ たので、お邪魔して写真を撮らせてもらう。既に釜場では100度の熱湯が5トンほど仕上がってい るけど、客が来てから浴槽にそそぎ込むというのが同湯の流儀のようだ。

ハナ肇の声に似た五代目がいろいろと解説してくれながら、浴槽に湯を注ぎ始め、昨日のふろの日 (岡谷では毎月26日、ふろの日として無料開放されているようだ)の残り、姉妹都市の東伊豆町か らの夏カンを浴槽にポンポンと放り込む。

馬喰の家の5代目にあたるらしい。創業年は分からないものの、三代目が風呂屋を始め、岡谷では 最も古い銭湯という。昭和34年に先代の建物の横に現在の建物を建てた。そのため、間口が広く、 奥行きが無い建物になっている。壁はブロック積み。外壁もチープなパネルが張られている。

屋号を赤く染めた紺地の暖簾が出され、やや強い風に揺られている。木製の簡素なドアを開ければ コンクリのたたきと板張りの番台。靴棚があるだけで下足箱はない。

奥から大女将が番台に登場。相方が風呂銭を渡そうとするが、受け取ってもらえないでいる。何度 か2人分の風呂銭を押しつ押されつ。。。”写真を撮ってもらったから”と言われ、とうとう受け取っ てもらうことを断念する。。。

脱衣所の広さは、幅3間、奥行2間ほど。古いドラムセット、業務用冷凍庫、冷蔵庫、洗濯機。。。 すべてが使われていないもので、男湯は半ば物置状態になっている。

さらに内装に驚かされる。胸の高さまではブロック積みで、その上は壁、天井ともに塗装すらして いないベニヤ板が使われている。男女境やその扉なども然り。あまりに簡素でワイルド。天井に2 枚羽の天井扇があるけど、これもかなり手作り感が溢れている。

ロッカーは、やはり外側はベニヤ板張りでマジックインキで1番から32番までの番号が書かれてい る。昔は錠前があったというけど、今は古い家の便所のカンヌキ式の鍵が付いている。もっとも外 側に付けられているので”錠”としての機能はない。

浴室は、幅3間、奥行2間半。やはり間口の割に奥行きがない幅広い浴室。島カランはなく、カラ ン数は男女境に3機、外壁側に4機のみ。浴槽も男女境と奥壁の角に計3人ほどが入れる小さな深 浅2槽があるだけ。明るい、かなりガランとした浴室だ。

大将に温いのがいいか、熱いのがいいか希望を聞かれた。”普段通りの温度がいい”と答えると、や や熱めの43度くらいだった。途中、大女将がアルミの大きなかきまぜ器具でかきまぜてくれた。浴 槽は掘り込まれたもので、深槽に50センチ強くらいとかなり浅く湯が注がれる。循環などという設 備は有ろうはずもなく、「かけ流し」と言っていたけど、汲み湯で足りなくなったら熱湯を投入する という原始的な風呂だ。

相客は、浴室で電気ひげ剃りを使うただただ無言の干涸からびた爺がひとり。42度くらいまで埋め ていた。

椅子は胡座をかくように使うのに絶好な、脚が極端に短い木製のもの。湯桶も半分は木桶を供して いる。

何とビジュアルがあって、片隅にある浴槽の上、奥壁に小さな絵付けタイル絵が”貼られて”いた。 4枚くらいのタイルに山河の絵が描かれている。

ただただ無言の干涸らびた爺は、汲み湯でかなりの”スローモーション”で身体を洗う。その隣で 小生はサマーオレンジと黄色の夏カンの湯に出たり入ったり。。。水道水を高級な杉材で沸かしたお 湯はなかなかいいものだった。

飲料の販売なども当然ない。外で大将は斧を振り下ろして薪割りをしている。昔、山小屋番がこう いった昔ながらの方法で薪割りをしているのを見たことがあるけど、銭湯では初めてかも知れない。 杉材のいい匂いが漂っていた。

日曜日の16:30から17:25に滞在。相客は干涸らびたただただ無言の爺が1人だけ。通常は女湯に 1人だけの一番風呂の客が出た後は18:00くらいまで客は来ないらしい。恐らく、客は男女合わせ て両手は居ないだろう。。。そんな山間の古く味のある銭湯だった。

大正12年の開業以来の駅舎が使われている川岸駅まで歩き、電車で岡谷駅まで戻りたかった。しか し、どうしても時間が合わず再びタクシーで岡谷駅まで戻る。岡谷発の新宿行のスーパーあずさは 18:51発。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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              重要文化財・旧林家住宅