差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2004年6月6日日曜日 16:13
宛先: 銭湯ML
件名: 安善湯(横浜市鶴見区)

ナカムラです。

今日(6/5)は、「安善湯(横浜市鶴見区)」に行ってきました。
安善駅(JR鶴見線)から、0.3キロ、5分程です。駅からは近いけど、土日の昼間などは20分に1本くらいしか電車がない。

亭主の話では、同湯は昭和10年ころの建物だとのこと。浴室が正八角形のコンクリ造、ファッサードも昭和モダン、ペンキ絵が男湯だけで2つ、マジョリカタイル等、見所の多い銭湯だった。

「安善」というのは、安田財閥の創始者である「安田善次郎」から来ている。近くにも、鶴見小野駅(小野重行(地主))、浅野駅(浅野総一郎(浅野財閥創始者))、武蔵白石駅(白石元治郎(日本鋼管社長))、大川駅(大川平三郎(王子製紙経営者))と、大正時代に付近を埋め立てた功労者が名を連ねた駅名になっている。

同湯の出自もこの流れに関わっている。木造モルタル造で趣きがある安善駅を出ると、メダリオン装飾があるコンクリのファッサード(隣家の改築で半分切り取られているが・・・)に特徴があるレトロなたばこ屋。

その通りの並びに、古いコンクリの2階屋が並んでいる。
1本奥に入ると、平屋なのにコンクリで玄関の構造が同じ家がいくつか残っている。

同じデザインの玄関の軒に、社章のような文様がある。付近一帯は、鶴見線(当時は浅野系の鶴見臨港鉄道(株)所有の私鉄)が、鶴見駅まで乗り入れた時期(昭和9年12月)に設置された旧浅野セメント《現太平洋セメント》の旧社宅群。同湯もその旧浅野セメントの所有だったものと思われる。亭主が、昭和10年ころの建物というのとも符合する。

さて、安善湯。
外観を撮影していると、怖そうな親爺に、ガン付けられる。銭湯巡りをしている決して怪しい者ではない(?)旨説明・・・。上に書いたような同湯の歴史的経緯についてやりとりすると「よく知ってんじゃねえか」と、とりあえす放免してくれた。

払い下げられた旧社宅の生き残りを撮影するが、今日は潮田神社の祭礼。宵宮の神輿が並んでいたりと人通りが多くカメラを扱いにくかった。いつものことだけど、犬にも吼えられる。

同湯は旧社宅群の中心に建てられている。セメント会社が作った浴場につき、基本構造は全てコンクリート造。白いペンキで塗られている。小さな小さな入口棟が前面付けられているコンクリのファッサード。昭和初期的なカーブがあり、コンクリの厚みもかなりのもの。

入口棟の入口は男女別。暖簾はない。上がると男女の境として下足箱が置かれている。錠は松竹錠、36個ほど。

戸を開けると、雲形の彫り物の仕切り板を付けた四角い番台。側面は、木製の波板で巻かれている。この素材の遭遇は久し振り。

番台に怖い親爺は不在。後で払えばいいかなとも思うけど、怒鳴られたりするのも怖いので、表の商店街まで呼びに行く。作法は、地域、地域で異なる。勝手な解釈で動くと、痛い目に遭うこともある。

脱衣所の広さは3間四方。天井は低く、天井を含めコンクリの部分は白いペンキで塗られている。ビル銭風だけど、コンクリの柱や梁の接合部がどことなくレトロに仕上げられている。

正面奥の浴場側の壁に21個のロッカーが置かれている。上2段が松竹の板鍵。最下段がさくら錠の板鍵になっていた。オリジナルはさくら錠だったんだろう。脱衣かごが数個積まれ、これが主力のよう。

その他、冷蔵庫、食卓のようなテーブル、それに合わせた椅子、Keihokuのアナログ体重計、ロッカーの上には家庭用扇風機などがある。木製の男女境はピンクがかったベージュのペンキが塗られている。いい風合いを醸し出している。外壁側のガラス戸の桟は木製。これもいい感じ。

さて、注目の浴室。男湯と女湯が独立している。男湯は(女湯も構造は同じだと思う)、コンクリート造で、1辺3メートルの正八角形。天井には、湯船と同じ大きさ、直系2メートルくらいの円形の穴が開いていて、その上に湯気抜きの窓付きの塔屋が載せられている。ローマのカラカラ浴場を模したと言われる。建築様式は銭湯としては異彩を放っている。まぁ、元々は銭湯ではなかったからだが・・・。

カラン数はセンターサイドの2辺に4(うち一組は壊れてカランが撤去)+1。シャワーはなし。
外壁サイドの3辺に4つずつ計12。うち8個にシャワーが付いている。
カランは日の丸扇の角型。

タイルは創業当時のものが維持されているのだと思う。床が3センチ四方の白の正方形。かなり黒いくすみが目だっているし、目地もけっこうキテいる。しかし、鏡の上のラインに緑の鳴門文様、その上にこれも緑の菱形文様のマジョリカタイルが貼られていてアクセントを付けている。

外壁側の3辺にサッシ窓があるけど、コンクリの窓枠はアーチ型。かつては、アーチ窓が配されていたと思う。天井に円形の開口、窓がアーチ型。かつては、かなりゴージャスな空間だったと思われる。

浴槽は、正八角形の湯殿の真中に円形の湯船。真中が直線で仕切られた深浅2槽。日替わりのようだけど、今日は両方ともブルーの薬湯だった。

浅槽は温度が43度くらい。刺青が鮮やかな爺さんが水を投入、42度くらいになった。刺青だけど、目元優しい70歳の爺さん。最近腰が曲がってきたよと嘆いていた。いつも逝っていいだけどね、と笑ってた。深槽は44度位。温度計があるだけで、なんの仕掛けもない。

ビジュアルは、先のマジョリカタイルの他、正面奥に長野青木湖(柱にマジックで書かれていた)、センターサイドに桂浜(高地(こっちは絵にペンキで書かれていた))。幅が3メートる程なので、小ぶりではあるけど、2種類のペンキ絵があるのは初めての遭遇かも知れない。
両方とも見たことが無い絵柄だけど、画風は中島師のものだと思う。「青木湖」の下にある、釜場への青い木戸もレトロだった。

上がりは、スパードライで一服。扇風機のスイッチをいじってたら、冷房をかけてくれた。

鶴見線沿線は産業遺産の宝庫。安善も何度となく訪れている。
駅前の老夫婦のたばこ屋は、いつまで現役でいてくれるのかなと気にかけていたけど、「安善湯」とコンクリの旧社宅群には気が付かなかった。煙突の老朽化を見ても、亭主の年齢を見ても、結構厳しいのかなと感じた。

いい湯だった。
仕事を終えたヘルメット姿の工員が歩いていたりする。今も工員住宅の機能があるのかな。きっと、産業遺産探訪の後に、また訪れる機会があるはず。頑張ってほしいと思う。

《H18.3.21撮影画像》









鶴見線 安善駅


鶴見駅 旧鶴見臨港鉄道時代の駅舎


浴室
(出所)横浜市浴場組合のHPより