差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2012年12月10日月曜日 22:39
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 浅草湯(高崎市成田町)

ナカムラです。

今日(12/1)は、「浅草湯(高崎市成田町)」に行ってきました。 高崎駅(JR高崎線等)から、1.9キロ、20分くらいです。

高崎は出張などで何度か駅周辺を歩いたことがある。しかし、駅北西にある古くからの市街地を歩 くのは初めて。今日は、かつて高崎随一の繁華街で、今は凄まじい廃れ振りのアーケード街「高崎 中央銀座」と、その傍らの遊廓・赤線の流れを汲む歓楽街の柳川町を散歩して浅草湯に向かう。

「高崎中央銀座」は昔の大きな映画館のオリオン座や高崎電気館などの廃墟と、それを取り巻く柳 川町のやはり廃墟が進む紅灯を提げる怪しげな飲み屋街と、見応え十分な街だった。

柳川町の直ぐ北側に銭湯の煉瓦煙突を発見する。駐車場奥の建物には釜場につながっていた2つの 細い扉が並んでいる。駐車場の門柱には「成田湯専用駐車場」。どうやら「本町支店湯」の跡のよう だ。

さて、浅草湯。成田山光徳寺がある成田町にある。創業は大正10年。油井型の煙突を持つ現在の建 物は昭和4年のものらしい。

洋館風のガン吹きがなされた切妻平入の脱衣所棟。出桁造り風で軒を支える構造材ががっしりして いる。遊廓のような軒灯に眼を見張らされる。エントランスの入母屋屋根は、支柱が取り払われて、 今はガラスブロックをはめたブロック塀に支えられている。その左右に暖簾が下がる。紺地にダル マの絵だけを描いた小さな暖簾が粋だ。

暖簾を潜ると番台裏に小さな絵付けタイル絵。男女湯の入り口はその左右にハの字型に置かれてい る。このエントランスの平格天井に施された、障子戸のような細工が見事だ。こんな格天井に初め て遭遇した。

高崎の人たちが口々に”急に寒くなった”というほどに今日は寒い。果たして、ドアを開ければ石 油ストーブの暖かさと郷愁が有る。凝った二重格子の平格天井に木組みの番台。床のゴザ敷きや、 古いけど大きくクリアな男女境の鏡が印象的だ。

広さは、幅2間半、奥行3間半。入口方の1間がコンクリのたたきになっていて、番台と反対側に は指物師が手がけたオール木製の下足箱がある。御歳83になる三代目の大女将に360円の風呂銭を 渡す。

ブランド不詳のオール木製ロッカーが外壁側にいくつかあるものの、”忘れ物”貼り紙がある保管庫 だったりする。3人の相客は積まれている丸籠を使用する。

外壁側浴室方に、幅1間、奥行1間半ほどの広さの張り出したスペースがあって、書店からそのま ま持って来たマガジンラック、書棚、テレビ、使われていないトレーニング器機などが押し込まれ ている。

前栽は潰されていると思いきや、浴舎の横に溶岩の築山を配した小さいながらも立派な庭池がある。 この脇部屋から庭池の飛び石を経て母屋にアクセスする構造になっているようだ。地方銭湯ながら なかなかの造りだ。

その他、浴室入口の上に掛かった大きな絵、熱帯魚の入った水槽、ここに不釣り合いなパソコンな どが置いてある。大女将が作ったのではないだろうけど、同湯にはHPが開設されている。これで 作られたものなのだろうか。

浴室の広さは幅2間半、奥行3間ほど。天井は2段型で全面にプラ板が張られている。浴槽は男女 境に接した台形のもの。釜場側が熱い湯、もう片方が温い湯。男女境にある焚出し口からの流れが、 熱い方に多く流れ込むという簡素な構造だ。

手指が冷え切っていて温度測定不能。取りあえず温い方に入るけど、いっこうに身体が温まらない。 1人居た先客の爺に”こっちの熱い湯に入れ、風邪引くぞ”と言われ従った。気泡湯の温い方は41 度くらい、ジェットがある熱い浴槽は42度強といったところか。

聞けば、温かったり熱かったり、湯温のばらつきがひどいらしい。親指を立てて、今日はコレが文 化センターに行っているんで、婆さん熱くできないんだよと分析していた。ともかく、お湯が極め 付けに熱い銭湯が多い北関東の銭湯にあって、入浴を楽しめる温度で安堵する。

カランは、奥壁側、外壁側、手前の三方の壁に、4・6・2。レバーを押し下げれば、地方の古銭湯の 証、熱湯に近いお湯が出る。タイル類は基本新しいけど、床のタイルは膨らみのあるイニシエの3 センチ角の白タイルが残っている。

ビジュアルは、男女境に仕組まれた熱帯魚が泳ぐ大きく鮮やかな水槽。畳1畳分よりも大きい。素 人がメンテナンス出来るとも思われないので、専門業者に委託しているのだろうか。水族館の水槽 のように手入れが行き届いている。

そうこうしていると、女湯から罵り合う声が聞こえる。温い湯に水を注ぎ込むフィリピーナ系3人 組と、上州のかかぁ軍団との凄惨なバトルが繰り広げられている。

“こっちぁ、カネ払ってるんだぁ!”“それがどうした、みんな払ってるんだボケ!”というような、 銭湯で初めて遭遇する”乱闘”だ。女湯の相方が巻き込まれてはいないかとハラハラしていた。

温い湯槽があるのだから多少埋め過ぎてもよさそうだし、注意する言い方もある。指呼の柳川町は 紅灯を灯す風俗街。諍いの根底にあるのは差別だと感じる。そして、自分だったらどうするか。ど うするのが一番いいのか考えていた。

大女将はすべてを承知しているのだろう。男湯客が埋め過ぎたら注意しに来るらしいが、石油スト ーブで暖を取りながら女湯の乱闘騒ぎに身じろぎもしない。大女将にすれば、どちらも数少なくな ったご常連だ。

上がりは、明治牛乳100円を頂いた。節電なのか常温に近かった。それでも寒い高崎、湯上がりで も丁度いい温度だった。

そう、トイレも拝見しなければと、帰り際にお借りする。エントランスの横に独立した屋根が架か る便所。古い小石タイルをふんだんに敷き詰めた汽車便所スタイル。便器の穴は昔懐かしい円形。 扉は意匠を凝らした木製桟に骨董物のダイヤ硝子による総ガラス張り。カタギの建物の便所とは思 えない。そんなシロモノだった。もっとも、この建物も、大正時代には非日常の享楽施設という色 彩が強かったはず。そう考えれば合点がいく。。。

ぐっと冷え込んだ土曜日の夕方、16:45から17:40に滞在。相客は3人。創業100年にならんと いう古銭湯にして、第一級の郷愁銭湯だった。寒いから外には出んと言っていた飄々とした大女将。 崩れかけている高崎中央銀座の風景とともに深く印象に残った。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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URL: http://www7a.biglobe.ne.jp/~masayuki/ (風呂屋の煙突)
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      全面がダイヤ硝子のトイレの扉



                      柳川町・映画館オリオン座



                      映画館・旧電気館