梅開湯（千葉市中央区寒川町）

差出人: Masayuki Nakamura
送信日時: 2015年4月5日日曜日 0:34
宛先: 銭湯ＭＬ (sento-freak@freeml.com)
件名: 梅開湯（千葉市中央区寒川町）

ナカムラです。

今日（11/29）は、「梅開湯（千葉市中央区寒川町）」に行ってきました。
本千葉駅（外房線）から、1.1キロ、15分くらいです。

相方にいざなわれて千葉市美術館に「赤瀬川原平の芸術原論展」を見に行く。芥川賞作家であることや路上観察学会の”トマソン”、ライカ同盟の活動は知っていたものの、それは氏の活動のごく一部分だった。前衛美術家としての側面は全く知らなかった。飛ばし飛ばし観たものの優に3時間は美術館に居ただろうか。会期直前に亡くなられ図らずも追悼展になってしまったけど、はなむけに相応しい渾身の展示で、はるばる訪れた甲斐があった。

また、美術館が入っている中央区役所の1階に、昭和3年築の矢部又吉設計の旧川崎銀行千葉支店（昭和18年以降は合併され三菱銀行千葉支店）だった古い銀行様式の建物が取り込まれていた。建築探訪の面でも興味深かった。

閉館の18:30少し前に外に出ると、雨の後に急に気温が下がったので寒空のなか薄い霧が掛かっている。濃霧で交通機関に影響が出ている所も多いようだ。

梅開湯は美術館から2キロ余り。大通りの歩道は、店も閉まり暗く歩いている人も少ない。バス路線も廃止されたのか打ち捨てられたバス停跡などもあって不気味な道だった。

千葉県警本部、外房線・本千葉駅を通り過ぎて千葉街道を南下して行く。本千葉という地名で、現在の千葉の中心市街地と同様、早い時期から栄えた地域のようだ。

かつてこの街道は海沿いの道だった。町名が「港町」から寒川神社のある「寒川町」に変わった辺りから、わずか300メートルほどの間に「石の湯」「梅開湯」「大和湯」の3軒の銭湯が街道の海側に並んでいる。もっと多くの銭湯があった漁師町だった。埋め立て地に「笑がおの湯千葉寒川店」などの新参が攻め入るなか、ここに漁師町銭湯の面影が残っているのは奇跡といっていい。

同湯はコンクリ煙突を有する横須賀銭湯にも通じる郷愁を誘う小銭湯。この建物が建った昭和3年当時、同湯のすぐ後ろから海が広がっていた。緩くカーブする旧道の形状や家並みに、今も海に面していた頃の雰囲気を感じることができる。

エントランスは無粋なパネル張りに変わっているものの、それ以外はかなりオリジナルが残っている。暖簾を潜ると街灯が少なく暗い周囲と違ってかなり明るく照らされほっとする。正面には連子格子。その下に6枚組の章仙画の絵付けタイル絵。床のタイル遣いも古風だ。

松竹錠の下足箱の扉を開ければ傘入れの穴がある。但し、コインランドリーを設置した関係で男湯側の穴は塞がれていた。

番台への扉を開ければ、番台に皺が深くなった大将が詰めていた。皺が深いだけでなく、釜場での奮闘が窺われる風呂屋の親爺らしい煤けた顔だった。

ボロ銭湯と聞いていたけど決してそんなことはなかった。何処も明るく、古い設備が丁寧に維持されている。脱衣所の広さは幅2間強、奥行2間半ほど。天井は折上げというほどではないけど格天井になっている。板の間はオリジナルではないものの、安直な材料ではなく板の間として更新されている。

ロッカーは外壁側にアルミ板鍵の松竹錠。しかし、主力は入口脇に積まれた丸籠のようだ。男女境にある鏡のほか外壁側のロッカーの脇にも、彫刻を施した古く小さな額縁型の鏡が残っている。その他、飲料が少しだけ入った古い冷蔵庫、ヘルスメーター、中央に置かれた昭和30年代的なテーブルには小学校の椅子が1脚。狭いながらに余計なものがない。小さいながらも正統的なイニシエ空間が広がっている。

浴室は、幅2間強、奥行3間ほど。広くはないけど、天井は大型の銭湯と同じくらいの高さ3間半はある。多少傾いて高窓が閉まらない様子は見て取れるものの、木板張りの2段型の天井には丁寧にペンキが塗られている。くすみがない明るい浴室だ。裏ぶれた銭湯だろうという先入観がここでも訂正されていく。

島カランは、鏡のないプレーンなものが1つで、カラン数はセンターから5・4・4・4。カラン周りのタイルは深緑の長方形の小タイルが使われているなど古風。床のタイルも最近めっきり見なくなった3センチ角の白タイル。男女境には中判の白タイルをひし形状に張っている。タイル使いが昭和30年代的で心地よい。

浴槽は、奥壁に沿って小さな深浅2槽。深槽は何らの仕掛けもない素の浴槽で、親爺が顔を煤けさせながら薪をくべて42度と心地よい頃合いに沸かした井戸水が、深みと清澄な輝きを湛えている。主浴槽には赤外ランプ有りで1人用の座バイブラが置かれている。浴室にステンレスの円形の手摺りとも座バイブラの足乗せとも思える見たこともないものが据えられている。

ビジュアルは、奥壁に中島さんのペンキ絵。女湯側には富士山が見えるものの、男湯は珍しい「すばらしき東北/岩手ｰ北山崎」という海蝕洞とともに半島風景からの大海原が描かれている。何かの協賛なのか見たことがない絵だ。

土曜日の雨上がりの霧混じりの寒い日。19:50から20:45に滞在。相客は1人のみ。ボロ銭と聞いていたけど、決してそんなことはなく、釜焚きに励む親爺さんの顔だけは煤けていたけど、風呂は清潔で明るいものだった。客が少ないのにせっせと煙を出し続ける姿が印象的だった。看板などは一切出ていない。屋号は”ばいかい湯”と読む。

上がりの一杯はチェーンばかりが並んだ駅前の繁華街で店を物色する。顔にそんないらだちが出ていたのか、呼び込みのお姉さんから「チェーン店じゃありません」との初めて聞く呼び込みを受けた。そんなこんなで、雑居ビルの地下に入る「とり幸」という居酒屋に入った。

梅花湯と梅つながりで九十九里の「梅一輪」という本醸造の燗酒と、朝に外房の和田浦漁港に上がったという鰺刺で千葉の夜を締めた。

（ご参考）昭和33年の寒川港の画像がある。〔なつかしのフォトギャラリー（千葉市）〕

*************************************************
ナカムラ　（Masayuki Nakamura)
URL: http://furoyanoentotsu.com（風呂屋の煙突）
*************************************************

　　　　　　　　章仙画のタイル絵と格子が付けられた番台裏の窓。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　本千葉駅。長い歴史を持つ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　海沿いだった千葉街道には「港町」という地名が残っている

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　同じく千葉街道に面している隣湯（本千葉駅）の「石の湯」

　　同湯の先の方の隣湯の「大和湯」。同湯とは200メートルも離れていない。

　　　　　　プロも唸るような見事な展示だった

　　　　　　　　　　　　　千葉市美術館の1階には旧川崎銀行千葉支店の建物が組み込まれている。