差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2011年11月19日土曜日 1:59
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 萬歳湯(名古屋市西区浅間町)

ナカムラです。

今日(11/3)は、「萬歳湯(名古屋市西区浅間町)」に行ってきました。 浅間町駅(市営地下鉄桜通り線)から、0.2キロ、2分くらいです。

相方がバレエを観に行こうという。聞けば、会場は何と名古屋(愛知県芸術劇場)らしい。シルヴ ィ・ギエムが、震災のチャリティということで、封印した名作”ボレロ”を再び踊るという。

相方は小生が名古屋の郷愁銭湯に想いを抱いているのを知っている。まぁ、眼前に人参をぶら下げ られた馬と言ったところ。瞬間的に名古屋行きが決まり、おまけに翌日の11月4日の金曜日を休暇 にし、2泊3日でバレエ鑑賞と、名古屋の郷愁銭湯を3つほどまわることになった。

シルヴィ・ギエムのボレロはかなり良かったけど、東京バレエ団の前座など、全体としては小生に とって格調高過ぎたかな。。。それに、9割が女性客だった。男ナカムラとしては少し異文化へ冒険 し過ぎたかも知れない。

演目がはねたら、既に風呂が恋しくなる夕暮れ時。地下鉄で浅間町の駅に向かう。ここら辺りは名 古屋のどういった地域に当たるのだろうか。古い建物もちらほらと残っている。カメラを構えてい ると、道往く人に下町を撮りに来たのかと聞かれたりする。大須ほど知名度はないけど円頓寺金シ ャチ商店街なども近い。下町という言葉が当てはまるか分からないけど、庶民的なエリアではある ようだ。

たまたま新しく出来た浅間町駅から近いけど、同湯は大正時代の建物を今に引き継く古豪中の古豪。 同じ輩が来るのだろう、大将は、我々に「同好会か何か?」と尋ねた後、大きな台風が来たら名古 屋の銭湯で一番最初に倒れると笑っている。自他ともに認める名古屋きってのボロ、いや郷愁銭湯 だ。よく見ると、多少傾いていなくもない。

後方にコンクリ浴舎と煙突を擁する木造の銭湯。表は2階建てながら、1階部分の軒が高く、1階の 窓が高低2段あるので、京都の東寺・日ノ出湯のように、一見、3階建てに見える。

番台の裏の格子には、風雨に晒され幾星霜という感じの屋号、住所、経営者名を記した大きな木札 が掛かる。入口は男女別で、それぞれに暖簾が下がる京都方式。古風な木扉の所々が何とガムテー プで補修されている。内装のガムテープ補修はよく見かけるけど、雨が当たるような外部のガムテ ープ補修は見たことがない。。。

中に入れば幅2間半、奥行き4間半弱の細長い空間。かなり埃っぽい感じがないではないけど、”お ぅ”と唸るほどの郷愁空間がある。

たたきから脱衣所に上がる部分は、深緑色のタイル張り。左手に木組みの番台があって80歳くらい の女将さんが中に入っている。大将は女湯側で、番台と衝立の間に立っている。。。

たたきの右手には、木製の格子扉の下足箱。錠のメーカーは見当たらない。厚い金属の板鍵に、番 号とともに「ゲタ」と刻印がある初めて遭遇するものだった。

天井は緑がかったブルーのペンキを塗った平格天井。天板が1枚板ではなく、10センチ幅の板を斜 めに並べて使っている。北海道などの古い洋風建築で希に見る粗野な感じの珍しい使い方だ。壁は 昭和中期的なグレー木目プリント合板。少々、埃にまみれている。。。

床は籐敷き。ロッカーは外壁側に中京地域で見かけるSekiya-joのもの。丸籠も現役で使われてい るようだ。その他、TANAKAのアナログ体重計、入口上の梁に据えられた業務用扇風機などがある。

コンクリ造の浴舎との間には1間弱のタイル張りの緩衝地帯があって、流しが向かい合わせに置か れている。緩衝地帯(木造の脱衣所の建物とコンクリの浴舎との連接部)の天井は、木板天板が崩 れかけた格天井で、男女境の上に湯気抜きがあるという中京銭湯特有の構造。そして、浴室入口の 上部に、洋館、湖、山という絵柄のモザイクタイル絵がある。

浴室は、幅2間半、奥行き4間半とかなり縦長。天井は男女境の上が最も高い船底形。カランは、 男女境に2機、外壁側に8機が並ぶ。四方の壁は白の大判タイルで、床は濃・淡ブルーの長方形の 小タイルを組み合わせ、風ぐるまを模して並べられている。

浴槽は、男女境に接する長さ4間はあろう長いもの。手前から、深槽、浅槽、溶岩を積み上げた岩 風呂風の電気風呂になっている。電気風呂は苦手なので近づかないんだけど、隣の浴槽に入ってい ても”漏電”でシビレを感じるものだった。

お湯は水道を重油で沸かしている。大将は”高いヤツばっかりでやっている”と自嘲気味・・・。 しかし、主浴槽は41.5度くらい、深槽は42度くらい。水道と重油とは思えない柔らかないいお湯 だった。

電気風呂と深槽の間に長さ1メートルはあろうかという陶製の鯉がある。現在の焚出し口は溶岩の 間だけど、昔はこの鯉口からお湯が注がれていたのかも知れない。丁度そんな位置に据えられてい る。

ビジュアルは、白タイルの奥壁の上に高嶺をバックにした湖に白鳥が泳ぐ絵柄のモザイクタイル絵。 よく見るモチーフだけど、細かく描き込まれていると感じさせるものだった。

雑然と積まれた古い段ボール箱の荷物に、埋もれるように「澤田牛乳」と記された錆だらけの2枚 扉の冷蔵庫があった。見れば何本か地場の名古屋牛乳が入っている。100円。森永とも明治とも違 う味の濃い牛乳だった。レトロ銭湯では男湯だけにしか冷蔵庫がないところが多い。2本買おうと したら、大将は”先に上がって飲んでますよ・・・”と、相方も紙キャップの地場牛乳には目が無 い。。。

祝日、文化の日の17:00から17:45に滞在。相客は2人。外に出れば真っ暗になっている。女湯か ら出てきたおばぁちゃんが、押して歩く乳母車に赤色灯を点灯させて帰っていった。辺りはそれほ どに暗い。距離的には名古屋中心部からさほど遠くはないはず。しかし、時空を超えた寂寥感を湛 えた、代え難いレトロな風景が残っている。

上がりの一杯は、主税町の「デュボネ」というレストランで生ビールを頂く。主税町は名古屋の昔 からの高級住宅地で、そのレストランはもとは春田鉄次郎邸だった洋館。隣には、豊田自動車の発 祥である豊田自動織機の創業者、豊田佐吉の実弟で事業を補佐した豊田佐助邸などが並んでいる。

明日が平日ということもあって、古い瓦斯灯の跡が残る和洋折衷のメインダイニングは我々だけだ った。やや遅く19:00から夕食をスタートしたので、最後は店全体でも我々だけになった。

食事の後、料理を運んでくれた若い気さくなあんちゃんに建物を案内してもらった。歴史ある洋館 での夕食。少し贅沢だけど、内容と味は名古屋でいうところの”お値打ち”なものだった。ただ、 付近の洋館探訪とセットで寄るとすれば、ここでランチを取り、明るい時間に付近を散策するのが いいかも知れない。そんな次のプランが浮かんでくるほどにいい店だった。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
メイン:masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp  
URL: http://www7a.biglobe.ne.jp/~masayuki/ (風呂屋の煙突)
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               主税町・デュボネ



 メインダイニングにあった時計