差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2006年3月25日土曜日 14:32
宛先: 銭湯ML
件名: 弁天湯(墨田区向島)

ナカムラです。

今日(3/24)は、「弁天湯(墨田区向島)」に行ってきました。
本所吾妻橋駅(都営浅草線)から、0.4キロ、5分くらいです。

途中の北十間川には屋形船が浮び、後方の高架には浅草からの東武電車が走る。東武鉄道は昭和6年に現浅草駅が開業するまで、隅田川手前の業平橋駅が始点で、当時は浅草駅を名乗っていた。同湯が開業した頃、業平橋駅はまだ「浅草駅」だった。弁天湯は、そんな、かつての東武鉄道の始発駅至近に位置する銭湯だ。向島という地名もそうだし、由緒と歴史がある銭湯のようだ。

同湯は、昭和4年築のレトロ銭湯。76年の歴史を今日で終える。大谷石を積んで、その上に瓦を載せた板と漆喰の塀がある。漆喰壁には硝子も嵌められている。塀の立派さでは、小生の遭遇したなかで、間違いなくマイベストワンだろう。見事な塀の中には、歴史を経た証として、鎮守の森のように大きく育った木立が繁る。

入口の両側の自動販売機は既に電気が消えている。屋号を記したオリジナル暖簾の上に、「ニコニコ入浴」という暖簾が掛かる。番台裏には、ワープロ書きで本日を以って営業を終了する旨の貼り紙がある。

松竹錠の下足箱。52番の札と取って番台へ。グレー木目調の新建材を張った番台に座る、人懐っこい笑顔が印象的な女将に400円渡すと、島ロッカー上に並べられた缶ジュースなどを勧められる。表の自販機の灯りが付いていないことに違和感があったけど、中の在庫を取り出して、最終日の客に無料で提供しているようだ。

脱衣所の広さは、幅3間、奥行3半くらい。天井は格子が太い、重厚な折り上げ格天井になっている。高さは3間強ある。一見して、高いなぁと感じる。しかし、壁は昭和中期的な木目を印刷した新建材で囲われている。これが、やや安っぽい空間にしてしまっている。

入口方の外壁側には、1間四方の張り出しがあって、船底型の天井が和風旅館のように、桟の材に凝った押縁天井になっている。その外側の硝子戸を明けると、池の跡がある。水はなく、赤ちゃん用のポリのバスタブが投げ捨ててあったりと荒れている。しかし、池の石組みは上質なものだ。同湯が栄えていた頃、白壁を背景としたこの庭には、艶っぽい、いい風景があったはずだ。

ロッカーは、外壁側と島ロッカー。錠は松竹の板鍵のもの。その他、Keihokuのアナログ体重計、新・旧のマッサージ機、使われていないゲーム機器、ぶら下がり健康器などがある。背もたれのない木組みのベンチと丸椅子がいい味を出している。

浴室は、幅3間、奥行4間。濃・淡ブルーペンキ塗りの、ウィング幅1間の2段型の天井だけど、この天井が高い。3間以上はある。2段目の立ち上がり部には昔の照明器の取り付け跡がある。一見して、古い造りを実感する。

さらに、外壁の真中が1間四方で張り出していて、立ちシャワーブースと、今は稼動していないサウナ室への入口になっている。使われていない暗いサウナ室の扉を開けるのは初めて、黴くさい冷たい空気が流れ出てくる。

島カランは1列で、カラン数はセンターから7・5・5・4。カランは日の丸扇の刻印のある角型。石鹸カスが付着し、清掃が行き届いているとはいい難いコンディション。赤帯の黄ケロリン桶に湯を注ぐと、茶色のふわふわが混じる。何回やっても・・・。配管が限界に来ているのだろう。

カラン台のタイルは臙脂色の平滑なもの。側面は浴室とともに肌色の大理石模様のもの。床は正方形を90度ずらした八角形の紋様の白いもの。昭和の終わり頃、中普請をしたのかも知れない。

浴槽は3槽。センターから、1人用のぬる湯で44度、床に気泡を出す装置があるけど稼動していない。真中が8点座ジェット×2、45度くらい。8点だけど、それぞれ3点くらいは目詰まりでジェットの噴出がない。

外側がバイブラバスだけど、稼動していない。温度は46度超。よくある、いつの時代なのか、東京帝国大学の石和田博士のカリウム石温浴泉で、鉄格子の奥に石があるけど、ここからは湯が出ていない。浴槽の中の炊き出し口からは激熱の湯が勢いよく出て、浴槽の湯を掻き混ぜている。

常連客も「今日は、えつぃやぁ・・・。」と言い合っている。誰も入らない。久し振りの激熱に浸ってみる。六龍鉱泉並みの激熱。1分ほどで肌はド・ピンクになり、出たら、ピョンピョンと飛び跳ねなければならない。久し振りのそんな熱さだ。ご常連も、真中の浴槽に水を注いで入っている。外壁側の浴槽には入らない。熱い湯に浸かる、草津の「時間湯」って、どんなだろうと思う。

ビジュアルは、奥壁に中島師の富士山のペンキ絵。浴槽奥が高さ1間余りが、パール色のタイルに竹をあしらったものになっていて、ペンキ絵はその上にある。奥壁は広いけど、敢えて絵のスペースをコンパクトに押さえているようだ。大画面という豪快さはないけど、装飾タイルの上に小振りに広がるペンキ絵は、品があって悪くない。

上がりは、頂いたレモンティーの缶飲料を頂く。
若い客と刺青のご老人が、近くの銭湯はどこかと話している。かなり高齢の方は「これから楽しなよ」と女将に言う。女将は女湯の客にタオルを渡し、「まだ、近くに住んでいますから」と応えている。

設備は老朽化した。きつい労働も高齢の身には応える。段々と、ままならなくなってくる。そんな感じなのか。
年度末は廃業が多い。