差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2013年5月15日水曜日 22:30
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 大黒湯(京都市東山区大黒町通松原下る二丁目山城町)

ナカムラです。

今日(4/20)は、「大黒湯(京都市東山区大黒町通松原下る二丁目 山城町)」に行ってきました。 清水五条(京阪本線)から、0.4キロ、5分くらいです。

朝に東京を出て、河原町の「フランソア喫茶室」でレトロな喫茶店を巡る”喫茶部”活動。付近に は「ソワレ」や「築地」という昔ながらの喫茶店があって、いつも京都の奥深さを感じさせられる。

繁忙期は、何処も混んでいるし、宿泊を含めて料金も高くサービスも低下する。特に観光地の京都 などは避けているのだけれど、相方に”都をどり”に誘われていた。毎年観に行っていたけど、こ こ何年かご無沙汰させてしまっている。桜から始まる春の季節、京都は都をどりのほか、鴨川をど り、北野をどり、京おどりと、各花街競演で、華やかな催し一色だ。

「都をどり」は、祇園甲部の花街をあげて行っている、芸妓、舞妓の稽古総見のような催しで、木 造の大劇場の祇園甲部歌舞練場で開かれる。ちなみに、祇園”甲部”というくらいだから”乙部” も有った。一般的に”芸”が「甲」で、”娼”が「乙」に区別される。表だっても、実質的に「乙」 が無くなった今、敢えて”甲部”と名乗る意味合いを考えてしまう。(祇園乙部は”芸”に変わり「祇 園東」となっている)

お茶席で、芸妓さんのお手前を前に抹茶を頂く”喫茶部”活動を経て大劇場へ。踊りは華やか、昔 ながらの人力の舞台装置による演出も興味深かった。

さて、15:30の舞台がはねたので、芸妓さんも通うという近くの大黒湯へ。京都の場外馬券売場っ て、歌舞練場の隣にある。花街、旧遊廓、博打が近接している。種類は違っても、人から泡銭を毟 り取る構造は、京都も他と同じようだ。

大黒湯は、祇園甲部と宮川町のお茶屋街の南側に位置している。”温泉マーク”の赤いネオンサイン と油井型の煙突がシンボル。京都の古豪銭湯の1つ。隣には、京都によくある袋小路の入口に門構 があって、そこに何軒もの表札を掲げる長屋がある。

古い2階家に長方形のエントランスが増築されて、左右に暖簾が下がっている。中に入ればアルミ 板鍵の錠前が付いた下足箱がある。さらに扉を入れば、簡素に洋風の彫刻が施された古い番台があ る。前開きというのが京都風。聞けば昭和20年代のものらしい。

京都の銭湯料金は410円。相方が二人分の湯銭を柔和な笑顔の大将に手渡す。

同湯は、先代が昭和14年に経営を引き継いだ。引き継いだ銭湯がどれくらいの歴史を持つものかは 分からないという。元々は幅が1間半の狭い銭湯で、今も脱衣所の不自然な位置に立つ古い柱がそ れを物語っている。

脱衣所の広さは、幅2間、奥行3間半ほど。天井は2間位。壁、天井には白いクロスが張られ、特 にイニシエを主張するものはない。しかし、拡幅前の古い柱から判断すると元々の脱衣所は1間半 四方。2階へ上がる階段の幅は50センチくらいだろうか。古い建物がベースになっているのは間違 いないだろう。

ロッカーは、小さなアルミ板をロータリー式に使うOshidori錠で、扉中央に小窓が開いている。床 は籐敷き。その他、旧型マッサージ機やIshidaの無骨なデジタル体重計などがある。

浴室との間には1段ほどの段差と、カラン3つほどのタイル張りの流し。段差の有無だろうか、名 古屋銭湯とは違った、京都銭湯特有のさり気ない緩衝地帯だ。

浴室は、幅2間強、奥行は4間ほど。天井は横置きのカマボコ型で男女境の上に横長の明かり採り 兼湯気抜きがある。

元々は狭い浴舎を建て直したものだろう。さらに後年、モザイクタイル絵の奥壁の裏側に、無料の 乾式サウナが増設されている。長い業歴を有する同湯の構造の変遷に想いを巡らせるのは楽しい。

浴槽は、男女境に接し、縦1列に4間の長きに並ぶ。小さい銭湯だけど、充実している。サウナの ある奥から、深槽の掛け流しの水風呂、44.5度はある深槽の熱い湯。さらに、42.5度くらいのバイ ブラの主浴槽&6点座ジェット×2、電気風呂、41度くらいのラベンダー・カモミールの薬湯槽。

サウナ室は、奥壁の後方に増設という、京都でよく見るけど、東京などではあまり見かけない方式。 京都銭湯は左右に余裕のない銭湯が多い感じがするけど、釜場周りには余裕があるのだろうか。室 内の広さは4人用くらい。ベンチの上に赤いカーペットが敷かれているというのも京都にふさわし く、そして独特だ。

島カランは1列で、カラン数はセンターから0・7(3+4)・0・10。1列の島カランが長・短の2つに 分かれて縦に並べられる京都風。タイルは、足触りのいい中判の厚手のもので、ベージュの濃淡2 色が落ち着いた雰囲気に並べられている。

最も下座の外壁側に座ると、鏡の下部に記された広告が「日新」という浴場広告会社自らの広告だ った。一般的に浴場広告というメディアが機能しているとも思えないけど、京都はどうなんだろう か。斜向かいの時計店の広告も残っていたけど、廃業して久しい感じだった。

ビジュアルは、奥壁に山・川・森を描いた洋風の絵柄のモザイクタイル絵。後から増設されたサウ ナ室の扉に窓、穴蔵のようなシャワーブースのために、全体の1/3くらいは切り取られている。し かし、絵を潰さなかった判断は正しかったと思う。

さらに、外壁側の上の”カマボコ型”の部分に深緑のタイルに極々白いタイルを散りばめたという 装飾がある。シンプルだけど、湯船に浸かっていると正面に来るので、ちょっと気になるものだっ た。

土曜日の17:40から18:40に滞在。春なのに記録的な寒さ。途中で雨まで降り出した。しかし、客 は五月雨的に入って来る。相客は8、9人といったところか。小振りの銭湯ながら、いいサウナとい い水風呂があって、銭湯としての基本性能は高い。脱衣所の中程のくだんの古い柱には、竹製の団 扇差しがあって、芸妓の名前の入った京都岡崎・住井製の団扇が何本か差してあった。祇園や宮川 町の芸妓も通うのだろう、同湯は花街の銭湯でもある。

上がりは、雨に”京をどり”の提灯の赤い光が路を照らす風情の宮川町のお茶屋街を抜け、河原町 のあの「築地」の向かいにある「ミュンヘン」というビアホールへ。美味しいソーセージとともに ハーフ&ハーフを頂いた。

しかし、何だろうこの寒さは。。。仙台では66年振りにこの時期の積雪を観測したという。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
メイン:masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp  
URL: http://furoyanoentotsu.com(風呂屋の煙突)
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                                祇園甲部の歌舞連場。隣に場外馬券売場がある。




               踊りの前にはお茶席でお菓子とお抹茶を頂いた




                    伝統的な舞台装置での都をどり。舞台構造の面からも楽しむことができた。
























                         構内の側溝の蓋




                               宮川町。「五條楽園」消滅した今、どうなっているんだろうか。。。

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