差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2011年2月26日土曜日 10:42
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 胡子湯(呉市広長浜)

ナカムラです。

今日(2/8)は、「胡子湯(呉市広長浜)」に行ってきました。 広駅(呉線)から、2.7キロ、40分くらいです。

呉駅から市営バス・東小坪行に乗り、漁港である長浜桟橋で降りれば直ぐに煙突が見える。

昨夕から熱が出て体調が悪かった。朝、駅前の内科医院に飛び込んだら、実は「心療内科」。併 設の耳鼻咽喉科に回され、鼻から喉へ内視鏡を差し込まれたりしたけど、下痢止めと解熱薬を 調達することができた。

バスで音戸に出かけて、遊廓や桜湯などを見に行く予定を諦め、その代わりに市街にあるオリ ーブ温泉や朝日町の遊廓跡などを見ながらのんびりと歩く。オリーブ温泉は、名前と違ってか なり渋い外観。惹かれる銭湯だった。

ホテルで昼寝した後、雨が降り出した夕方、先が長い旅程を思い胡子湯に向かうか迷う。しか し、今日を逃すと同湯に入る機会はない。少なくともそう感じた。計画どおり東小坪行の呉市 営バスに乗って胡子湯に向かう。

バスの車窓から、畑温泉のコンクリ煙突や、古い煉瓦煙突の北阿賀・鶴乃湯を眺めることがで きた。組合のwebによれば、鶴乃湯は設備充実の銭湯。設備系の新鋭の銭湯と想像していたけ ど、バスで同湯の前を通り、煉瓦煙突を見た時は驚いた。もっとも、見つけたのは、ぼーっと している小生ではなく、煙突発見については小生より数段上手の相方ではあったが。。。

雨足が強くなり気温も低くなってきた。広駅を過ぎた辺りで、バスは広市街から長浜漁港に向 かって南下する。王子製紙の呉工場を通り過ぎ、「長浜桟橋」でバスを降りれば直ぐだ。

長浜の漁港の周りには、漁師を精神的に支えた小さいながらも威厳と存在感を漂わせる社寺や、 かつて魚網商だったスクラッチタイル張りの看板建築など、漁業で栄えた時代の風情が残る。

同湯があるのは、そんな漁港のささやかな目抜き通り。この町にはかつて3軒の銭湯があって、 もう一軒がこの通りにあった。

料金についての隣湯との協定書が同湯に残る。大正2年か3年のもの。同湯あるいは隣湯が開 業した時のものらしい。大正3年としても100年近く。大将が同湯を継ぐだいぶ前に、若くし て先代が亡くなっているため、創業年など、当時のことは分からないらしい。仮に協定書の相 手である隣湯よりも同湯の開業が古かったとすれば、同湯は創業100年を超える歴史を有して いることになる。

現在の建物は昭和10年の改築。釜場は土蔵。2階建ての脱衣所棟や浴室棟は、土蔵ではないも のの、この地域の他の古い建物と同様に黄土色の雁吹きになっている。

通りと平行に建っている。入口の脇にコインランドリー。倉敷や呉の銭湯は、コインランドリ ーの併設は少ない。2房の暖簾が下がり、庭の硝子戸からは男女境の上の白い招き猫が、夕方 の雨の向こうに目立つ。

暖簾をくぐれば傘立てとツルカメ錠の下足箱。しかし、札が1つも差さっていない。中に靴棚 があるので今は使っていないようだ。

戸をあければ、クッションフロアのタタキに番台。番台は側面が平格天井のような構造で、前 面がカーブしたもの。見たことがないデザインだ。

暖房は、タタキに置かれた縁台の上に石油ストーブ。暖気だけでなく、灯油の匂いとともに郷 愁を放っている。

番台には、30歳でこの世界に入って52年余り、御歳82歳になるという優しそうな大将。丁度、 相客が上がったので写真を撮らせて頂く。ひとしきり撮影が終わると「いい資料になった?」 と聞かれる。研究しているというほどではないんですが。。。

脱衣所の広さは幅2間、奥行4間ほど。天井は簡素な感じの押縁の天井。外壁側にある前方後 円墳型錠穴のオール木製ロッカーと、浴室入口部分の流しが置かれた部分の上に、欄間のよう な建具が付けられている。

ロッカーは、上部に右書きで「名草医院」とあり年季を感じさせるもの。京都・石田のゴツい アナログ体重計は、調整を頼んでもメーカーに部品がない。1キロくらい少ない体重を指すと いう。体調を崩していたせいもあって、いつもの体重よりも誤差を見込んでも3キロほど少な かった。

浴室は、幅2間、奥行5間ほど。湯気が満ちた縦長で広いものだ。天井は四角錘型で真ん中に 湯気抜き。床はざらざらした御影石張り。壁は大判の白タイルで上部に緑色のラーメン丼模様 のマジョリカタイルが使われている。

カランは外壁側に10。男女境に石でできた台があって3機のカランがある。

浴槽は、中央、男女境に接するかたちで深浅2槽。広島特有の3段の主浴槽は、空気を吸い込 む棒が出ている1穴ジェットが端っこに1機のみというシンプルさ。井戸と水道水のブレンド を廃油で沸かしているお湯は柔らかい。身体が暖まったせいもあって続いていた軽い頭痛が消 えていく。浅槽はバイブラで41度くらい。

「今日は雨で客が来ないからゆっくりしていって」と大将が言ってくれた通り、火曜日の17:00 過ぎ、この大きな浴室に客は終始小生だけ。本当にのんびりとこの郷愁空間を堪能する。

浴槽は、さらに奥壁中央に薬湯槽がある。日替わりらしく「日本の名湯めぐり」とある下に「別 府」「有馬」「草津」「登別」など、有名な温泉地の名前がいくつも並ぶという、ちょっとした遊 び心がある。

今日はライトブルーの濁り湯の「別府」。ちょっと高めの湯温43度くらい。女湯には”葡萄の 目印”が下がっていたらしい。

平日の冷たい雨降り。17:15から18:15に滞在。相客は入れ替わりで2人だけ。飲料の販売はな かった。

優しい人柄の大将。漁港の銭湯ながら少ない相客は荒ぶる感じはなく、この銭湯の佇まいとと 同様にあくまで静かだった。そして、古い設備ながら清潔に維持されている好ましさがある。 小さな漁港という風情あるロケーション。いい銭湯だった。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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