差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2011年5月26日木曜日 6:43
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 恵比須湯(さいたま市大宮区天沼町)

ナカムラです。

今日(5/21)は、「恵比須湯(さいたま市大宮区天沼町)」に行ってきました。 さいたま新都心駅(東北本線)から、1.2キロ、15分くらいです。

さいたま新都心駅で降りるのは初めて。旧国鉄・大宮操車場跡と片倉工業の大宮製作所の再開発のようだ。同湯は東北線の東側、片倉工業の再開発である「コクーン(繭)新都心」を抜け た天沼町にある。

駅からやや遠いけど歩いてアクセスできる距離。そこに激渋の「地方銭湯」が残っていた。

油井型の煙突を後方に抱く簡素な建物。前は数台のクルマを止めることができる駐車場になっている。到着したのは土曜日の21:00。着いた時は節電で軒灯などが消され、同湯の前は暗か った。

入口の鉄製門扉には手作りの「温泉マーク」がある。暖簾は古銭のデザインの花王の古いもの。 中に入れば、簡素な格天井の小さな靴脱ぎ場に、円形の傘立て。番台の後ろの簡素な造りの硝子戸が開いている。何とも言えない郷愁が満ちている。

番台の背にあたる部分のタイル使いが、ライトグリーンと淡いピンクの小タイルで鈴が連続す るような意匠。たたきもデザイン的なタイル敷き。ほのぼのした空間だ。

左右には行き止まりの廊下のようなスペース。松竹錠の下足箱と向かい合わせの壁に、古い据付け式の傘ホルダーがある。都心近郊ではお目に掛かれない地方銭湯の風情が濃い。

番台への扉を開ければ、古色蒼然とした激渋の空間が広がる。ただ、女将さんが座る番台だけは木組ながら新建材張り。女湯への視界を遮るやや大きな衝立を付けた時に化粧直しをしたよ うだ。

同湯は昭和33年の築創業という。ゆっくりと団扇を使う女将さんは「東京タワーと同じ頃」と説明してくれた。

脱衣所の広さは3間四方。天井は低い平格天井。木板を並べた簡素な男女境は漁師町の銭湯のようだ。床の板には年季が染み込んでいる。

ロッカーは、松竹錠アルミ板鍵の島ロッカーが縦置きに2つ。今は常連の湯道具置き場となっ ているものの入口方の壁に取っ手だけで錠がないオール木製ロッカーがある。これが創建当初からのオリジナルのロッカーようだ。

アナログ体重計は、表示部が水平で、乗っかる台と同じ高さ。ほとんど見かけない形状だ。 「KAMOSHITA SEIKOJYO」とある。こんな簡素な出で立ちながら160キロまで計測できる。その他、テーブルと冷蔵庫があるくらい。

22:00の仕舞いの時刻まで1時間を切っている。女将は相変わらずゆっくりと団扇を使い、4人ほどの相客は、入っている人も上がった人も、みんな印象的なくらいに動きがスローだ。地方銭湯以上に地方を感じる。開け放たれた脱衣所には夏風すらゆっくりと流れて行く。

浴室は、幅3間、奥行4間。天井は2段型。元々なのか節電だからか明るくはない幽玄な空間。 やはり心地良い風が流れている。

島カランは1列で、カラン数はセンターから4・4・4・0の計12機と少ない。壁は10センチ角の古風な白タイルながら床はユリ模様のタイル。カラン周りは御影石調に更新され清潔に磨かれている。湯桶なども入口脇にピカピカのものが綺麗に俵型に積まれている。かなり清潔な洗い場だ。

浴槽は奥壁に接する深浅2槽。何れも焚出し口のみのシンプルな浴槽。パール色のタイルの浅 槽は43.5度と少し熱め。群青タイルの深槽は44.5度と熱い。入れない温度ではないけど、焚出し口からかなり熱い湯が連続して注ぎ入れられていることもあって、まず浅槽に少々水を入 れて入った。

井戸水を重油や廃油で沸かしている。熱いので柔らかさを実感するまではいかないものの、さ りとてピリっと硬い感じでもない。清澄なすっきりとした湯だ。

幽玄な雰囲気のなかで、唯一の相客は熱い湯に入ってはうなだれるように休んみ、また入ってと、それをを何度も何度も繰り返していた。この郷愁銭湯を味わうにはそんな入り方が似合う。 そして、小生もそんなスタイルで2つの浴槽を何往復かする。

ビジュアルも特筆ものだ。奥壁一面に中島さんの「石川県見附島(20.12.15.)」。立って眺めれ ばペンキ絵の下端は小生の肩の高さくらいか。低い位置から絵が始まっている。そして、この ペンキ絵は木板に直接描かれている。神奈川県の銭湯にいくつか例があるけど、埼玉県で直書きのペンキ絵に接するのは初めてだ。東京銭湯でも1つ遭遇したかどうかだと思う。

そして男女境にはモザイクタイル絵。カルデラ湖なのか中央に湖を置き、その後ろ全幅に雪を 頂いた高嶺が描かれている。他には、教会と白樺が描かれている程度。あまり見ない、少し妙 な絵柄だ。その上には大きな観葉植物の鉢が載ってそこそこ存在感がある。

上がりは、メグミルクの瓶牛乳。何もない庭に面した濡れ縁で風を感じながら頂く。子供時代、 体調を崩すと普段は買ってもらえなかった「明治ハネーヨーグルト」という瓶入りを食べさせ てくれた。いつしかほとんど目にしなくなったけど、冷蔵庫にはメグミルクだけど、懐かしい昔ながらの瓶入りヨーグルトが並んでいた。。。

土曜日の閉店前、21:00から21:50に滞在。閉店近くなると若い人が3人ほどやってきて、相客 は都合6人ほど。最高気温が28度を超えたこの夏一番の暑さ。都心に近い銭湯ながら流れてい る時間があまりにものんびりしていることが印象的。"地方銭湯"の趣十分な優れた郷愁銭湯だった。そう、トイレは都会では見かけない簡易水洗だった。。。

外に出れば、相方は何でこんなにもいい銭湯を隠していたのかと聞いてくる。気にはなってい たものの隠していたわけじゃない・・・。彼女は同湯を「寂」と一文字で総括していた。女湯 の庭は広く庭池もあったようだ。

さいたま新都心駅周辺の近未来的な風景とはとはあまりに隔たりのある趣き。それに驚きなが らも、小生同様に高い評価をしているようだった。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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