差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2013年2月2日土曜日 8:33
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: えびす湯(下関市今浦町)

ナカムラです。

今日(12/23)は、「えびす湯(下関市今浦町)」に行ってきました。 下関駅(山陽本線)から、0.6キロ、7分くらいです。

旦過市場近くのホテルを出て、旦過市場を通り、日本最大のバス会社でもある西日本鉄道のバスで 枝光駅を目指す。もちろんJRで行った方が早いけど、バスの方が市街地を縫って走るので街を見る には好都合だ。

枝光の東田地区は、日本の製鉄業の発祥である官営八幡製鉄所(日本製鉄、八幡製鉄、新日本製鉄 を経て、新日鉄住金)が置かれた所で、その工場跡地はスペースワールドに、高台の広い製鉄所事 務所跡はダイワロイヤルホテルに変わっている。

多くの従業員が働いた製鉄所で栄えていた商店街。その背後にあった白川遊廓(高炉温泉)跡など を見て回る。しかし、寒く風が強い。雪すら舞う天候。街歩きは捗らない。予定の1/3くらいで切 り上げた。

白川遊廓は、坂の途中に長方形に広がっていたようだ。近くの古い理髪店に飛び込み、古老の趣の 大将に尋ねれば”もう何も残っていない”との答え。しかし、該当する一角の建物を子細に眺めて いくと、黒瓦を載せた旧妓楼と思われる大きな建物が、アパートに姿を変えて残っていた。正面に 2階への階段兼外廊下が増築され、エントランスは完全に失われているなど、大きく姿を変えてい る。確たる自信はないけど、白川遊廓の名残だと思い、次なる目的地、戸畑に移動した。

戸畑駅から洞海湾に面する旧築地町(現銀座町)の遊廓跡は、昨冬歩いている。今回は、南側に広 がる市街地を起点に、昭和湯、朝日湯、中将湯、明松湯を経て、隣駅の九州工大前駅までの銭湯の 繋ぎ歩き。北九州の銭湯は、開店の時間が16:00くらいと遅く、どの銭湯も暖簾が下がってはいな い。その中では、基部が煉瓦積みの古い煙突が残っている朝日湯と中将湯に強く惹かれた。

さる”北九州の銭湯ファン”氏からメールを頂いた。朝日湯は、内部はかなり更新済み。小生が廃 業か?と感じた中将湯は盛業中で、内部はかなり”昭和”が残っているらしい。そして、明松湯は 既に2007年に廃業しているようだ。情報感謝。

さて、旧明松湯近くのスーパーのスピナ(元製鉄所の購買所、テツビルストア)の立派な鉱滓煉瓦 積みの塀を眺めていると、辺りは吹雪になった。いい加減、熱い湯が恋しくなってきて、九州工大 前駅から関門トンネルで本州に戻り下関に向かう。

下関も昨冬に続き1年振り。その間に、去年は休業で入れなかったカルシューム温泉は、そのまま 廃業してしまった。

今回は、大正5年創業。昭和25年頃築の煉瓦煙突を持つ、熱い湯の漁師町の銭湯えびす湯に向かう。 遊里だった新地西町に通じる道すがらにある。漁師だけでなく、遊廓へのひょう客や、お女郎さん も通ったと想像している。

屈曲した道の両脇に、長屋のように家並みが密集している。同湯はそんな中の一軒。タイル張りの ファッサードの建物は、間口が狭く、かなり細長い建物だ。

海峡の町の下関はいつも風が強い。風に翻った暖簾を潜り扉を開ければ、いきなり脱衣所という構 造。コンクリのたたきの両側には、グレーの化粧板が張られた木組みの番台と、古く珍しい松竹錠 の金属板鍵の下足箱がある。相方が下関の銭湯の料金、1人390円を払う。

脱衣所の広さは、幅1間半、奥行は1間弱のたたきの部分を含めて5間ほど。今までも何軒か経験 があるけど、幅としては最小の銭湯だ。床は、幅と厚さがある木板で組まれた、惚れ惚れする黒光 りした板の間。高さ2間弱の天井も、男女境も木板を組んでクリーム色のペンキを塗ったイニシエ 仕様。漁師町の銭湯の風情を強く感じさせられる。

何年か前、銭湯家の町田忍さんが、市の広報で下関の銭湯を連載されていた。どの銭湯を選ぶかで、 今回も参考にさせて頂いた。その取材時のものだろうか、男女境には誇らし気に色紙が飾られてい る。

ロッカーは、オール木製。錠はツルカメ。丸籠も現役で使われている。狭い空間ながら年代が違う 旧型マッサージ機が2台、Yamatoのアナログ体重計、木製の縁台、家庭用冷蔵庫、”パックマン” のテーブルゲーム機、ブラ下がり健康器などが置いてある。

浴室の扉には、かなり大きな”浴室内禁煙”というプレートが張られていた。昔は浴室で紫煙をく ゆらす輩が居たらしいけど、そんな昔の掲示には見えない。。。

浴室の広さは、幅1間半、奥行5間ほど。プラ板張りの細長い四角錘型の天井の中央に湯気抜きが ある。天井には電球色の円形照明器が増設されている。寛ぐための空間照明というものへの理解が ある。古い銭湯としては、珍しいことだ。

カランは、浴室の手前1/3くらいの両側に、センターに3機、外壁側に4機、ツルカメの見た目小 さな可愛らしいカランが並んでいる。壁のタイルはシンプルな中判の白。上部には緑色の菱形を連 続させた、マジョリカタイルによる装飾がある。床のタイルは、足触りのいい、えんじとクリーム 色が市松模様に並ぶ。

浴槽は、入口脇に家庭用ステンレス浴槽を床に埋設した水風呂。カラン3機を隔てて、男女境に接 した緑色の人造石研ぎ出しの縁を持つ主浴槽。設備は2穴ジェット×2。湯温は44度。さらに、奥 壁に接した40度くらいのオレンジ湯の小さな薬湯槽。

浴槽からの汲み出しがデフォルトのようだ。主浴槽の周りにはカランの設置はないものの、小石タ イルが張られた湯道具の台は、奥までずっと続いている。

ビジュアルは、奥壁に半間四方の絵付けのタイル絵。絵柄は池に鯉が泳ぐ図。あまり古いものでは ないようだ。

日曜日の17:35から18:30に滞在。漁師町の風情を残す下関の一軒。長い歴史と独特の狭さが心地 いい。また、狭い浴室だけど、熱い湯から、温い薬湯、水風呂までと、温度のバリュエーションは 完璧だ。

何より一番の印象は、相客がみな朗らかで陽気、人が良いことだ。冷えた身体の小生が熱い湯に躊 躇していると、相客の爺が”ここは日本熱いんだ”と笑いながら、水を投入してくれた。雪すら舞 う寒い日曜日の夕方、それなりに混んでいたけど、広くはない銭湯で、ご常連同士思い思いに寛ぐ いい雰囲気に満ちていた。そして、明るく清潔。郷愁銭湯ながら、バリバリの現役銭湯だ。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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                        関門トンネルを出て




                            下関駅




                     下関の繁華街にある霧島湯