差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2004年4月24日土曜日 11:30
宛先: 銭湯ML
件名: 富士見湯(荒川区荒川)

ナカムラです。

今日(4/23)は、「富士見湯(荒川区荒川)」に行ってきました。和田さん推奨の「究極のレトロ銭湯」です。

三ノ輪駅(日比谷線)で降りて、吉原の投げ込み寺、浄閑寺の脇を通り都電に乗り換え。荒川二丁目駅で降りて0.1キロ、1分ほどです。

都電荒川線に乗るのは10年振りくらいかな。過去に何回か乗ってるけど、夜に乗るのは初めて。ローカル線的な、いい雰囲気があった。

路面電車は、電車から降りるとすぐに町がある。曲がりくねった通路や階段を通らなくて済むのがいい。荒川二丁目駅の裏手は、日本で最初の下水処理場の三河島処理場と荒川自然園があって、暗さが濃い。反対側の富士見湯のあたりは、小さな商店が連なっている。同湯はそんな通りから、数メートル奥に入口がある。左手奥には屋号を記したコンクリの煙突。

入口両サイドには、茶色のタイルが貼られ、その上にはガラスが嵌められている。ここまでは普通の銭湯。でも、その上が漆喰で固められて、古い日本家屋の玄関風になっている。

その奥の脱衣所棟が凄い・・・。全面がこれも古い日本家屋風で、茶色の薄い板をウロコ状に張った下見板張りになっている。銭湯なのでそれなりの高さがあるけど、正面に窓がないのも、構造面で特徴的である。(暗くてよく判らなかったけど・・・。恐らく・・・。)

暖簾をくぐると先客と女将が出てきた。女将が下足箱から靴を出して客を見送っていた。暖かい白熱灯の灯りが漏れている。スーツを着ているから、ふと思いつきで寄った客と思ったのか、女将はタオル貸すよ、石鹸も貸すよ、アカスリも貸すよ・・・と。そして、「今、誰もいないから、ゆっくりしていきなよ」と。

下足箱は松竹錠。女将と話しながらだったので細部は見忘れてしまった。戸を開けると番台。全面がカーブしている黄土色の新建材を貼ったもの。

脱衣所は3間四方。天井、四方の壁が全て漆喰の壁なので、一見して、洋風の印象を受ける。昭和23年に建てた時は折上格天井だったが、昭和27年の改装の時に、天井と壁とを漆喰で塞いだとのこと。

男女境の上に逆U字型の古い白熱灯の照明器が下がっている。∩字の先に60ワットの白熱灯が1個づつ付いている。ガラスの電球笠は失われているけど、極めて印象的なものだった。天井の取り付け部には、洋館で見られる、円形の籠手絵による装飾がある。天井の真中にある、この意匠が洋風的な雰囲気を倍加している。昔は、浴室もこの印象的な照明機が2つ下がっていたとのこと。

照明器はその他に、昔の日本間に下がっている白いガラスの電球笠がついた100ワットの白熱灯のシーリングランプが2つ。アンティーク店の定番商品が現役でいる。これらの電球の暖かい灯りが、この銭湯の和みと癒しを演出しているんだと思う。

外観はよく見えなかったけど、夜に訪れるべき銭湯だと思う。

ロッカーは縦置きに島ロッカー(10個)が2つと、入口側の壁にもロッカー。錠は松竹の板鍵。天井には、3枚羽根の扇風機、なんか丸っこい印象的な形だった。改装時に姉の店から中古をもらったものとのこと。

その他、お釜式のドライヤー、旧型のマッサージ機、旧型のビニール張りのソファー、ケイホクのアナログ体重計。体重計は「静かにお乗りください」の下が、ガムテープで隠してあったので、他の銭湯のお下がりのようだ。

それと番台の上の棚に、洋人形が3人座っている。なんかこの洋風的空間に似合っている。

浴室は、幅3間、奥行き4間。天井は2段型。島カランは鏡すらないプレーンなものが1列。カラン数はセンターから7・5・5・7でカランはWaguriの角型で取っ手が平べったいもの。シャワーは両サイドにのみ付いている。

タイルは床、壁と薄黄色を基調としている。新しいもので特段の特徴はなかった。しかし、カランを取り付けている面のタイルが、缶酎ハイ「氷結果汁」の缶のような模様で、さらに鏡のようになっている。湯垢で輝いてはいないけど、珍しいし、派手なタイルが嵌められている。

風呂は一見して井戸水。鉄分が多いためか、浴槽のタイルに色が付いている。深さ100メートルの井戸から水中ポンプでポンプアップしているとのことだった。隅田川東側の荒川区は水が良く、ほとんどの銭湯は井戸水で、水脈が異なるため水もそれぞれに特徴があると主人。

浴槽は深浅2槽。浅槽は2穴ジェット×2。温度計は46度とかなり熱め。深槽はバイブラバス。浅槽に浸かってウォーミングアップして臨んだけど、10秒ともたない強烈な熱さ。とても入れる温度ではなかった。後から来た地元の人は、水をドンドン投入してたので、どのくらいがノーマルなのか判らなかった。

奥壁には早川師のペンキ絵。和歌山、平成12年4月15日となっていた。女湯には富士山が見える。いつもの早川調とは違って、平板というか、元気がないというか、そんな印象を受けた。

女将は、組合で一番客が少ない銭湯だと言っていた。明るくで笑顔が素敵な女将。失礼ながら年齢を聞くと83歳とのこと。「火葬場は近くにあるんだけどね」と笑ってた。

「木札貸して」と言われ、渡すと、エントランスまで出て靴を取り出して見送ってくれた。

主人か女将が病気でもしたら、恐らく廃業だろう。
女将からすれば、中年の小生も、孫みたいなものだろう。
当分元気でいてほしいと、強く思った。