差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2011年9月5日月曜日 21:18
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 藤乃湯(世田谷区玉川台)

ナカムラです。

今日(8/20)は、「藤乃湯(世田谷区玉川台)」に行ってきました。 用賀駅(東急新玉川線)から、0.6キロ、7分くらいです。

尾山台の洋菓子屋に使いのお菓子を調達しに行く。帰りに近くの休業中の松力の湯をチラ見。休業 中だけど庭木の刈り込みは万全。この端正な構えの銭湯に何としても入りたいと感じた。復活して ほしい。このまま廃業してしまうには惜しい。

さて、二子玉川駅で大井町線から新玉川線に乗り換える。広々とした多摩川の河原の風景は相変わ らず。好きな風景の一つだ。

今日と同じように雨が降りそうな曇り空の下、父が運転する車の窓から、併用軌道の二子橋を走る 玉電を追っかけながら間近に見た記憶が残っている。祖父の最期、生田の病院に入院していた昭和 44年頃の風景の記憶の1コマだと思う。

河畔の富士観会館も今は無い。風光を愛でる風情は無くなったけど、多摩川の風景はあまり変わっ ていないのかも知れない。一方で、高島屋の玉川ショッピングセンターができて、最近では東急電 鉄と東急不動産のRaiseがオープンしたりと、駅の周りは大きく変貌している。

かつての”玉電”の今の姿、東急新玉川線に乗り換えて用賀駅で下車。地蔵尊を過ぎてしばらく行 くと古いお茶屋さんがあって、その路地の奥に建っている。かなり広い敷地のお風呂屋さんのよう だ。

前に納屋があるので見事な唐破風の全貌を見渡せるアングルは無いけど、築50年は過ぎているとい う千鳥破風&唐破風の伝統的木造銭湯。創業から100年を超える。25年ほど前にフロント式に改装 され今の姿になっている。

鏝絵風の模様を施した唐破風の正面は塞がれている。右側面だったところにオリジナルに合わせた 黒瓦の屋根が継ぎ足されて、「湯屋」と染め抜かれた紺地の暖簾が掛かる現在の入口がある。入口脇 には「檜風呂 ふじのゆ」と刻まれた石柱。照明はあたたかい色の灯りが使われている。

暖簾をくぐったエントランスホールは、奥にもコインランドリーに通じる扉がある解放感がある” 土間”になっている。コンクリだけどタタキとは違う。蚊遣の匂いが流れる演出もあって、懐かし さと郷愁に満ちている。

極力、元々の構造と材料を生かしているという。フロントの場所は、元は番台のあった所。すり硝 子に「男湯」、「女湯」と刻んだ窓は、その位置を含め、オリジナルが保たれている。エントランス の天井は、平格天井ではなく品のいいデザインの網代の天井。かなり珍しい構造だ。

フロント脇、旧型さくら錠の下足箱の傍らに、畳一畳を超える大きさの彫りが深い手仕事の硝子絵 が見事だ。女湯側は鯉の滝昇り、男湯側はエンゼルフィッシュ。元々は、脱衣所と浴室の間にはめ 殺しで置かれていたビジュアル。目立っていないというか、判りにくいのが何とも残念な秀逸な工 芸作品だ。

モール硝子と木枠の硝子扉が、やや後方に移設され、脱衣所への入口扉としてがんばっている。脱 衣所の広さは幅3間、奥行3間。天井は長短の長方形を組み合わせた平格天井。窓枠には一部木製 のものが残る。天井はオリジナルのデザインを踏襲してはいるものの、古いものではないようだ。

島ロッカーは、空間を圧迫しないためなのか、Sakura2錠の敢えて腰高という低いものが横置きで1 つ。外壁にあるメインのロッカーは松竹アルミ板鍵。

その他、大黒柱には「AICHI」の大きな黒い柱時計、「KEIHOKU HAKARI」の何度もペンキを塗り直し た感のある茶色のアナログ体重計などがある。

同湯にはプラス300円でサウナがあるけど節電により稼働していなかった。外壁側に8畳間より少 し大きい感じで円形の浴槽(水風呂?)とカランいくつかの洗い場が付いたもの。コインランドリ ーもそうだけど、敷地が広いので増築部分が大きい。

浴室の広さは、幅3間、奥行4間。天井はペンキの剥離が目立ってきた木板ペンキ塗りの2段型。 島カランは1つで、カラン数は4・6・6・6。カラン周り、壁、床のタイルは、何種類か使われてい るものの、いずれも地が砂を散らしたような風合いをもつ陶器で、高級感と和の落ち着きが基調に なっている。

浴槽は、深浅2槽と男女境の上に檜の東屋が設えられた檜風呂がある。深槽は5点座ジェット×2、 浅槽はバイブラ。浴槽内側に黒いミネラルの付着があるので井戸水を沸かしているようだ。燃料も 恐らく薪。深浅2槽とも湯温は42度くらい。布袋に入った炭が沈められたやや濁りのある檜風呂の お湯は40度くらい。入りやすいいい温度だ。

ビジュアルは、浴槽の立ち上がりに奥壁から外壁側にかけてL字型に、この浴室のコンセプトに合 った渋い色調のタイル絵がある。高さ1メートル半くらい。紫色の菖蒲の花が、やはり緑ががかっ た陶器地に描かれたもので、品があって渋いものだ。

タイル絵の上、通常だったらペンキ絵のある部分は、下半分が男女境から延びる檜板の壁材が張ら れ、その上は高天井まで半間幅で檜の格子の装飾が施されている。

高窓の樹脂製の波板が真っ黒に汚れているということもある。節電で灯りがいつもより暗いのかも 知れない。和の内装で、抑制が利いた品がいいビジュアルを持つ同湯にとって、明る過ぎない照明 は、かえって幽玄な印象を漂わせる効果につながっている。いずれにしても、かなりデキル銭湯だ。

上がりは”土間”で瓶牛乳120円を頂く。フロントは大女将から若女将に替わっている。いい銭湯 にいい女将たち。土間構造ということもあって、どこか温泉場の雰囲気がある。

土曜日の17:45から18:30に滞在。最初は客が少ないと感じたけど、最後はどんどんと客が集まっ てくる。あたり前だけど、地元に支持されている銭湯のようだ。相方も珍しく高い評価を付けたよ うで、出て直ぐに、もう一度来たいなどと言っている。

上がりは、駅までの途中のハンバーガー屋でレーベンブロイの生ビール。”大”は少し持て余す大き さだったかな。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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