差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2013年2月9日土曜日 11:38
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 福の湯(国分寺市本多)

ナカムラです。

今日(1/18)は、「福の湯(国分寺市本多)」に行ってきました。 国分寺駅(中央本線)から、0.7キロ、8分くらいです。

今日は、最高気温が5度という、この冬一番の寒さ。今月末で、国分寺・福の湯が廃業と聞いてや って来た。巡りあわせで、何故か国分寺にやって来るのは寒い日が多い。

福の湯。小生としてはノーマークの銭湯だったけど、廃業の報を受け、いくつかのサイトを拝見す ると、浴室の床に亀甲型のタイルが使われた、優れた郷愁銭湯ということを知る。

金曜日の夕方、早々に仕事を切り上げ、東京駅から40分ほどの国分寺に向かう。未だ週初の雪が残 る北口の商店街を北上。途中、2軒ほどのレトロ洋菓子屋に立ち寄りながら行く。

同湯は、郊外の交通量が多い通りに面している。向かいにある広い敷地の寺から、油井型の煙突を 誇る全景を見渡すことが出来る。

昭和32年創業の伝統的木造銭湯。エントランスが無粋なモルタルゆえ、同湯の素晴らしさは外観か らは窺い知ることが出来ない。同湯だけが目的地では無かったなら、通り過ぎてしまうかも知れな い。道路の拡幅、あるいは、歩道の設置に伴う土地収用に掛かり、前庭と旧エントランスが失われ たのだろう。

アルミサッシの扉に、55年間の感謝の言葉と、1月31日を以て閉店する旨の告知が、カレンダーの 裏に、丁寧にしたためられていた。

中に入ると本当に狭いエントランススペース。正面には傘を縦に入れる方式の傘ロッカー。それを 避けるようにSakura-G錠プラ板使用の下足箱。番台への扉の足下に”男湯”とペイントされている。 足下に男湯表示があるのは、初めての遭遇だ。

扉を開けると、雲型の仕切板がある木組みの番台。予想していた通り、内部は本当に素晴らしい。

脱衣所の広さは、幅3間、奥行3間半。天井は飴色の折上げ格天井。それぞれの木製建具には繊細 な意匠が施されている。ロッカーは、外壁側に筆記体で”Oshidori”と刻印がある小さなアルミ板 鍵をロータリー式に操作するもの。

彫刻が施された、あたかも”額”に入ったような、大きな男女境の鏡や、蛍光灯が入った乳白色の 硝子の円筒が、十字にクロスする古い照明器がいい。横浜の旧日本橋花街の銭湯、大和湯(廃業) にあった照明器を彷彿とさせる。その他、漢字で”北東衡機(福島)”とある古いアナログ体重計、 フジの旧型マッサージ機などがある。

浴室の広さは、幅3間、奥行4間ほど。足を踏み入れた時、昭和30年代の銭湯の原風景が、これほ どまでにいい状態で残っていることに息を飲む。

床のタイルは、厚さのある亀甲型のタイルが、平滑かつ精緻に張られている。いつもながら、目地 という緩衝がない精密な施工に職人魂を感じる。壁は少し黄ばんだ古い白タイル。その上部に雷文 模様のマジョリカタイルが走る。男女境は膨らみのあるタイルを巧み使った幾何学模様で、ゆった りとした気分にさせられる。

島カランは、プレーンなものが1つ。カランはセンターから6・3・3・6。ピカピカに磨き込まれて いる。島カラン側面の古い白タイルには、染みのような黴の浸潤があって、長い時間の経過を示し ている。そして、面取りのための竹割タイルがふんだんに使われている。洗い湯を流す、白磁でU 字型の溝も美しい。。。

浴槽は、奥壁に接する深浅2槽。大きな銭湯なので、郷愁銭湯の四ッ谷・蓬莱湯と同じく、浴槽の 縁は緩い円弧を描くように手前に広がり、浴槽の広さを確保している。内部には黄味がかった緑色 の3センチ角のタイルがいい味を出している。

浅槽はバイブラで42度くらい。深槽は何らの設備のない浴槽。湯面はかなり熱かったものの、かき 回したら42.5度くらいだった。寒い今日には少し温いものの、柔らかい清澄極まりないお湯。じっ くり、この空間を味わうには丁度良かったかも知れない。

ビジュアルは、奥壁に、絵具が擦り減った鈴榮堂・章仙の手による”池に鯉”の絵付けタイル絵。 さらに、早川さんの富士山のペンキ絵「西伊豆(H19.9.3.)」。微かな退色があるけど、割れやくす みは皆無。状態がすこぶる良い。亡くなられて4年近く。最も美しい姿で残っている早川作品の1 つだろう。

上がりは、10円マッサージは電源の関係で使えなかったけど、濃密な空間を味わいながら瓶牛乳を 頂いた。

金曜日の19:40から20:30に滞在。入っては、椅子で休むということを繰り返していると、どこと なく湯治場の雰囲気すら感じられた。外観が少し惜しいのだけれど”脱いだら凄い”掛け値なし第 一級の郷愁銭湯だった。また訪れたい。。。しかし、今月末、1月31日で55年の歴史を終える。

上がりの一杯は、駅との途中にある”日本橋亭”という居酒屋。ドア入るなり、手をアルコール消 毒させられた。テーブルの小皿は紙でラッピングされている。なかなか衛生管理の行き届いた店。 刺身が充実。期待していないのもあるけど、サービス、味と、まぁまぁ満足出来るものだった。

しかし、国分寺は寒い。。。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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URL: http://furoyanoentotsu.com(風呂屋の煙突)
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