差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2012年8月14日火曜日 21:46
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ふくの湯(文京区千駄木)

ナカムラです。

今日(8/3)は、「ふくの湯(文京区千駄木)」に行ってきました。 本駒込駅(東京メトロ南北線)から、0.6キロ、6分くらいです。

今日は、19:30に退社し、西日暮里駅から動坂坂通りを上ってアプローチ。こちらからは、1.8キ ロほど。

千駄木と、旧本郷区の駒込という意味の”本駒込”の境にある。付近は戦災を免れた地域のようで、 同湯の隣ほか、関東大震災後特有の銅板張りの建物が多く残っている。同湯も戦前からの銭湯のよ うで、昭和22年の航空写真を眺めると伝統的木造銭湯らしき大きな建物を確認することができる。

4年ほど前、旧富久の湯時代に、シャビーなビル銭湯という外観を眺め、入浴せずに立ち去ったこ とがある。あの富久の湯が、昨冬、フルリノベートし、心ときめく銭湯に変貌したということで気 になっていた。

動坂を上がって同湯の外観を見ると、電球色の灯り、和の装いが満載になっている。「戸越銀座温泉」 との類似性から、直ぐに今井健太郎氏の仕事だと感じる。

ビル正面には「動坂サウナ」とある廃墟的な入口が残っているものの、同湯は2階にある。洒落た 屋根を設えた側面から階段でアプローチする。昇り口には、ファッサードを印象づける繭型の切り 欠き。階段の脇には水鉢が置かれ、水が落とされている。

高齢者用のリフトを併設した階段を昇れば、木製枠の2枚扉があって、硝子には、スリ硝子で屋号 が刻まれている。古い和風旅館の玄関を意識した造りだろうか。

中に入ると狭い靴脱ぎがあって、正面にフロント、左右に旧型さくら錠の下足箱。新調の下足箱に、 敢えて骨董的な旧型さくら錠を移植していることに、先ずは驚かされる。初めての遭遇だと思う。

風呂銭は薄型の券売機でチケットを購入する方式。入浴料は450円。大々的な中普請でも、サウナ は設置されなかったようだ。これも、ひとつの見識かも知れない。

脱衣所は、3間四方くらいか。やや狭く見える。両側にあるロッカーは木製のもの。扉に記された 表示も、亀甲の中に漢数字だったり、”いろはにほへと・・・”だったりと、それ自体が内装の一部 になっている。

天井は全面的に入れ替えられ、照明は吊された正六角形の木枠に、レトロ旅館の大広間にあるよう な、房のついた乳白色楕円形の照明器がいくつも下げられている。この辺りも女湯とは全く違うよ うだ。下はカーペット敷き。流しは陶製の鉢が使われるなど凝っている。

同湯では、週替わりで男女が入れ替わる方式を取っている。今日は「大黒天の湯(人工ラジウム温 泉)」が男湯。広さは、幅3間、奥行4間。天井は、男女境が最低部、外壁側が最高部になっている M字型で、平均すれば高さ2間ほど。

島カランは1列で、カラン数はセンターから5・3・3・3。関西式の湯桶を載せる台があるもので、 カラン周りは床と同じ黒を基調としたシックな材料でまとめられている。小生は使わないけど、ボ トル入りのシャンプー類が無料で提供されている。

中普請といっても、全ての設備と内装が入れ替わったフルリニューアル。寛ぐことができる落ち着 いた雰囲気がある。それはちょっと驚くくらい。新築の戸越銀座温泉と違って、古いビル銭が、こ こまで快適に仕上がるのかと軽い感動をおぼえる。要所の太い丸柱など、古いビルということを示 しているけど、それすらも、和の古典的模様のタイルを纏わせ、いいアクセントとしている。

何より、正面奥壁の、湾曲したシンプルなタイル絵に眼を奪われる。能舞台をイメージしたのだろ うか、金色を背景に、幹をくねらせた松木一本だけが描かれている。省略技法による美しさが際だ つタイル絵だ。その上には中島氏の手による赤富士のタイル絵がある。

さらに、男女境の向こうに丸山氏の富士山のペンキ絵がある。余りの豪華さに眼がクラクラしてく る。一軒の銭湯で、ペンキ絵の最高峰の両氏の競作を見ることができる。何と贅沢な空間か。これ だけでもえっちらおっちら、動坂を登って来る価値は十二分にある。

浴槽は、奥壁に3つに区切られた実質1つの浴槽。男女境側には、縦置きで、ボディーマッサージ と2穴スーパージェット。外壁側にはラジウム湯なのか、焚出し口から湯が落ちるスペースがある。 真ん中の主浴槽は、手前だけでなく奥壁の湾曲になった部分も、半身浴ができる段になっている。 混んでも、昔の銭湯がそうだったように、自然と向かい合わせの入浴を促すかたちになっている。

「ラジホープ」という入浴剤が入っているらしい、鉱泉的な香りがして、微かに白い濁りを感じる お湯。温度は42度強。実質1浴槽ということもあって、想像よりもちょっと高めの普通の温度だっ た。

松のタイル絵の前でゆったりと半身浴。”能舞台”に居ると言ったら言い過ぎだろうけど、浴槽が照 明で浮き上がるようになっていて、そんな印象を受けた。

ビジュアルは、奥壁のタイル絵とペンキ絵の他、男女境の上部が木製になっていて、アクリル絵具 だろうか、カラフルな大黒様、厳島神社の鳥居、宝船が愉快に描かれている。

金曜日の21:00から21:45に滞在。混んでいるというわけではないものの、普段使いのご常連と ともに、連れだってやってきたという風な父と兄弟など、客は途切れなく入れ替わっている。

古いシャビーなビル銭、旧富久の湯がここまで快適に仕上がるものかと感動した。中島氏と丸山氏 のペンキ絵の競作というのもシビれる。付近の戦災を免れた古い付近の建物とともに、長い歴史を 持つ銭湯が、今風に変貌を遂げている。いい銭湯だ。

上がりは、千駄木駅へ降りて絶品担々麺の「毛家麺店」で生ビールが頭をよぎったものの、より近 い、本駒込駅や白山駅方面に進んで、店締めの鶏を料理していると標榜している「鳥幸」という焼 き鳥屋に入った。しかし、可もも無く不可も無く、値段も普通の、ただの焼き鳥屋だった。。。

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