差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2011年8月10日水曜日 22:17
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 源ヶ橋温泉(大阪市生野区林寺)

ナカムラです。

今日(7/19)は、「源ヶ橋温泉(大阪市生野区林寺)」に行ってきました。 寺田町駅(大阪環状線)から、0.7キロ、8分くらいです。

新世界から心斎橋の大丸百貨店(大正14年)へ。ここはヴォーリーズの設計で、日本で最も建物が 優美な百貨店といわれている。エレベーターホールや中2階や、そこまでの階段の造りが美しかっ た。隣の船場あたりにも大阪農林ビル(昭和5年/旧三菱商事)など古いビルが多く残っている。

さて、源ヶ橋温泉。天王寺駅経由で寺田町駅に向かったけど、天王寺駅の正面の角地に建っていた 近鉄百貨店の西館(昭和12年)が無くなり、高層ビルが建設中だった。近鉄が身の丈を超えるとも 思える大きな投資。これによって、村野藤吾が改装などで深く関わってきた百貨店建物の主要な棟 が消えた。何回も前を通っているけど、村野藤吾マニアとして足を踏み入れなかったことが何とも 悔やまれる。。。

寺田町駅を降りると、直ぐに相方が銭湯の煙突を見つけた。煙突の基部は煉瓦積みになっている。 電話帳には掲載されていない銭湯。携帯のGPSでは捕捉できずノーマークだった。しかし、表に回 ると「大和温泉」という、確かな現役銭湯だった。

そして同湯は駅から少し離れた生野本通り商店街という細いアーケードを進んだ所にある。

外観をゆっくり眺めていると、蚊に喰いまくられるのだけど、コンクリの煙突を擁するスクラッチ タイル張りの洋風のファッサード。木製のアーチ型と円形の窓。趣十分だ。

乱調というかパロディというか、屋根には鯱、アーチ窓の横に”入浴”の洒落だろうか、”ニューヨ ーク”の自由の女神がある。さらに、エントランスのアプローチには石造の「源ヶ橋」が架かる。 なかなか東京のセンスではこうはならない。この混沌、大阪的だなぁと感じる。

エントランスホールは広く天井も高い。番台への戸を開ければ木組のどっしりとした番台。大柄で はない大将がやや沈み込んで見える。

脱衣所の広さは、幅3間半、奥行4間半。天井は比類ない洋風の折上格天井。恐らく、ブリキをプ レスして模様をあしらったものだろうけど、越前大野・改盛湯や、松本・塩井の湯のような平面で はなく、同湯のものには、やはりブリキのプレスだろう、厚みのある「格子」がある。見たことも ない豪華な雰囲気を醸し出している。

天井の周囲には欄間のような装飾が施されている。浴室に面したその部分は石組で、それを潜って 浴室へアプローチする。男女境は、鏡が2段の高さではめられ、黒塗りの枠も上品で高級感が漂っ ている。それ以外にも細やかな造作が随所にある。

ロッカーは、折鶴錠のものが外壁側に整然と並ぶほか、男女境の鏡の下にある。籐を敷いた広間に はテーブルと縁台くらいで余計な物がない広い空間が保たれている。

庭は、奥行2間はある立派なもので、庭池には石橋が架かる。傍らに石碑がある。中国の風景を模 したものだろうか。

浴室は、幅3間半、奥行5間。白いタイル張りの壁と、四角錘型の天井を有する大きくかつシンプ ルな浴室。しかし、浴槽だけでなく、床や、関西式の湯桶を乗せる台を含むカラン周りなど、ふん だんに御影石が使われ、落ち着きながらもゴージャスなものだ。

カラン数は男女境に11、奥壁に5。外壁側にカランはなく、立ちシャワーなどもない。ひょっとす ると大阪の銭湯では関東の銭湯ほど立ちシャワーという設備が一般的ではないのだろうか。

よく白い浴室の天井を見ると、なんとペンキ塗りではなく1センチ角の小タイルが全面に張られて いる。きっちりとした施工で少しの乱れもないものの、これほどに重力に逆らってのタイル使いを 知らない。接着剤や目地の劣化でタイルが剥離し落下する危険はないのか気になった。。。

浴槽は少し外壁にあるものの小判型のセンター浴槽で、踏み込み段がある総御影石造り。幅が1間 強、長さが1間半強ほどで2槽に仕切っている。手前は素の深槽で、奥側が4点座ジェット×2。さ らに奥壁と外壁に接する副浴槽が別にあって、電気風呂と岩風呂風のオパール原石風呂になってい る。湯温はオパール原石風呂だけが少しぬるく、それ以外は42度くらいと夏でも入りやすい温度だ。

さらに、同湯には無料で使えるスチームサウナがある。広い浴室なのですべてが浴室内に設えてあ る。脱衣所方外壁に接する形の明るいガラス温室のようなもので、6人程度が入れる大きなもの。 このスチームサウナと、男女境の水風呂を何回か往復する。水風呂も1段階段を上って入る関西様 式の水風呂だ。

ビジュアルが無いのが、凡人には物足りなく感じないでもないけど、外観、脱衣所、浴室などすべ てが”高品質”だ。これはこれでいいのだろう。帰りに手洗いをお借りしたけど、そこに繋がる外 廊下に出た所にも石灯籠が立つ小さな日本庭園があった。きっと、母屋を含め店以外の箇所にも建 築的には見所があるんだろう。。。

水曜日の17:40から16:50に滞在。相客は10人くらいか。混雑というほどではないものの間断なく 客の出入りがある。

上がりは脱衣所を子細に眺めながら瓶牛乳を頂く。

上がりの一杯は、環状線で2駅ほど上がって鶴橋に向かう。ここは東京には既に無くなった昭和20 年代の風景が大規模に残っている。コリアンタウンは駅から1キロほど離れている。行ったけど、 仕舞が早いようで、飲食店はほとんど店を閉めていた。

結局、旧鶴橋温泉近くの「アリラン食堂」。生ビールを頼んだら、小皿のお通しが6皿ほども出てき て驚かされた。これが韓国風なのかなぁ。

4年前に訪れた時は定休日で入れなかった鶴橋温泉は、その後廃業してしまったけど、スクラッチ タイルと丸窓の印象的な建物はそのまま残っていた。暗くて肉眼では見えなかったけど、暖簾の隙 間からカメラを超高感度に設定して番台裏を撮影。そうしたら、ブレてはいるものの同湯のシンボ ルの1つたっだステンドグラスが浮かび上がって来た。

昭和初期に建てられた隣の集合住宅は、厳重にフェンスで囲まれて閉鎖されている。また、同湯の 裏側はかなり広い面積が更地になっていた。一見して、権利関係が複雑そうな鶴橋。そのために鶴 橋温泉の建物も残っているんだろうけど、ステンドグラスが無くなる日は遠くないのかも知れない。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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URL: http://www7a.biglobe.ne.jp/~masayuki/ (風呂屋の煙突)
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