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差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2013年7月4日木曜日 22:00
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 八幡湯(鳴門市撫養町黒崎字八幡)

ナカムラです。

今日(6/17)は、「八幡湯(鳴門市撫養町黒崎字八幡)」に行ってきました。 鳴門駅(鳴門線)から、1.5キロ、18分くらいです。

山陽本線舞子駅上の高速舞子バス停から、淡路島を経由して、高速鳴門バス停まで、高速バスで一 気に移動。鳴門市の撫養の旧養老湯とその至近の林崎遊廓跡や岡崎遊廓を回る。鳴門の東浜温泉、 錦湯跡(最近廃業したようで更地になっていた)、東湯、とレンタサイクルで周り、照準を定めてい た八幡湯へ。

道路に面しているのは母屋なのだろうか、銭湯は溜池からの小川とその建物の間を少し入って行く。 営業時間は17:00から19:00くらいと聞いていたけど、16:30には既に暖簾が掛かっていた。母屋 に声を掛け、相方が女将さんに2人分の風呂銭を渡す。1人330円というのはかなり安い。いつか らなのだろうか、ずっと値上げを見送っているのだろう。

みんなここで泳ぎを覚えたという小さな川の畔。コンクリ煙突を有する小さな小さな古銭湯。付近 が田んぼと塩田だけだった90余年前、現在86歳になる大将の二代前、祖父が開業。今もその当時 の建物で営業している。

切妻妻入りの建物に、ポーチなどのエントランス特有の造作はなく、紺地に赤で屋号を染め抜く5 房で短い東京銭湯で見る形式の暖簾が、硝子の引戸に掛かっているのみ。ただ、いきなり脱衣所で はなく、奥行50センチくらいだろうか、古い靴棚が向かい合わせになった独立した靴脱ぎスペース がある。

17:00まで客は来ないというので、断って写真を撮らせてもらっていると、人懐っこい笑顔の大将 が入って来た。そして、第一声、”もうやめるんや”という言葉に驚かされる。手持ちの燃料が尽き る、6月末か恐らく7月初旬には廃業する。人さし指と親指を広げ15センチくらい、残りの燃料を 示してくれた。4、5年前から考えていたけど、いよいよ夫婦お互いの体力に限界がやって来ての決 断だ。

学徒動員を経験。10人兄弟の末っ子ゆえ、小学校4年での繰上げ卒業後の航空隊志願を親にも告げ なかったという。板の間に座って、この建物と同様の時代を経てきた、大将の半生を聞いていた。 だいぶ無理もしてきた、その影響に苦労させられているようだ。

鳴門の遊廓銭湯だった旧養老湯に間に合わなかった寂しさと、図らずも同湯の閉店に巡り合ったと いう寂しさ。何か複雑な印象が残る。

脱衣所の広さは、2間四方。天井は板を太い角材で支える無骨なもの。男女境は簡素な板材そのま ま。床は幅広で長さが短い厚板を組んだ黒光りする創業以来のもの。大将が”板が痩せた”隙間を 埋めた跡が残る。高さが足りなくて造り替えたのだろうか。番台は木目プリント合板が張られてい る。

ロッカーは外壁側にアルミ板鍵のKing錠のもの。丸い脱衣籠も現役で、見たことがない粗く竹を編 んだもの。それを使わせて頂いた。

浴室は、幅2間、奥行2間半。天井は、ブリキ張りのフラットなもので中央に湯気抜きがある。そ の中央に棟を支える丸太が通っているのが見える。あまり見ない無骨な構造だ。壁は中判の白タイ ル。床は濃淡ブルーのものが市松模様に使われている。ビジュアルはない。極めてシンプルで小振 りな浴室だ。

島カランはなく、カランは外壁側に3、男女境に2。男女境の上部には2段ほどガラスブロックが積 まれ、番台と同じで、当初のものを高く改造している。

浴槽は、中央、男女境に接して1間弱四方のもの。熱めのお湯を好む客が多いけど埋めてもいいと、 女将さんは43度くらいに調整してくれた。さらに、奥に1人用といっていい副浴槽。湯温は42度 くらいとやや温め。いずれも蛇口から熱湯が注がれるだけ。濾過・循環の設備はないイニシエから のスタイル。大将は、カネも無ければ濾過機なんか置く場所もねぇと話していた。

空には夏空が広がり、時折風が入ってくる浴室。17:00前にやって来た相客2人の片方は、湯船に は浸からず、頭と身体を洗ってすぐに出て行った。もう1人も10分くらいで上がって行った。瀬戸 内海の島の銭湯は、みな入浴時間が短いけど、鳴門もそういった文化を引き継いでいるのだろうか。

月曜日の17:00から17:45に滞在。相客は3人。客が少なくなりずっと赤字。営業時間も17:00か ら2時間ほどになっている。客の数を尋ねたものの恥ずかしくて言えねぇと。若さにまかせてかな り無理にやってきたせいもあって、身体も綻んできた。とうに姿を消した塩田と比べ、ずいぶんと 踏ん張ってきた。しかし、老舗の鳴門・八幡湯にも暖簾を畳む時が訪れた。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
メイン:masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp  
URL: http://furoyanoentotsu.com(風呂屋の煙突)
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