差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2009年11月2日月曜日 23:11
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 平和湯(さいたま市浦和区東仲町)

ナカムラです。

今日(11/1)は、「平和湯(さいたま市浦和区東仲町)」に行ってきました。 浦和駅(東北本線)から、0.3キロ、3分くらいです。

浦和駅。時刻表では、県庁所在地駅を二重四角印で表示し、さらに特急列車の停車駅は緑色に 塗られていたと思う。そんな中で、浦和駅は特急が停まらない、珍しい県庁所在地駅というこ とで記憶に残っている。浦和を冠する駅は7つあり、歌まであるという。そんな乗り継ぎ駅で もない浦和駅で降りるのは恐らく初めてだと思う。

同湯はメインではない側の東口にある。正面にPARCOが入った公的セクターの新しい建物 が目立つ程度。どことなく辻堂駅を思い起こさせる新しさと閑散さがある。

同湯への道は、古い家などが点在する昔からの商店街か古い街道なのかと思わせる道。その道 からも煙突や浴舎が見通せるものの、入口はひとつ角を入って曲がり込んだ奥にある。

数メートルの花道の奥に、平入で赤いトタン屋根の脱衣所棟がある。そして外装が鮮やかな黄 緑のペンキで塗られた簡素なエントランス。紺地に「ゆ」とだけあるシンプルな暖簾。後方に 目をやれば、少しの明かりの残る夕空に、浴舎のものなのか、掘建て小屋のような屋根と丁寧 に整備された油井型の銀色煙突が映る。

暖簾を潜れば、古い地方銭湯の趣が強い。畳1枚強の靴脱ぎスペースの左右に、やはり畳1枚 ほどの簀の子が男女左右にある。松竹錠の下足箱に下足を放り込んで番台へ進めば、幅3間、 奥行2間半ほどの脱衣所スペースだ。

地方銭湯の趣とはいえ、ここは浦和。パルコや伊勢丹のすぐ近くでもある。番台は、低い位置 に置かれた、左右の視界を極力遮った「ボックス」タイプ。覗きこんでようやく品も教養もあ りそうな白髪の女将さんの姿が見えた。風呂銭は埼玉標準の410円。

聞けば、関東大震災後の昭和初年頃の建物という。天井は格天井が取り入れられる前の押縁天 井。古い日本家屋に使われていたものだ。

脱衣所自体は、床板も更新されているし、かつてあっただろう前庭部分に増築部が張出してい る。天井に陶製の電灯吊下げの器具だけが残る。今はたくさんの蛍光灯で照らされた明るく清 潔な空間が広がる。

ロッカーは、島ロッカーが1つと増築部にもロッカーがある。男湯に脱衣駕籠は無かったが、 女湯は駕籠のみでロッカーがないらしい。よくある男湯と女湯の「治安」の違いからくるもの。 繁華街に近い銭湯につき、その差は大きいのかも知れない。

その他、旧型マッサージ機、初めて遭遇する「MUSASHI」というブランドのアナログ体重計、飲 料ががっつり詰まった冷蔵庫。中にはスーパードライ280円もある。

浴室は、幅3間、奥行3間半の古風な造りの2段型の浴室。先日訪れた吉川・松の湯と同様で、 天井の断面が凸型で、1間半あるウィング部が水平の板張りで、外壁に近い部分が古風なアー ルを描いている。端の処理に関しては高天井も同様だ。

大きな空間ではない。しかし、昭和初年築とすれば、かなり大きな空間だったろうことは容易 に想像出来る。濃淡ブルーに塗り分けられたその明るい空間とその向こうに見渡せる押縁天井 の脱衣所の古くて広い空間。ゆっくりと長く流れてきた時間を感じる。替え難い雰囲気がある。

カラン島は1つで、カラン数はセンターから4・4・4・4。浴槽は奥壁に接するかたちで2 槽。外壁側がバイブラで、センター側の半分が実質6点座ジェットの寝湯になっている。

普段は井戸水をでだ沸かしているという。じきに井戸に戻せるだろうとのことだけど、隣接地 のマンション建設工事ので井戸が濁り、暫く水道を使っている。でも、燃料は薪。重油&水道 とは大きな違いがある。

サウナがない銭湯としては、まれな設備、水風呂が外壁脱衣所方にある。使っている相客がい ない中で3往復くらいする。

そして、何といってもこの銭湯の白眉は奥壁に広がる故早川氏のペンキ絵だろう。「平成一五年 七月三日/早川」と記された絵は「安達太良山」。同氏の故郷、福島に広がる山景だ。小生、安 達太良山のペンキ絵に接するのは初めて。微かに雪を頂いた晩秋の風景だろうか。濃淡の緑を 主体とした雄大な風景がある。そこに、ゆっくりと流れる時間が描かれている。皮肉にもこの 絵が劣化する速度よりも明らかにゆっくりとしている。この絵には水が描かれていない。多く の早川画と雰囲気を異にする要因だと思う。

さらなるビジュアルは、ペンキ絵の下に並ぶ2幅のペンキ絵。中普請時のものか絵付けのタイ ル絵ながら古いものではない。洋風ともいえる絵柄で、高嶺・白樺林・渓流と、山に囲まれた 湖というもの。ペンキ絵が安達太良山だったせいか、裏磐梯の五色沼を思い出す。男女境に広 がって下がる観葉植物も明るい浴室にマッチしている。

日曜日の17:10から17:50に滞在。相客は2人子を連れた父親など6、7人。現役感がある優 れたレトロ銭湯だった。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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