差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2009年7月26日日曜日 7:08
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 日の出湯(広島市安芸区矢野西)

ナカムラです。

今日(7/19)は、「日の出湯(広島市安芸区矢野西)」に行ってきました。 矢野駅(JR呉線)から、0.4キロ、4分くらいです。

昭和初期に全国の7割を生産した、かつら毛(かもじ)の産地。今はまったく寂れてしまった 感じの町だけど、町に産業があった時代があったようだ。

矢野に5軒あった銭湯も10年以上前から同湯のみ。今でも煉瓦煙突を使って薪で湯を沸かす。 昭和41年に経営を引き継いだので詳しいことは分からないとのことだけど、どことなく洋風 建築の面持ち。戦前物件なのかなと思う。

平入りのエントランス部に特徴的な構造物はない。ちょっとした庇の下に、茶色のペンキが塗 られ、取っ手に斜め棒が使われたレトロな扉が2つ。それぞれにレトロな書体で「男湯」、「女 湯」と赤字で書かれているのみ。しかし、球形の軒灯に赤字で「ゆ」と記されているのが、何 とも暖かい雰囲気を醸し出している。そして、2房の暖簾が男女別々に下がる。この辺りは京 都風。大阪風を通り越して京都の文化が伝播しているようだ。

かつて、洋館風の観音開きの窓であったというし、向かいの豪壮な和風建築とともに、同湯の 三叉路は独特の景観があっただろうと思う。

レトロなドアを押して入れば、いきなりの脱衣所で、コンクリのたたきに高い番台が立ってい る。下足箱はなく傍らに小さな下足棚と傘立てがあるのみ。

脱衣所の広さは2間半四方ほど。2階が載っているので、天井高は普通の居宅より少しばかり 高い程度。番台は黒の化粧板で造り直されている。脱衣所の壁は木目プリントの新建材。天井 は普通の白い天板が使われている。非水洗のトイレの戸はオリジナルで色ガラスが使われレト ロな感じだ。

ロッカーは外壁にあって焦げ茶色のオール木製ロッカー。錠は「IDEAL」。男女境の古い鏡 がなかなか秀逸だ。液晶テレビAQUOSの電機メーカーであるシャープの古いロゴがある。 色は赤だけど米・フォードと似たタイプのもの。地元電気店の電話番号には(呼)とある。電 気店にも電話が引かれていないなんて、いつの時代のものなんだろうか・・・。

浴室の入り口の傍らには流しがあって、その構造とタイル使いは同湯の見所かも知れない。マ ジョリカタイルで装飾された上に、流しの底には白磁のボウル状のものが埋め込まれている。 幅半間程度の小さなものだけど凝ったものだ。

そして、ブルーに塗られた浴室へのドアの上にも色ガラスが嵌められたりと、建物自体には洋 風の統一感があるけど、浴室の戸の上には檜皮葺きのような和風屋根が付けられているのがア ンバランスだ。

浴室はコンクリ造で、幅2間半、奥行3間。天井の真ん中に正方形の湯気抜きがある。ビジュ アルはない。何よりも清掃が行き届いていることと、コンクリ部分に塗られている濃いブルー のペンキの精緻さが記憶に残る。古いコンクリートに、これほど丁寧にペンキを施している銭 湯を知らない。古いペンキを丁寧に取り除いて、新しいペンキを塗っている。

洗い場は、長方形のセンター浴槽を取り囲むように、奥壁に6つ、男女境側に4つのカラン。 カランは「宝」マークのレバー式で、赤いレバーを押すとほとんど熱湯が出てくる。カップヌ ードルに注ぐことができる程の高温だ。小生はシャワーのない男女境側に座ったけど、ご常連 は間隔がやや狭いものの奥壁側に並んで座っている。

浴槽は、カランがない外壁側にやや寄ったかたちで設置されている。ジェットなど何もない深 浅2槽区切られている。縁の上面にはピンク色の魚の鱗状のタイルが使われた古風なものだ。 深槽はやはり広島特有の3段の浴槽。ここに水道水を薪で沸かした清澄なお湯が満たされてい る。

1日の客は30人ほどという。「何とか食べていける」という女将の言葉が印象的だった。30 人のご常連方は幸せだ。設備は古いものの、少数の客のための、メンテナンス度、清潔度はト ップクラスと言っていい。

*************************************************
ナカムラ (Masayuki Nakamura)
メイン:masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp  
URL: http://www7a.biglobe.ne.jp/~masayuki/ (風呂屋の煙突)
*************************************************