差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2009年4月19日日曜日 8:35
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 宝来湯(江戸川区江戸川町)

ナカムラです。

今日(4/17)は、「宝来湯(江戸川区江戸川町)」に行ってきました。 一之江駅(都営新宿線)から、1.0キロ、10分くらいです。

今日は、鍋喰らい部の月例会。森下駅近くの「みの家」という桜鍋の名店で鍋をつつく。その 前座として選んだのは、東京銭湯ながら地方銭湯の趣すら感じさせる小銭湯宝来湯。そして、 ここには週初に73歳で亡くなられた早川利光絵師のペンキ絵がある。

早川氏の絶筆は、東京銭湯ではなく埼玉の蒲生温泉だったようだ。既に訪れた方によるペンキ 絵の画像が、ネットにアップされていた。身体の不調を押しての作業だったという。細部の仕 上げがなされていない、痛々しい、まさに「絶筆」というもの。悔いが残るものだったに違い ない。

50余年ペンキ絵を描き続けて、図らずも銭湯の全盛期と衰退期を眼にしてきた。1日の終わ りには2杯の焼酎を旨そうに飲む人生。どんなものだろうか・・・。

これで、伝統的な銭湯のペンキ絵が絶滅危惧ステージへ1歩進んだ。寿命が短く描き替えが宿命のペンキ絵。現存する師のペンキ絵は、その数120プラスアルファらしい。残る丸山師と 中島師によって描き替わるのだろうか、それともそれらの銭湯から伝統的なペンキ絵が消える のだろうか。

そんなことをつらつらと考えながら、横須賀・総武線の馬喰町駅経由で、一之江駅まで1時間 ほど。都営新宿線の始発笹塚に長らく住んでいたもののこの駅で降りたことはない。環七の傍 らで地上に上がって、敢えて脇道に折れるものの新しい家しかない。ニュータウンのようで小 生にとっては息苦しい光景が続く。

しかし、古川親水公園の前にある寶来湯だけは周辺とは落差が大きいレトロなものだった。日本初の古川親水公園はかつての新船堀川が開かれるまでの旧船堀川。行徳塩田から江戸へ塩を運んだ運河だった。公園に改修後の小さな水路 からは想像が難しい大きな舟も通行したという。物流が陸運ではなく水運を中心としていたか つての時代の話だ。 ※ご参照:古川親水公園。〜ウィキペディア

建物全体に木目調焦茶色のカラートタンで外装されているものの同湯はそんな時代、昭和6、 7年に建てられた古い建物を現在に引き継いでいる。建物の形状がその歴史を語っている。後 方には銀色に塗られた油井型の煙突。周囲に薪が燃えるいい匂いを放っている。

入り口は、黒瓦の破風屋根。中に入れば新しい松竹錠の下足箱がある。同湯はこのあたりでは 珍しくなった番台の銭湯。小さくて低い昔からのもの。飾りなどはない。歴史が渋く茶色に染 めている。重量感のある印象的な番台だ。女湯サイドにも特に衝立などは立てず、オリジナル の姿を残している。

不覚にもタオルと石鹸を忘れて家を出た。風呂銭と藤色のタオルと石鹸とで720円を払う。 番台には小生よりも少しだけ上の感じの方が小さな番台に座っている。

脱衣所の広さは、幅2間、奥行3間ほど。天井は平格天井。天板はチープな木目印刷の合板に 置き換わっている。島ロッカーはなく、外壁側に脱衣かごが並ぶ棚と一部は松竹シリンダ錠の ロッカーがある。

男女境には「寶来湯賛江」という彫り込みがある古い鏡があって、その下1/3くらいには早川 氏の絵柄が上州のペンキ絵が描かれている。浴室への入口上には「盗難御注意」の手書きのポ スター。いったいいつの時代のものなのだろうか。

庭はつぶしてしまったのか、桶の湯垢を漬け洗いするのか家庭用のポリ風呂と飯場に置かれる ようなプレハブのトイレという殺風景な構成になっている。

さて浴室。幅2間、奥行3間半。想像していたよりも小さな銭湯で横須賀銭湯と同じ。まさに 「地方銭湯」だ。島カランは1つで、カラン数はセンターから5・2・2・0の計9機しかない。 15:30分開店後に入ったけど、一番風呂勢とその後に加わる客で大方のカランは塞がったまま で時間が過ぎて行く。

風呂は奥壁に接して1槽のみ。心持ち浅い浴槽で湯温は42度くらい。やわらかいいいお湯だ った。

そして、奥壁の早川師の西伊豆。平成十九年八月二十八日早川とある。古い銭湯で見られるよ うに、ペンキ絵の周囲の「額縁部分」に、剣をあしらったような装飾がある。それとコンパク トならが力強くはじけるる波しぶきを背景とした富士山はバランスが整っていて豪快な優れた ペンキ絵だ。

5年に1度くらいのペースで描き替えるという。前の前の絵までは中島師のペンキ絵だった。 特段のご指名による描き替え。早川師も力が入ったのかも知れない。ビジュアルはペンキ絵の 他に男女境に3幅のタイル絵。鈴榮堂ではない新しい感じのものだ。

上がりは、家庭用冷蔵庫に飲料がぎっしり入っている。ビールも3銘柄ほど入っていた。キリ ンラガー250円を頂きながら、客の途切れがなく撮影は叶わなかったペンキ絵をゆっくり眺め ていた。横浜からは遠いけど、違う季節に再訪したくなる東京の小さな小さな銭湯だった。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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小松川警察署は古い歴史を持つ警察署








男女境の鏡に描かれた早川師のペンキ絵


みの家
老舗らしい緊張感のあるいいお店だった。



伝統的な金魚鉢