稲荷湯（さいたま市浦和区仲町）

差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2010年2月3日水曜日 23:38
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件名: 稲荷湯（さいたま市浦和区仲町）

ナカムラです。

今日（1/29）は、「稲荷湯（さいたま市浦和区仲町）」に行ってきました。浦和駅（東北本線）から、0.5キロ、5分くらいです。

今日は大手企業の第３四半期の決算発表の集中日だった。コストを削って何とか利益を出している。多額のコストカットが先行すれば「明るさ」の回復は当分難しいかなという感じがする。

そんなことを考えながら、上野駅で中距離電車に乗り換え、浦和に向かう。

細い道だけど古い店が並ぶ「裏口通り」を、帰りに寄る居酒屋を物色しつつ分け入って行く。その通りを少し外れた所に堂々とした稲荷湯がある。埼玉県の銭湯は不案内だけど、同湯の建物の大きさは出色だろう。

もとは東京都新宿区の高田馬場駅近く、神田川に面した場所に昭和30年代に建てられたものという。そして、昭和52年に旧稲荷湯が道路拡幅で取り壊されるに際し、新しい稲荷湯の建物として、少し場所を移して高田馬場から移築された。

千鳥破風妻入の脱衣所棟に黒瓦千鳥破風懸魚付きの大型の旧エントランスが付く。前庭を潰して、フロントスペースの直方体建物が増築されているので、エントランスとしては使用されていないものの、脱衣所と合わせた風格は見事だ。東京の中心部にあった銭湯が出自と聞いて納得させられるものがある。

旧エントランスの右手に紺地白抜きの「稲荷湯」という暖簾。上に「公衆浴場」という、有りそうであまり見かけない古い感じの表示がある。

入口左手には銭湯に珍しい銅像が鎮座。丸山健吉翁明治29年（1896年）西蒲原郡生。大正6年の行田市の銭湯開業をスタートとして埼玉県の浴場組合設立に尽力された方。県浴場組合創立40周年の記念事業の埼浴会館とともに建てられた顕彰碑だ。昭和46年建立とあることから、この銅像もどこからか移設されたものだ。同湯にゆかりのある方なのだろうか。

一同、銅像に頭を下げながら暖簾を潜ることにする。

小さな靴脱ぎスペースに、Ｌ字型に旧型のさくら錠の下足箱が並ぶ。フロントへの扉は、西川口・富士の湯同様、やはり自動ではない。三代目に風呂銭を渡す。

脱衣所の広さは、幅３間半、奥行４間。天井は折上げ格天井ながら天板は木目プリントの新建材に替えられている。その他、一見して、変に手が入っていて、オリジナル度は低い感じだ。

そして、照明が少なく暗く裏ぶれた感じが漂う。男女境は安い材料で開閉式に改造。脱衣所内部に瓦屋根の東屋があって、使われていないボックス式の１人用サウナが捨て置かれている。

その他、SakuraⅡ錠のロッカー、万能台、ISHIDAの文字盤が膝の高さのアナログ体重計、脱衣籠もいくつか積まれている。大きいものの何となくユルい感じもある。

浴室も大きい。幅３間半、奥行４間半ほど。天井は２段型ながら、樹脂製なのかサブロク板大のパネルが木板の天井材の上から全面に打ち付けられている。床が大理石というのにも驚かされる。もちろん初めての遭遇。平滑な大理石なのに、意外にも滑らないことが不思議だった。

カランは、大きな浴室ながら島カランが１列で、カラン数は5・4・4・4。湯道具台は広いし、カラン数をかなり抑えた余裕ある設置になっている。

浴槽は、奥壁に接するかたちで３槽。外側から古代檜風呂、１穴ジェット×２の主浴槽、８点座ジェット×１とバイブラがある浴槽。古代檜風呂は熱気浴を兼ねているのか温室のような囲いがある。湯温は古代檜風呂が40度くらいで、その他が42度弱とやや温い感じの温度。さらに、サウナはないものの、外壁脱衣所方に２人は十分に入ることができる水風呂がある。

ビジュアルも変わっている。奥壁は深緑色の陶芸風のタイル。一部に魚をデザインしたタイルが使われている。その上の、いわばペンキ絵スペースには、無粋にもブルーのプラ板が張られ、さらに、ずっこけそうになるけど、ミッキーマウスとミニーマウスの立体的な絵が取り付けられている。

男女境も見たこともない構造と仕掛けがある。濃い群青色の大きなパネルが３枚設置されていて、奥壁側から「丹頂」「裸婦３人図」「無地」となっている。よく見れば、絵柄に沿ってたくさんの小さな穴が開いている。想像だけど、かつてはこの穴から明かりが漏れる仕掛けになっていたのではないだろうか。紺無地のパネルも、よく見れば、穴は花の絵のようなデザインが彫り込まれている。

上がりは、牛乳を飲もうとしたものの売り切れ。仕入れが少ないのもあるけど、客も入っているということだろう。金曜日の20:40から21:25に滞在、相客は10数人くらい。まずまずといったところか。

フロントには、初代の墨書による「人間の生涯・・・/店主九十三歳老人書」というものが額装されていた。几帳面な筆跡で、七箇条からなる「信念」が記され、その後に「皆さん健康のためこの信念でお風呂屋さんをお見捨てなくご協力をお願い致します。/なにがなんでも /人生百歳以上頑張りましょう」とあった。

ただ、翁はこの翌年、銭湯というビジネスの衰退を憂いながら94歳で人生を全うされた。曾孫と一緒に朝風呂に入った後に寝入るような最期だったという。

満足だった稲荷湯の後は、夕飯を兼ねた一杯・・・。往路、目星を付けていた「丸真」というモツ焼き屋へ。同湯のすぐ近くで裏口通りに面している。40年続いたという古い鰻屋の建物を引き継いた趣ある店だった。

刺身も、味噌が付く埼玉風のモツ焼きも、美味しくて安い満足なものだった。白髪脱サラ風の焼き手が帝京出で、十条銀座や銀座湯（廃業）のことに詳しく、十条話に花が咲く。気分よく酔いが回っていった。

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ナカムラ　（Masayuki Nakamura）
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