泉湯（京都市伏見区藤森玄蕃町）

差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2012年7月7日土曜日 23:33
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 泉湯（京都市伏見区藤森玄蕃町）

ナカムラです。

今日（6/30）は、「泉湯（京都市伏見区藤森玄蕃町）」に行ってきました。墨染駅（京阪電鉄本線）から、0.3キロ、4分くらいです。

烏丸御池のホテルを出て、いつものように二条城近くの「チロル」という古い喫茶店で朝食。錦市場近くの錦湯、明治湯。神宮丸太町の下御霊神社の向かいの旧錦湯（廃業済）、桜湯などを眺め、京阪本線で藤森駅まで南下する。

明治41年に建てられた煉瓦造の京都聖母学園（旧陸軍第十六師団司令部庁舎）。そして、折からの雨の中、師団街道を南下し、軍人湯、琵琶湖疎水、朝日湯などを眺め、モザイクタイル絵が充実しているとの呼び声が高い、泉湯に向かう。

油井型の煙突を有するモルタル外装の銭湯。何回か電話を架け、通じなかったけど、浴室の明かりが見えて安堵する。雨が強くなってきたので、セカンド目的地としていた軍人湯へ戻るのも面倒だと思っていた。

同湯は、師団街道と幅員のあるもう一本の通りとが交差する、交通量の多いＴ字路にある。浴室棟も脱衣所棟もベージュ色の煤けたモルタル。後ろから見ても、横から見ても、やはり前から見ても、実にシャビーな外観だ。

ただ、角には地蔵堂、「御殿方」「泉湯」「御婦人」と書かれた、エントランス上の三枚の扇形の額、自転車置き場の色褪せ傾いたテント。夕刻とあって、地蔵堂には裸電球が点った。全体の枯れた趣に唸らされてしまう。

暖簾を潜り、アルミサッシの扉を、力を込めてギシギシと開ける。エントランスは木目プリント合板に囲まれた空間。タイル張りの上がりかまちがあって、左右に大日之出錠の下足箱。濡れた靴と折り畳んだ傘を放り込む。

番台への扉を開けると、木組のどっしりとした渋い茶色の番台。左右に仕切板が無く、開放されているのが構造的に独特と感じる。

脱衣所の広さは、幅3間半、奥行4間ほど。天井高は1間半ほど。関西電力管内。節電のためか、やや薄暗い空間に年配客が数人ほど談笑している。

壁は、古い木目プリント合板。天井も素っ気ない、かなり煤けた新建材。京都有数のビジュアル銭湯ということで、遙々やって来たけど、それ以外の期待値は必ずしも高くなかった。しかし、太い柱は只ならぬオーラを発している。床は、幅広で厚さがある、どっしりとした板敷き。シャビーな外観と違って、広い空間に何ともいえない雰囲気が満ちている。

ロッカーは、ガラス扉で、小さなアルミ板鍵を捻って使うOshidori錠のもの。ただ、中の籠は樹脂製だった。そして、地元の屋号が升に「タ（石田？）」のアナログ体重計、旧型マッサージ機、屋根の形が変わっている神棚、ＦＵＪＩ飲料の古い冷蔵庫、大黒柱の黒時計、緩衝地帯の左右両側にあるレトロなタイル張りの流し台など、脇役陣も充実している。

浴室だけでなく、浴室への入口の上部に、琵琶湖で投網を扱う漁師の図のモザイクタイル絵、緩衝地帯と脱衣所の仕切りにも松や桜のモザイクタイル絵がある。

脱衣所の奥からは、レトロなセンター浴槽の浴室が見渡せる。それらを見ると、ビジュアルの充実度だけではない、第一級の郷愁銭湯だということが分かる。女将さんは大正2年の建物と教えてくれた。立派な柱、板の間に古豪の面影はあるものの、どうなのだろうか、判断が付かなかった。

浴室の広さは3間半四方。天井は、男女湯を左右に跨るカマボコ型で、左右に細長い湯気抜きが開いている。ブルーのペンキ塗りで、結構、草臥れている。床のタイルは大きくいえば風車型。しかし、何種類かのタイル片を組み合わせた凝ったものだった。

カランは、男女境に4、奥壁に8、外壁側に8。さらに、脱衣所に食い込むかたちで、使われていない感じのシャワー室がある。外壁側にあるシャワー設備のいくつかは、既に欠落し、管に木栓が打ち込まれている。しかも、そこから水が漏れ、白いタイルが赤く染まっている。外壁のモルタルのシミもこれが原因のようだ。

清掃が行き届いていない部分もあって、相客の爺は「ここは客が掃除するんだ」と笑っている。

浴槽は、センターに、何らの設備がない深浅の長方形の主浴槽があるほか、男女境脱衣所方に、空気吸い込み口の金属棒が立つ1穴ジェットの副浴槽と獅子口から酒処”伏見の名水”が惜し気もなく注ぎ込まれるミネラル豊富な水風呂がある。

主浴槽は落涙ものの小石タイル。さらに、縁には、厚く、黒御影石が巡らされている。タイルが割れたりしている、かなりボロい浴槽だけど、往時は華麗なものだったに違いない。

湯温は何れも42度弱の柔らかを実感できるもの。京都の井戸水掛け流しの水風呂は、やはり優れている。センター浴槽と水風呂の間を何往復もする。極楽。そして、至福の時間。。。

浴室のビジュアルは、奥壁に、洋館、湖、高嶺という絵柄のモザイクタイル絵。絵柄はありふれたものだけど、大きさとセンター浴槽からの視界が新鮮だ。さらに、外壁上部、カマボコ型天井の断面部に天女が空中を舞う絵柄のモザイクタイルがある。

雨降りの土曜日。18:40から19:20に滞在。入った時は、脱衣所に上がった客が多かったものの、浴室では1人だった時間が多かった。都合、相客は7､8人。

上がりは、旅の疲れもあって、新グロモント120円で精を付ける。

かなり老朽化し設備ながら、心地よい郷愁を感じさせてくれる素晴らしい伏見の名銭湯だった。

上がりの一杯は、京阪電車で三条京阪駅まで北上し、ふらっと高瀬川のほとりの京町屋のお好み焼き「山志づ」へ。京都ではたいした長さではないのかも知れないけど、50年くらいの歴史ある店らしい。普通に美味しいお好み焼きだった。。。

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ナカムラ　（Masayuki Nakamura）
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　　　　　　　　　　　　　　　京都聖母学院本館（旧陸軍第十六師団庁舎）

　　　　　　　　　　　　　　　　　琵琶湖疎水。水面がかなり高い位置にある。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　軍人湯

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　軍人湯