差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2006年5月7日日曜日 15:14
宛先: 銭湯ML
件名: 喜楽湯(大垣市郭町)

ナカムラです。

今日(5/3)は、「喜楽湯(大垣市郭町)」に行ってきました。
大垣駅(東海道本線)から、1.0キロ、10分くらいです。

岐阜羽島駅からタクシーで秀吉の一夜城で有名な墨俣(すのまた)へ向かい、赤線跡の「夜城園」を散策した後、タクシーで大垣に入る。

「夜城園」という、印象深い派手な名前に惹かれ、訪れたいと思っていた。まだ艶っぽい街並みが残っているので、裏営業でもあるのかと72歳の地元タクシーの運転手に訪ねたが、もう跡形もないとのことだった。

運転手に、さらに当時のことを伺うが、直ぐ岐阜に出たので、登楼の話は聞けなかった。でも、この運転手の話は面白かった。中学出て酒も女も初めてだったというその夜から、岐阜・柳ヶ瀬のアルサロの女給に小遣いをもらいながらの同棲。働かないで、2〜3年はそんな女を渡り歩いていたという。「そらぁ、極楽だった・・・」と。しかし、19歳の時、28歳の姉さん女給に、こんなことでは駄目だと、自動車の免許を取るお金を貰い、それ以来、半世紀以上のドライバー生活。一番最初の女性の顔は思い出せないけど、その姉さんの顔ははっきりと思い出すことができると、はっきりと、言っていた。ただ、長男ながら、大垣在住で、未だ地元墨俣には戻れないでいると。

大垣は岐阜県第2の都市だけど、繊維で栄えた時代からは遠くなり、大型の廃墟然としたビルが駅前付近にも多数ある。夜にいくつか歩いてみたけど、大袈裟に言えば九龍城砦の雰囲気があるし、怖い・・・。

同湯はそんなビルが途切れた辺りにある。同湯のある地名は郭町(くるわまち)。大垣の遊廓は藤江町というところにあったけど、この郭町もソープランドや「玉突」という看板を掲げるビリヤード場があったりと、赤線地帯的なアングラな雰囲気を持った地域だ。

同湯の入口にもカフェー調のタイル張りの丸柱が立ち、その上に薄紫色のタイルの地に「キ」「ラ」「ク」「湯」とやはりタイルで書いてある。2階はモルタルだけど、なんと黄色に塗られている。どんな経緯でこんなデザインになっているのかと思わせるものだ。昭和30年頃、今から50年ほど前に建て替えられたものらしい。

牛乳石鹸の暖簾を潜って戸を開けると番台。パイプに布張りの古風な衝立があって、かろうじて女湯のロッカーへの視界を遮っている。無ければ女湯の脱衣所の全てが見渡せてしまうほどの番台の低さとオープンさだ。

コンクリのタタキに立ち、靴を履いたまま、女将に名古屋よりも30円安い350円を払う。ジーンズを着こなしたスレンダーな美人だ。下足箱は番台と反対側にある。下段がただの棚でその上にオレンジのアクリル板の下足箱が少数ある。

脱衣所のスペースは、幅2.25間四方。奥に緩衝スペースが1間の奥行き、入口側のタタキの奥行きが0.75間といったところ。脱衣所の天井は、格子がブルーのペンキで塗られた平格子天井だ。

ロッカーは、扉の真中が縦じまの摺りガラスの嵌ったもの。錠の銘は判らなかったけど、アルミの板鍵を抜くと自然と施錠されているという仕組みのものだ。

男女境には大きな鏡があり、その前に2枚扉の冷蔵庫、旧型マッサージ機2台、コインシューターが特徴的なドライヤー、デジタル体重計、身長計がある。男女境の中心に天井を支える支柱があり、古い福助が鎮座している。脱衣所側には提灯を設えた神棚がある。古いながら全てが揃っている居心地がいい脱衣所だ。

緩衝地帯の外壁側には流しがあり、男女境側は小さいながら庭になっている。岩が組まれ、池があるけど水は張られていない。黄菊の鉢が置かれ、開いたガラス戸から涼しい風が流れてくる。

浴室は幅2.25間、奥行3.25間程度。天井は四角錘で、男女境の真中に大きな湯気抜きがある。同湯の創業は昭和12年でこの浴室は当時から68年を経過したオリジナルだ。しかし、ブルーのペンキの天井、白いタイルの壁、風車模様の床のタイルと整備されていて、レトロな浴室だけどそこまでの古さは感じない。

カラン数はセンターに7、外壁側奥に3。カランは宝の赤・青のレバー式のもの。

浴槽は、真中に小判型の主浴槽があって43度くらい。奥壁側には2穴ジェット×2の槽と外壁側に電気風呂がある。2穴ジェットは、1つはジェットが横に配列され、もう片方が縦に配列されている。東京、横浜ではあまり見ないバリエーションだ。デンキは苦手だけど試してみると、かなり強烈な衝撃がある。なんとなくだけど、中京圏の人は横浜人よりは電気風呂が好きなようだ。

同湯のはじめ、大垣の銭湯は井戸水を用いている。旧有楽湯の後ろには自噴井戸の跡があった。さすがに、魚津の町のような自噴井戸は見かけなかったけど、水資源に恵まれた土地のようだ。大垣の町を走るタクシーは「スイトタクシー」。はじめはSweet Salonかと思ったけど「スイトサロン」なるソープランドもあった。大垣は「水都(すいと)」らしい。

同湯はレトロだけど、浴室は清潔だし、何より清浄な湯が浴槽に溢れているのが印象的だ。
美人女将の細腕のみで、かろうじて支えられている湯。仕舞いの時刻も20:30と極端に早い。

快く写真撮影を許してくれたし、暖簾の話しをしていたら、男・女湯一対の暖簾を頂いた。
先々でその土地の人の温かい心に触れる。久し振りに旅の醍醐味に触れる。

立ち去る時に、表通りから同湯の写真を撮っていると、女湯の最後の客が同湯の看板の灯りを消して自転車で帰って行った。
いろんな人に支えられてはいるんだろう。でも、いつまでやっていけるんだろうと思わされた大垣の銭湯だった。






九龍城砦的な街並み




郭町。昔はこの一角に置屋などもあったらしい。




玉突