寿湯（中野区新井）

差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2012年7月21日土曜日 0:17
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 寿湯（中野区新井）

ナカムラです。

今日（7/13）は、「寿湯（中野区新井）」に行ってきました。新井薬師駅（西武新宿線）から、0.8キロ、分くらいです。

東京建物と鹿島が施主の「中野セントラルパーク」の内覧会に参加する機会に恵まれた。地価が高かった、2007年に土地を仕込んだので、当初から躓いたプロジェクトだけど、王者鹿島（南棟）とビル建設では一定の地位を築く戸田建設（東棟）の競演。簡素な内装だったけど、シンプルで好感が持てるいいビルだった。特に、南棟の竹林をイメージしたエントランス、庵治石と苔蒸す庭など、鹿島の奥深い技量を見せつけられる思いだった。

さて。ここから最も近いのは、中野と新井薬師の中間にある寿湯。はなから帰社のつもりがない” 糸の切れた凧”。

とりあえず、昭和初期に最盛期を迎え、昭和54､5年に長い歴史を終えた、新井薬師門前の花街（三業地）跡を探索する。そう、あの「阿部定」事件の発端となったのが、この三業地の鰻屋の「吉田屋」主人と、仲居の定の駆け落ちだった。料亭の名残が微かに残っている。そして、花街の銭湯だからだろうか、花園湯という廃業銭湯が残っていた。

花街にはそれと分かる遺構は見つけられなかったけど、古い飲み屋、中華屋、廃業銭湯（旧花園湯）など、ここが確かに歓楽街だったという雰囲気が残っていた。それにしても、花街の花園湯。往時はどんな銭湯だったのだろうか。

今日、ターゲットにしている寿湯も、料亭街からは離れるものの、検番、置屋、そして仕出し屋があった花街の銭湯だ。昭和22年の航空写真でもはっきりと銭湯の建物が確認できる。新井薬師の花街は、下町の花街が関東大震災に遭ったため、最盛期は昭和初期だったという。寿湯は、そんな花街や、関東大震災後の看板建築が並ぶ、あいロードと同じくらいの歴史を持つのかも知れない。

寿湯は、平入りの脱衣所棟と2段型の浴舎を持つ伝統的木造銭湯だ。しかし、後方の煙突は小さなステンレスの煙突に替わり、表に白いタイル張りのロビースペースが増築、テントが掛かっていることもあって、伝統的な部分の露出は少ない。

エントランスを入れば、小さな靴脱ぎと松竹錠の下足箱。プラスチックの札が出るタイプの入浴券の自販機があるものの、稼働はしていなかった。もっそりとした大将に、”こっちで”と自動ドアを入ったフロントへいざなわれる。

7月17日から8月中旬まで、設備改装のため休業する旨の張り紙があった。”設備改装”の部分を朱書きにして、ヤル気を出している。

脱衣所の広さは、一部フロントスペースの侵食があるけど3間四方。天井は、木目プリントが鮮やか過ぎる、チープな新建材に張り替わっている。壁は、上部が板張りを模したやはりチープな新建材、その下側は白いクロスが煤けている。

何だかなという、ひどい改修ではあるけど、蛍光灯の照明は明るく、冷房も快適に効いている。男女境には、城西広告社とある古い広告看板が残り、そして大型のテレビが客を楽しませている。結構、悪くない印象だ。

ロッカーは、外壁側に松竹シリンダ錠のもの。その他、ぶら下がり健康器、Hokutowのアナログ体重計、中央には籐敷きの幅広の縁台などがある。

浴室は、幅3間、奥行4間。天井は木板張りの2段型。高天井には、大きく、井桁の意匠が施されている。判断が付きかねたけど、躯体は古いのかも知れない。

島カランは1列で、カラン数はセンターから5・5・5・4。タイル類は、昭和後期のものだろうか。カランを含めて清掃もイマイチで、かなり草臥れてもいる。おまけに、お湯の出が悪く、時間がないので、少々じれったくなる。

浴槽は、奥壁に沿ってセンターから、深槽の気泡湯、8点座ジェット×2、主浴槽のバイブラ。主浴槽の奥壁は、その部分だけオーバーハングして、肩に赤外線ランプが照射するようになっている。しかし、稼働はしていない。焚出し口は、タイル張りながら、50センチくらいの高さから湯が落ちる湯滝をイメージしたような造り。

お湯は、42度くらいのぬる目。鉄分が多い井戸水を沸かしているようで、はっきりと分かる色付きがある。

プラス200円のサウナは、外壁側脱衣所方に、半分、外に飛び出すかたちで増築されている。かなり疲れた大小のタオル付き。それにしても、なかなかシャビーなタオルだ。水風呂は、奥壁側に並ぶ浴槽と接して、外壁側にＬ字型に配された無理すれば2人くらい入れるもの。何故か、サウナではピアノ協奏曲が流れている。

深槽の内側のぬめりが気になったものの、開け放たれた窓を夏風が通り抜ける爽やかさ。そんな空間で、湯船と水風呂を往復する極楽至極。

ビジュアルは、奥壁が、群青の釉薬がひび割れたような、陶器の風合いのタイルに、所々、魚の模様があしらわれている。

上がりは、明治の特濃の牛乳120円を頂く。ロビーも、だいぶ草臥れている。しかし、一部が小上がりになった、居心地がいい空間だった。

金曜日の19:00から19:30に滞在。相客は10人くらい。トイレには大きなＧが居て、出るものも引っ込んだりした。難点をいえばたくさんある。しかし、浴室には夏の解放感があった。脱衣所は明るく冷房が効いている。ちょっと印象に残る、居心地のいい銭湯だった。

来週から設備改装のため、1カ月半の休業に入る。”草臥れた・・・”を連呼したけど、そんな設備も多少改善されて、でも居心地は変わらない。そんな、旧花街の銭湯であってほしい。

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ナカムラ　（Masayuki Nakamura）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　寿湯

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