差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2012年10月7日日曜日 11:51
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 寿湯(京都市南区西九条比永城町)

ナカムラです。

今日(9/29)は、「寿湯(京都市南区西九条比永城町)」に行ってきました。 東寺駅(近鉄奈良線)から、0.3キロ、4分くらいです。

連泊していた宝ヶ池のホテルを出て、朝6:30から営業している二条城前の喫茶店「チロル」に朝食 を食べに行く。老夫婦が切り盛りするいい雰囲気の喫茶店だ。今日は、ハムカツを乗せたカレーに、 ゆで卵を付けてもらう。昨日の朝、ホテルで食べた甘ったるいビュッフェのカレーなんかよりも数 段美味しい。

宝ヶ池のプリンスホテルは、建築家の村野藤吾デザインの内装がいい状態で残っている。何度か泊 まっている好きなホテルだ。しかし、明らかにサービスの質が落ちている。”貧すれば鈍す”ホテル の業界環境は厳しいけど、北山を越え、やや不便な宝ヶ池まで足を運んで来ている。少し落胆。ま た、何と、今回は改装された綺麗な部屋に通され、家具も内装も村野のデザインのものではなかっ た。。。(涙)

昼は、終日、京都市街で買い物ツアー。骨董屋が軒を連ねる界隈にある尾張屋で防虫香、寺町の蓬 莱堂で宇治茶、仏光町通の彼方此方屋で和服の長襦袢などを買う。途中、四条河原町のレトロ喫茶 店の至宝「築地」などで、京都の喫茶店文化を堪能する。名古屋とは違った喫茶店文化が京都には ある。東京も浅草などの下町の一部にはあるのかも知れないけど、こういった喫茶店文化はないな ぁ。。。

今日は”銭湯ツアー2012年夏”の最終日。いつもより半分程度の4泊5日の行程だったけど、肉体 的にも懐的にも、思いのほか消耗した。新幹線に乗り込む前に、そんな疲弊した身体を癒すために 東寺の寿湯へ。京都駅の南側。京都駅からも1.5キロくらいだろうか、歩いて行くことも出来そう な距離にある。

東寺の傍らにどっしりと構える昭和初期築の古豪銭湯。油井型の煙突の基部はレンガ積み。唐破風 のエントランスを持つ2階建ての建物は、石塀に囲まれ威風堂々としている。すぐ近くの日の出湯 には及ばないのかも知れないけど、かなり大型の建物だ。昭和初期ならば、遠くからもかなり目立 つ建物だったはずだ。

銅葺きの唐破風は傷んでいるのか、その下に小屋根のエントランス部を押し込んだような格好にな っている。

ガラス扉を開け暖簾を潜る。左右におしどり錠の下足箱。ただ、中央に傘立てが置かれ、男湯への コースと女湯へのコースがはっきり分けられている。写真を撮りながら、客の出入りを眺めていた ので男湯への左側のコースに入ることが出来たけど、表には男女の表示はない。もっとも、脱衣所 までに、もう1つずつの扉があるので、上がりかまちでコース変更は可能だ。

番台裏には、あまり見なくなった古いたばこの自販機があって、まだ現役のようだ。京都の銭湯は 番台への扉が”障子”のようなガラス戸が多い。一昨日入った大将軍の源湯もそうだった。

そのガラス戸を開けると、前面がカーブした複雑な意匠を施した戦前期の番台。床の継ぎ接ぎから 推測すると、番台の周りは、錦湯、柳湯、日の出湯と同じように、元々はたたきたっだようだ。

小生より少し年上くらいの中年の大将に、相方が風呂銭を渡す。京都銭湯の料金は410円。ザック を背負い、頭にはパナマ帽。明らかに観光客の姿なので、大将が湯桶の”隠し場所”を教えてくれ た。もちろん浴室でもなく、関西によくある緩衝地帯に積んである方式でもない。外壁側の脱衣ロ ッカーの下段が棚になっていて、番台の横辺りに、ひっそりと積まれている。知らなければ、ご常 連の留め桶のようでもあり、気付かないだろう。

脱衣所の広さは、幅3間、奥行4間ほど。さらに、緩衝地帯と、かつてたたきだった部分と合わせ 計6間ほどもある大きな空間だ。2階があるので天井高は2間ほど。燻したような見事な平格天井 に天井扇が回っている。かなりのレトロ度といっていい。

ロッカーは外壁側に折鶴錠のもの。その他、黒枠のレトロな丸時計(非稼働)、アナログ体重計、旧 型マッサージ機、飲料豊富な2枚扉の旧型の冷蔵庫などがある。

緩衝地帯にある、タイル張りの大きな流しの造りが珍しい。向きが、浴室の方でもなく、外壁の方 でもなく、まさに対面キッチンがリビングに向くように、脱衣所の方を向いている。男女境側には 乾式のサウナ室の大きな張り出しがある。乾式サウナを増設した時の中普請なのだろうか。何れに しても緩衝地帯はかなり珍しい造りだ。

浴室は、幅3間、奥行は計5間で、副浴槽のある最奥の1間は増築のようだ。天井は四角錘型で、 中央に大きな湯気抜きがある。カランは、外壁側に9機、奥壁と脱衣所側に各1機。

主浴槽はセンターに、深浅2槽。内部に小石タイルが使われた深槽は、気泡湯で42度弱くらい。手 前は何らの設備のない浅槽で、内部はやはり小石タイル張りで底に鯉型のタイルが3匹ほど使われ ている。お湯はすっきりとして、あくまで清澄な京都スタンダードの優れたものだ。旅の疲れが癒 されていく。。。

深浅2浴槽の中央の仕切に、お湯がマッシュルームのように広がってその透明な膜が浴槽に注ぐと いう”噴水”がある。昔々、遊園地などに、紙カップに粗末なオレンジジュースが注がれる自販機 があった。その自販機の上に、オレンジ色のジュースが傘に広がるディスプレイがあって、冷えて 結露したガラスの中でオレンジジュースの傘というか、”マッシュルーム型”の噴水になっていた。 同湯の噴水を見て、そんな懐かしさが込み上げてくる。

副浴槽は、1穴&縦2穴ジェットと電気風呂。相方によれば、電極が奥と手前の縁にあるので、足 を入れた瞬間に痛いほどの電撃が走るという。源湯もそうだったらしいけど、東京の銭湯とは異な る刺激的な造り。ちょっと注意が必要だ。

男女境脱衣所側に、水風呂と脱衣所にフルに喰い込む無料の乾式サウナが設置されている。サウナ 室では松任谷由美のアルバム「流線型'80」に入る"埠頭を渡る風"が流れていた。もう、この曲が 30年も前のものなんだと思いながら刺青見事な相客とじっくりと汗を流す。

乾式サウナは、京都で時折見かける座面が絨毯というもの。小生、バスタオルが無い場合、いつも 手拭いを敷いて使っている。しかし、刺青見事な相客はそのまま。この絨毯、どのようにメンテナ ンスしているのだろう。。。そんなことが少し気になるものの、水質がすこぶるいい、掛け流しの京 都の水風呂で身体は清められている。問題はないだろうし、気にもならないという所か。

上がりはデカビタを頂く。中年の大将から、同じ時代にユーミンを聴いていたようなスマートな女 将さんに代わっていた。番台の前に、男湯の脱衣所から意識的に視線を反らすように立つ後ろ姿が 印象に残った。

東京への新幹線に乗り込む前、土曜日の17:30から18:15に滞在。相客は10人くらいだろうか。ビ ジュアルはないけど、レトロな噴水と小石&鯉タイルのセンター浴槽。清冽な掛け流しの水風呂。 そして、ユーミンが流れる無料乾式サウナ。そして、なんと言っても威風堂々の戦前の建物。大阪・ 奈良・京都ツアーのフィナーレに相応しい、そこそこ活気のある銭湯だった。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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