差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2012年8月7日火曜日 23:16
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 寿湯(目黒区上目黒)

ナカムラです。

今日(8/4)は、「寿湯(目黒区上目黒)」に行ってきました。 祐天寺駅(東急東横線)から、0.9キロ、10分くらいです。

恵比寿の東京都写真美術館に、田村彰英の写真展を見に行く。そして、恵比寿から中目黒経由で寿 湯に向かう途中、建築家の村野藤吾が設計した中目黒区役所(旧千代田生命保険本社)を見る。

小生、このビルで10数年を過ごした。今は目黒区役所に変わっている。美術館のようなエントラン スから入り、複雑な螺旋形状のつり階段に再会する。階段の魔術師と呼ばれる建築家村野藤吾。数 ある階段の中でも最高傑作の1つと考えている。ずいぶん村野建築の螺旋階段を訪ね歩いてきたけ ど、やはり、息を飲むほどに美しい階段だ。しばし、その階段を昇り降りしていた。。。

目黒銀座は、阿波踊り開催中。途中、大黒湯を通り過ぎ、同湯にたどり着く。中目黒勤務の頃、昼 飯の後の腹ごなしの散歩で時折、同湯の辺りまで足を延ばすことがあった。付近には目黒川の支流・ 蛇崩川を暗渠にした緑道がまさにうねっている。この川の名前から来たのか、「蛇崩」という交差点 があって、同湯はその一角にある。

築後58年程になるらしい。昭和30年代の初めに建てられた、油井型の煙突を持つ伝統的木造銭湯 だ。むくり破風妻入の脱衣所棟に、千鳥破風のエントランスがあって、左右がコインランドリーに なっている。むくり破風には懸魚がある。遠くてよく見えないのだけれど、蛇を絡めた彫刻のよう だ。

暖簾を潜ると平格天井の広くはないエントランスで左右に松竹錠の下足箱がある。番台への扉は自 動ドア。マットに足形の絵が描いてあって、そこに足を載せないと、ドアは開かない。

扉を開ければ、正面に番台を前後ひっくり返したような小さなフロントブースがあって、気のいい 女将さんが詰めている。スタンプ帳を差し出すと、扱いに不慣れだとこぼしながら、結局は小生に シャチハタ式のラバースタンプを手渡してくれた。

初めて見るものだった。確かに扱いにくい。しかし、スタンプラリーも定着し、組合から新型のス タンプが支給されたのかも知れない。黒、赤、ブルーが多い中で、数が少ないと言われる緑色のス タンプだった。

脱衣所の広さは、3間四方。狭い庭が半分ほど潰され、半間ほど増築され、ロッカーや2連のシン クが置かれている。天井は見事な折上げ格天井で、渋い茶色のニス塗りで輝いている。クーラーが 効いていて気持ちがいい。ニス塗りの床もピカピカだ。一見して、明るく、清潔で、極めて整って いる印象を受けた。何度も見ている外観からは分からなかった。かなりレベルの高い銭湯だ。

ロッカーは、島ロッカーと、外壁側に松竹シリンダ式のもの。基本的にシンプルな空間で、ビール も入った自販機や冷蔵庫、縁台、Hokutowのアナログ体重計があるくらい。

整った脱衣所から、整った明るい浴室を望む。その間の磨き込まれたガラスには東郷青児風の、裸 婦像を中心に、熱帯魚、海草、貝が彫られたガラス絵がある。奥壁の中島さんの赤富士のペンキ絵、 山間の湖沼の畔の合掌集落を描いた、男女境の絵付けタイル絵なども一斉に視界に飛び込んで来る。 何だか心が高まっていくのを感じる。

浴室は、幅3間、奥行4間ほど。天井は木板にペンキ塗りの2段型。白とクリーム色のペンキにく すみはない。少し、天井が高い感じがする。

島カランは1列で、カラン数はセンターから7・6・6・6。床のタイルは10センチ角くらいのクリ ーム色で、中に同心円をベースにした模様が入っているもの。島カランに、湯道具を置くスペース を広げるための改造を施している。

浴槽は奥壁に接する3槽。センターから、7点座ジェット×2および寝湯×2で、湯温は42度弱。 そして、主浴槽のぬる湯槽で40度強。水道水をガスで沸かしているという。入浴剤が入っているの か、微かに白濁のある柔らかいお湯だ。

浴槽側面の壁には、幅1間の水槽が仕組まれていて、こんな大きさで大丈夫なのかという程大きな 鯉が悠然と泳いでいる。

写真展のハシゴ、旧職場の村野作品を鑑賞しながら、恵比寿、代官山、中目黒の散歩。途中、目黒 銀座商店街では若かりし頃、小生もかり出された恒例の”阿波おどり”に遭遇。。。浴室を通り抜け る夏風を感じ、長い1日を反芻しながら、ぬる湯にじっくりと浸かる。心身ともに解放されていく のが分かる。

上がりは、水分補給を目的に自販機のポカリ。冷蔵庫の下段には地元のタワーラムネ70円が何本も 並んでいた。

金曜日の17:10から18:00に滞在。ぬる湯で円陣になって話し込む若者達や親子連れなど、多種 多数の客で賑わっていた。女将は、お客さんが来てくれて、長年商売を続けられていることを、し きりに有り難がっていた。レトロさを残しつつ、使い勝手もいい。何より居心地が良かった。

銭湯を15段階に区分し、毎回上がった後に相方と評価を確認しあっている。敢えて記録はしていな いけど、同じ指向ゆえ、評価はほぼ一致する。同湯の評価を聞けば、かなり久し振りの高評価だっ た。それは”驚き”が無ければ届かない高ランク。何度も何度も表を通って、写真も撮っている。 しかし、こんなにいい銭湯だったとは気が付かなかった。優れた銭湯だ。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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