差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2012年2月11日土曜日 23:56
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 草津湯(葛飾区小菅)

ナカムラです。

今日(2/4)は、「草津湯(葛飾区小菅)」に行ってきました。 小菅駅(東武伊勢崎線)から、0.9キロ、10分くらいです。

相方が前から気にしていた「今和次郎 採集講義」を見にパナソニックの汐留ミュージアムに出か ける。民家、服装研究、建築など多彩な分野で活躍した今和次郎を多面的に紹介する意欲的な展示 で、見応えがあった。

ミュージアム横にあって既に建替えが決まっている「中銀カプセルタワービル(黒川紀章設計)」を 見た後、水上バスで日ノ出桟橋から浅草に出て、東武伊勢崎線で小菅駅を目指す。

小菅駅は荒川の土手の傍らに位置する駅。荒川の土手を乗越す関係で高い位置にある。降りるのは 初めて。長い階段を降りて行くと、高架下丸出しという余りに殺伐な造りに驚かされる。小菅と言 えば東京拘置所。この駅が拘置所の施設の一部かと思える程に、普通の駅とは異なった雰囲気を持 っている。乗降客数も1日当り5000人ほどと、利用者も多くない駅のようだ。

陽が暮れて寒いというだけではないだろう。拘置所とともに同湯のある西小菅だけは四方が川で囲 まれ、閉ざされた立地になっている。所々に「保釈保証金建替」なる見たこともない金融広告。拘 置所周辺のこの殺伐とした感じは経験がない独特のものだ。何故か拘置所の官舎にも灯りが点いて いない。。。

そんな、島のような「西小菅商盛会」という商店街とは呼べない一角にある。付近一帯は戦災に遭 っていないようで、明らかに戦前築と見受けられる傾いた下見板張りの家も残っている。

昭和22年の航空写真を見ても同湯は写っている。戦前からの古豪。コンクリ煙突を擁する千鳥破風 &唐破風の現在の建物は昭和31年築。その前年に建替えたけど、1年余りで火事で焼失したという。

どっしりとした立派な塀の中からは丁寧に刈り込まれた掛り松が伸びている。大きな懸魚のある唐 破風のエントランスに暖簾はない。スリ硝子に屋号が記されている。

中に入れば正面に古い九谷の絵付けのタイル絵。福二の筆跡だろうか「蓬莱嶋来宝船」と絵柄の解 説が書かれている。両側には松竹錠の下足箱が並ぶ。番台への扉の回りなど惚れ惚れする昔ながら のオリジナルが残っている。

意外にもその番台への扉はドア式。多少のギギーという音とともに脱衣所に進む。番台は中普請時 に取り替えられたのか前面がカーブした木目プリント合板のもの。今は空になっているけど側面に 小さなショウウィンドーを組み込んだものだ。

脱衣所の広さは、幅3間、奥行3間弱。さらに、庭側に幅2間、奥行1間の張り出しのようなスペ ースがある。天井は折上げ格天井。天板がチープな合板に置き換えられている。壁は白壁。

ロッカーはTokyo錠のものが外壁側と、片側だけの小さな島ロッカーが中央にぽつんとあるだけ。 丸籠も健在。昔ながらの広々とした空間が広がる。その他、旧型マッサージ機やYamatoのアナログ 体重計など。

水が張っていないのが何とも残念だけど、張り出した休憩スペースを囲むようにL字型に大きな庭 池がある。外便所はその池の向こうにあって瓦屋根がある太鼓橋を渡って行く造りになっている。

その厠の扉も上部は葉脈のようなランダムな構造の桟があって、その下は大胆にほぼ足下までダイ ヤ硝子が使われている。繊細さと大胆さが合わさった見事な造り。しかし、厠の扉としてはオープ ン過ぎるので、檜皮の衝立で脱衣所方向からの視界を遮っている。凝った造りだ。

浴室は、幅3間、奥行4間ほど。天井は2段型。内装は白く塗られくすみはない。独特の雰囲気が ある。。。柱、壁、天井に至るまでコンクリやモルタルに施すような凸凹した表面処理が施されてい る。拳で軽く叩いて材質を探る。新築1年余りで火事で焼失したという歴史も有り、伝統的銭湯の 造りを模しながらも躯躰あるいは天井を含めてコンクリ造なのかと推測していた。しかし、聞けば 浴室は木造だという。初めて遭遇する不思議な印象の浴室だ。

島カランは断面が△型鏡が付いたものが1列で、カラン数はセンターから5・4・4・5。元々の配管 が壊れたらしくシャワーを含めお湯については壁やカラン島に外付けの管が渡され、カランはその 管に無骨に取り付けられている。床のタイルは星形模様の緑がかったグレーのもの。タイル類は更 新されていて古いものは残っていない。

浴槽は奥壁に接した深浅2槽。深槽には横置きに座ジェット×2、浅槽も座る浅い段差があってジェ ット2機という構成。土地柄、井戸水を使い、時折薪、大抵は重油で沸かしている。温度は42度く らいだろうか、温からずじっくり入るにはいい温度だ。ただ、少々塩素がきつかった。

ビジュアルは、奥壁に中島さんのペンキ絵。絵柄は初めて見る「石川県/兼六園(23.6.6.)」。男女 境には高嶺、湖、手前に洋館や森という絵柄のモザイクタイル絵がある。さらに、外壁側の硝子窓 の外が廊下になっていて、その壁にすぐ近くの西小菅小学校の3年生が描いた幅4間のペンキ絵が ある。当地の民話こすげどんを描いたものらしい。3方にビジュアル。なかなか充実している。

上がりは飲料の販売などはない。温かく居心地のいい空間で寛ぐ。

相方によれば、女湯には親子連れが3組居て、浴室のお母さんが下の子を見ている間に、女将が上 の子の身体を拭き、寝間着を着せていたという。小生も小さい頃は銭湯で経験したし、記憶にも残 っている。しかし今はそんな光景はほぼ絶無という。10年以上も銭湯を回っている相方に聞いても 過去に1度遭遇したかどうか。女将の年齢を考えても、今後、こういった光景を見るのはなかなか 難しいだろう。

はす向かいにはカーテンが閉まっているものの、駄菓子屋とおぼしき板張りの平屋の店舗がある。 すでに商店街とは呼べなくなっているけど、同湯のある小さな四つ辻は、多くの往来があったので はないだろうか。なかなか趣き深い郷愁銭湯だった。

上がりの一杯は、相方に案内され日暮里の大皿料理の「一(いち)」。生グレープフルーツサワーや トマトジュースのウォッカ割など、普段とは少しばかり違ったものを頂いた。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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駄菓子屋さんらしい。まだ営業しているのか。。。
初めて下車する。あまりの寒々しさ。ここも塀の中と思えるほど、人が集まる普通の駅の雰囲気はない。
東武伊勢崎線・小菅駅
東京スカイツリー線に改称されるようだ。。。
街には”保釈金金融”の広告が並ぶ。金利はどれくらいなのだろうか。結構お高いんだろうな。。。