差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2012年1月17日火曜日 22:55
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: くすり湯(熊本市新町)

ナカムラです。

今日(12/23)は、「くすり湯(熊本市新町)」に行ってきました。 新町駅(熊本市電)から、0.5キロ、5分くらいです。

熊本二日目。辛島町のホテルを出て郊外の”うつわ屋”なるギャラリーショップに陶器を見に行く。 家に置くのは最小限の食器だけ。そして、最近は気取らない渋い作家物を使うことが多くなってき た。食事は料理だけでなく盛りつける器も大切だと思える歳になってきた。

買い求めた数点の食器を持って、肥薩線を最近出来た新水前寺駅で市電に乗り換え、くすり湯のあ る新町へ。古い町並みを撮影していると何か変だ・・・。しまった、市電の中に陶器の入った紙袋 を忘れてしまった。しかし、狭いエリアを走っている路面電車で助かった。終点、上熊本駅に電話 すると”今、届きました・・・・”との言葉。

市電の上熊本駅は古い駅舎。行く予定はなかったけど図らずも見ることができた。路面電車ながら 終着駅の哀愁を湛えている。ただ、ファッサードだけを残し、本来の駅舎部分は切り取られている という、やや悲しい姿ではあった。

気を取り直して、5年振りの”電信町・くすり湯”へ。小さい面積の数多くの町名が密集していた 熊本城の内堀と外堀の間の中州のような所。今は新町という町名になっているけど、旧電信町の隣 の町名は旧古城堀端町と呼ばれていた。よくは分らないけど、かなり由緒ある地域のようだ。

表通りに面した古い建物と建物の間の細い通路の奥にやはり同年代の古い建物と思われるくすり湯 がある。いずれの建物も窓ガラスにガムテープでバッテンに張られている。空襲でもあるのかと評 していた人があったけど、いつのものか、台風対策のようだ。付近にもそんな建物がいくつかある。

番台裏の樹脂製の板に「電信町 くすり湯」と書かれ、どこからか持ってきたようなドアがある。 中に入ればコンクリのたたきを挟んで番台と下足箱。相方が大女将に風呂銭を渡す。

脱衣所の広さは幅3間半、奥行はコンクリのたたきを入れて4間半ほど。板張りの天井はさほど高 くはない。

半ば壊れたKing錠が付いた下足箱の周りは何年も体積した埃がこびり付く。脱衣所の男女境は、使 われているのか分からないくらいに黄ばんだタオルが壁が隠れるくらいに下げられている。今は使 われていない2階への階段にはご常連の湯道具の置場で少しの隙間もない。

決して清潔な空間ではないのかも知れない。しかし、こんな静かに時間が流れてきた空間に惹かれ るのは小生だけではない。小生の筆力に及ばない魅力が”電信町・くすり湯”には満ちている。

浴室は、幅3間半四方。天井は四角錐型で中央に湯気抜きがある。淡いモスグリーンのペンキはか なり草臥れている。外壁側と奥壁の一部まで回り込んでいるスリ硝子の窓には、やはりバッテンに ガムテープが貼られている。外から見るのとは違った独特の印象だ。

島カランは1列で、カラン数はセンターから4・3・3・2。浴室は奥壁側外壁側のコーナーに独特の 黄緑色をしたハップ湯。この前来た時は激熱だったけど、今日は41.5度程と寒い冬にしては少しば かり温い。。。奥壁中央の主浴槽は白湯で42度くらい。すっきりとした柔らかさを持ついいお湯だ。

ちょっと、温めの温度設定なので外壁側脱衣所方にある水風呂の有り難みはさほどでもないけど、 踏み込み段と左右に衝立があるような独特な形をした水風呂の、小タイルによる渋い色使いのレト ロな意匠は見応えがある。

ビジュアルはないけど、男女境の上に電球を仕込んだ幅2間弱の看板がある。このくすり湯の由来 を書いた口上書というものだ。これがなかなか凄い。

”電信町のくすり湯は 江戸時代の創業で庶民の霊泉として遠く天草島原は云ふに及ばず、関西中 國四國からも入湯に来て居られます 神風連の乱の時は治療湯として隊士の養生に奉仕致し、第六 師団となりましてからは日曜毎の、保養湯として充分な効果を発揮し日本三大人工温泉として熊本 の名所の一つと数へられてまいりました”

”電信町のくすり湯は 神経痛、リューマチ、関節炎、肩こり、冷え性、しもばれ、産前産後、血 の道、ニキビ、腺病質、全身機能回復若返り精力増進。”

”電信町の水風呂は 地下から湧き出る霊泉で二次式入浴法によりシミやソバカス取れたと云ふ世 にも不思議なお風呂です 日日の疲れはこの風呂で治して一家の御繁昌 保健・長寿・色白いお肌 をつくる美人風呂 これが硫黄鉱泉で電信町のくすり湯が広く知られる効目です”

”使用浴剤/ハップ/成分 100瓦中/硫黄 一五.〇/生石灰 七.五/苛性カリ 〇.五/水 七七.〇”

左右には阿蘇山の絵が描かれ、巻紙の手紙を読む如くこれが墨書体で長々としたためられている。 日本中に口上書きは数々あれど、風呂に限らずこれを超えるものは見たことがない。

上がると、番台が大女将から大将に替わっていた。祝日の金曜日。16:35から17:30に滞在。相客 は2人。写真を撮らせて頂いていると、ここは写真集にも出ているからねと、このくすり湯が有名 であることをご存じの方だった。

外に出ると夕暮れ。夕暮れの光景もなかなかの趣き。相方を連れて5年振りの再訪。相変わらず深 い深い趣を湛えた郷愁銭湯だった。清掃の行き届き方や設備の状況からすると、後継者は居ないん だろうな。ピーク時に市内に180軒あった銭湯が今はたった10軒だけ。そのうちここ新町地域に、 菊乃湯と同湯の2軒がある。

上がりは熊本の洒落たスポットなのだろうか上乃裏通りと呼ばれる細い路地にある”YOKOBACHI”と いう古い民家をベースとした居酒屋。地元人の推薦だけあってなかなか良かった。炬燵に入りなが ら鍋を囲む屋外の席もあったりと面白い店だった。

《前回訪問:2007.01.29.》

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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菊乃湯。翌日、定休日で今回は入れず。。。