差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2011年8月7日日曜日 22:44
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 京極湯(京都市右京区西京極西川町)

ナカムラです。

今日(7/20)は、「京極湯(京都市右京区西京極西川町)」に行ってきました。 二条駅(山陰本線)から、1.6キロ、20分くらいです。

織物で栄えた西陣地域で、最も栄えたという繁華街が「西陣京極」だった。「五番町夕霧楼」で有名 な五番町遊廓も隣接している。今はかつての繁栄は見る影もなく、昔を想像するのは難しいけど、 同湯はそんな西陣京極の中心にある古くからの銭湯。

昭和21年に先代が引き継いだ建物は大正末頃のものという。確かに、古い建物が多い京都にあって も、見るからに古い。煙突の基部は煉瓦積み。さらに二階部分は古色蒼然としている。

門があって数歩歩いた奥に京都式の2房の暖簾が下がる。敷地の角の理髪店は、もう何年も空家の ようだ。

同湯の周りをうろうろしていると、不審者ゆえ大将が出てきて声がかかる。しかし、来意を話すと 釜場に通じる扉を開けてくれた。さらに、せっせと薪を追加し、煙突から煙を出してくれる。明る くてサービス精神旺盛な方だ。ここ「西陣京極」の世話役を努めるとともに、同湯でイベントなど も開催される。そんなこんなで、遠来の珍客を厭う様子もない。

暖簾を潜れば、予想外に広いエントランス。左右にツルカメ錠の下足箱が並ぶとともに、京都市電 などモノクロの古い京都の写真が飾ってある。下足の木札の裏には「京極湯」との焼印が押されて いるのも京都風か。東京銭湯ではほとんど目にすることはない。

番台への戸を開ければ年代物の木組の番台。しかし、女将さんも座る感じはないので使ってはいな いようだ。

脱衣所の広さは幅3間四方。低いほどではないものの木目プリントの天井は高くはない。別途、前 庭を潰したのか増築したと思えるスペースに喫煙コーナーと、半間強の幅の緩衝地帯にタイル張り の流しがある。

ロッカーは外壁側に折鶴錠のもの。ロッカーの上には屋号が記された古いマイ脱衣籠が並ぶ。今は 実質的にディスプレイで、記された店は廃業したり、店は残っているもののもう籠の主は客として 訪れないものばかりらしい。

その他、地場の飲料なども入った冷蔵庫がある。

浴室は、幅2間、奥行4間半。天井は真中に大きな湯気抜きがある四角錘型。薬湯やデンキ風呂が ある最奥の半間は増築かも知れない。

島カランは、小さな島カランを奥と手前に縦に並べる京都の1つの様式。カラン数は外壁に10、島 カランの片側に3、2。さらに、男女境に3。

浴槽は、男女境に接した深浅2槽。手前が浅く広いバイブラ槽で41度くらい、中央が深い浴槽で何 らの仕掛けが無いもので42度くらい。さらに、深浅2槽の奥にスチームサウナと1人用ボックスが あって、源泉水風呂の打たせ湯(水)、脱衣所方に京都式の1人用の扇形の小さな獅子口がある水風 呂がある。

井戸水を薪で沸かした清澄なお湯に、サウナ、多彩な水風呂。やや雑然としたきらいがなくはない けど、清潔さはもちろんのこと、何か居心地がいい。

夕方という頃合い、ひと組の父娘が浴室に入ってきた。脱衣所では男湯なのに母親が子供の寝間着 を籠に入れている。父親は大将に似ていることから、”三代目”とその娘なのだろう。水着の跡がく っきり付いた真っ黒に日焼けした女児は、父と話しながら小さな水風呂に一緒に入ったり、父が身 体を洗っている間は浅槽で泳いでいたりする。京極湯一家が絶えてなくなった昭和な銭湯の風景を 見せてくれた。

上がりは瓶牛乳100円を頂いた。森永だったと思うけど、かなり安いサービス価格での販売だった。

無料のスチームサウナに清澄な地下水による水風呂など設備は充実。郷愁度もさることながら、居 心地がすこぶるいい銭湯だった。

上がりは相方が近くの上七軒の花街に案内してくれた。夏は歌舞練場とその庭でビアガーデンが開 かれているという。なかなか広い敷地に、建物や庭も風格あるものだった。50年以上続いていると いうこの上七軒のビアガーデンだけは、一見客でも受け入れている。

台風の影響もあり、ゆったりとした感じだった。上七軒には34人の芸妓さんが居るとのことだけど、 約2カ月のビアガーデン期間中は6人が交代でここに詰めるという。そのお当番の舞妓さんなどが 順にテーブルに付いてお相手してくれる。得難い経験だった。

往路は、淀屋橋駅から京阪で出町柳駅に入った。バスで千本今出川で西陣に入って、喫茶店「静香」 で休憩し、玉乃湯、廃業した古い玉突場の建物などを見た。復路は、桜湯(定休日)、船岡温泉、さ らさ西陣(旧藤ノ森湯/定休?)、明治湯などを見て回った。

今日の宿泊は宝ヶ池のグランドプリンスホテル京都。ここも、建物や家具や内装のディテールに拘 りを持った建築家・村野藤吾の設計。シェラトン都ホテル大阪がオリジナルの内装をあまり残して いないのに比べ、宝ヶ池は多く残っている。建築家村野の思想と精神に触れることができる。

《前回訪問:2010.02.11》

*************************************************
ナカムラ (Masayuki Nakamura)
メイン:masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp  
URL: http://www7a.biglobe.ne.jp/~masayuki/ (風呂屋の煙突)
*************************************************



▼西陣京極界隈の店の屋号が記された脱衣かご




▼西陣京極の入口方向を望む




▼上七軒ビアガーデン