差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2008年6月29日日曜日 8:16
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 松の湯(品川区西五反田)

ナカムラです。

今日(6/27)は、「松の湯(品川区西五反田)」に行ってきました。 不動前駅(東急目黒線)から、0.6キロ、6分くらいです。

今週、酒席でペンキ絵師中島盛夫氏とお話をさせて頂く機会があった。 そして、1つ疑問が解決した。

小生が生まれてから10歳頃まで通った世田谷大原・月の湯(平成1年廃業)のペンキ絵。銭 湯巡りを始めてから、微かな記憶を思い返し、ずっと中島師のペンキ絵だったと思っていた。

中島師に確かめると、同湯のペンキ絵は、やはり師のものだった。 刷り込まれた微かな記憶。後からの知識。それらが繋がることに、素朴に驚いた。

小生、その月の湯で溺れ、人工呼吸で蘇生した経験がある。 ケロリン桶の湯に顔をつけて遊んでいて、不覚にもカラン下に滑り込んで行ったらしい。湯か ら顔を上げることが出来ず「溺れ」た。運悪く、父は石鹸で頭を洗っている最中だった。

近くの自動車整備工の若い方が人工呼吸を施してくれた。段々と意識が戻って、視界にぼーっ と浮かんだのは、横に積んであった脱衣籠。 次がペンキ絵の端に描かれていた松の木だった。 幼稚園にも入っていない頃なのに、この記憶だけは残っている。

さて、松の湯。 中島師曰く、毎年ペンキ絵を描き替える銭湯が4軒あるという。明大前・松原湯と同湯。もう 一軒聞いたけど、三杯目のレモンサワーが効いたのか忘れてしまった。もう一軒は師が思い出 せずにいた。

松の湯は、以前から気になる銭湯だった。直ぐに、週末の銭湯行脚で訪れることになる。

現在の経営者は、昭和28年に同湯の経営を引継いだ。それまでは、目黒駅前の現在のみずほ 銀行のあるところで、大正時代から「栄湯」を経営されていた。現在の松の湯の建物は、昭和 36年築。唐破風のエントランス部を持つ典型的な東京銭湯の建物だ。

暖簾を潜ってのエントランス部は広い。左右にたくさんの松竹錠の下足箱が並ぶ。木枠のガラ ス戸を開けると、番台は前面がカーブした新建材を張ったもの。紺地の和服を纏ったいなせな 爺が座っている。年齢70歳くらいか、老けてはないない。眼光も鋭く、なかなかに粋で恰好 がいい。

そのご主人に500円玉を渡す。返ってきたのは50円玉。15日に東京の銭湯が値上げされ、 それを経験するのは初めて。値上げを実感する。わずか20円差だけど、おつりが70円から 50円玉1つに減り、何かだいぶ差がある感じがする。少なくとも、返ってくる硬貨が3枚か ら1枚に減った。

脱衣所の広さは、幅3間、奥行4間ほど。折り上げ格天井は高く、高級な檜材が使われている。 天井だけでなく、同湯は梁や柱を含め総檜で造られている。大黒柱など、今調達しようとすれ ば途方もない価格だろう。そんな典型的とも言える東京銭湯の空間に、初夏の空気が流れてい る。

2間四方はある大きな庭には池もあって、開け放たれた縁側から風が入り、大型の扇風機が音 を立てる。これも典型的な夏の風情だ。

島ロッカーや縁台とEIKOのアナログ体重計、新型マッサージ機があるくらい。飲料は牛乳 類専用の自販機とビンなどを引き抜く方式の2台の自販機があるだけ。このラインナップは珍 しいかな。

総じて、シンプルな空間だけど、埃などなく、全てが磨きこまれている。建物の材料だけでな く、とても上質な空間になっている。

浴室は、幅3間、奥行5間ほど。2段型の天井には白いペンキが綺麗に塗られ、くすみもない。 毎年、ペンキ絵だけでなく、合わせて内部のペンキも塗り替えているのだろう。さらに、柱や 梁など主要な部材は白木で維持されている。

床のタイルはパール色の鈍い光を放つもの。カラン台には御影石紋様のタイルと、シックだけ どゴージャス感があって、何よりピカピカで清潔感が高い。それに、湯桶はすべて手間のかか る木桶が使われている。

銭湯というものへの拘りと、高いレベルの緊張感が伝わってくる。優れた銭湯だ。

ビジュアルは中島師の富士山のペンキ絵。毎年描き替えられているから下地も状態がいいのだ ろう。絵の表面が平滑でペンキの乗りも安定している感じがする。

3枚の広告も残されている。「楽しいレジヤーの御費用は」で始まる質屋の広告と、薬局と医院 のもの。電話の局番が3桁であることからして実質的には機能していないんだろうけど、恐ら く、銭湯のビジュアルとしては外せないものとの配慮からだと感じた。

上がりは近くの酒屋の自販機で「極生」160円を頂く。かなり久しぶりに飲む発泡酒だけど、 いつの間には缶のデザインがアルミ地金にゴシック体の青字から、青地に銀色の文字に変わっ ていた。まぁ、あまり酒屋などでも見かけることがなくなったブランドだ。

金曜日の20:50から21:30に滞在。しばし浴室が小生だけになる時もあった。相客は5、 6人ほど。少し客が少ないかな。

帰りは、1.5キロほどの道程。道すがらの金春湯を眺めて、大崎駅に出て湘南新宿ラインに 乗る。ビル銭の金春湯は、客の出入りが多かった。なかなか良さそうな銭湯という雰囲気。

そう、中島師に横浜の弘明寺・すみれ湯が廃業し更地になっていることをお知らせした。師の ペンキ絵が、特徴あるレトロな浴室にマッチしていた銭湯。ご自身が絵を描かれた銭湯の廃業 をどういう風に知るのだろう。師の知らないところで、ペンキ絵だけでなく、銭湯がどんどん と消えている。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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金春湯