差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2012年3月27日火曜日 6:10
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 松の湯(足立区本木)

ナカムラです。

今日(3/18)は、「松の湯(足立区本木)」に行ってきました。 高野駅(日暮里舎人ライナー)から、1.2キロ、15分くらいです。

家を出て板橋駅まで歩き、途中、お遣い物の焼菓子を買う。そして、表参道で休日用の靴を購入。 今まではアシックスのLAKEWOODという防水性能が高いカジュアルな靴を愛用していたけど、そのブ ランドが廃止されてしまった。アウトドア系のティンバーランドでゴアテクスを組み込んだやはり 防水に配慮した靴を新調した。折からの雨なので、新しい靴を履いて店を出る。

今日のメインは、表参道ヒルズに隣接する「ギャラリー同潤會」で、友人・やすだまこと氏が奏で る"能管"演奏。14:00の演奏開始とともに何かのパレードが始まり、タイミングがこの上なく悪か ったものの、人間国宝口伝の技の数々を堪能させて頂いた。

普通の笛よりも尺八に近い低い音がベースながら、時折、”叩き”という蒸気機関車のホイッスルの ように甲高い音が挟み込まれる独特のものだった。演奏は100メートルを全力疾走するくらいに息 が上がるという。笛の世界の奥深さを垣間見せて頂いた。

かつて何処かで聴いたことがある。。。思い出せない。人間が古くなると思い出せないことが多くな り困ったものだ。

さて、夕方も近くなったので、表参道駅から千代田線で西日暮里駅に出て、日暮里・舎人ライナー で高野駅まで。降りたらいきなり自然の蓮池があるのどかな田舎の景色が広がっていた。さすが足 立区。東京は広い。

ここから同湯までの道のりが凄い。付近の全ての道が亀甲模様のように入り組んでいて、地図を仔 細に眺めながら進まなければならない。区画整理された直線的な道というものがない。どうなった らこのように開発されていくのだろうか。

途中で、豊明湯、あたみ湯(廃業)の前を通る。あたみ湯のコインランドリーが3月で閉店すると あったので、じきに黒瓦の伝統的な銭湯建物の解体に入るのだろう。

低層の住宅しかない地域でコンクリの銭湯の煙突は存在感がある。だんだんと松の湯も近くなって 来た。裏からのアプローチだったけど、路地の向こうに大きな銭湯の建物が見えるのは郷愁を憶え る懐かしい風景だ。

釜場の横ではタオルを口の辺りに巻いてご主人が、燃料の材木に”キュィーン”とノコギリを入れ ている。塀の内側には松木などが多く、そして枝が丁寧に刈り込んである。

正面に回れば、表の通りから10メートルくらい奥に引っ込んだ所に千鳥破風が重なる黒瓦を載せた 端正な建物がある。平入りの脱衣所。飾りで載せられた千鳥破風がエントランスのそれよりも大き い。近くの江北湯などと同様の堂々とした造りだ。手入れされた庭木が端正な雰囲気を倍加させて いる。一見しただけで、下町の優れた郷愁銭湯であることが分かる。

創業は昭和11年。現在の建物は昭和31年築。暖簾を潜れば平格天井の空間で番台裏の絵付けタイ ル絵(宝船。一部しか見えない。)が迎えてくれるという伝統的な造り。左右に並ぶのは松竹錠の下 足箱。傘立てなどはなく、下足箱の奥に丸い傘を差し込む穴がある旧来からの造りだ。

番台への扉を開ければ木組のどっしりとした番台にちゃきちゃきとした女将さんが座っている。

脱衣所の広さは3間四方。天井は折上げ格天井。2本の蛍光管が平行する昭和中期的な照明器が下 がる。ただ、番台や大きな鏡の男女境とともに、艶無しの茶色のペンキが無造作に塗られているの は少しばかり残念。ニス塗りであれば本来の高級さを感じるのだが。。。

脱衣所スペースにフルにスチームサウナ室が食い込んで設置されている。ロッカーは入口側の壁と サウナ室の壁に松竹錠アルミ板鍵のもの。もちろん、丸い籐編みの脱衣籠も現役だ。その他、飲料 が豊富な冷蔵庫にKeihokuのアナログ体重計などがある。

男湯だけらしいけど庭は見事だ。脱衣所の3間幅よりも広い庭には、大きな築山や庭池が配置され ている。さらに池を跨いで屋根を掛けた4畳半ほどの和風の涼み処が造られている。サウナを増設 し狭くなった脱衣所のスペースを補って余りある。折からの強い雨。池の涸滝も艶やかな姿に戻っ ている。

浴室は幅3間、奥行4間。天井は木板のペンキ塗り。天井の灯りだけでなく、外壁側にも3本の蛍 光管が縦に並び明るい浴室になっている。

島カランは1列で、カラン数はセンターから6・4・4・5。床のタイルは6センチ角くらいで内側に 滑り止めの突起が並ぶもの。カラン台は正面が紺色の縦長のタイルで側面はだいぶ剥げてきたもの の元々はパール色のものが煉瓦積みのように張られている。

浴槽は、奥壁に接した深浅2槽と浅槽の一部を仕切った大分別府温泉の薬湯槽。かなり析出物の多 いお湯だ。深槽の水枕付きの座ジェット×2は、元々6点のジェットがあったようだけど、今も噴出 を続けているのは双方とも1つだけ、あとは析出物で詰まっているようだ。中央は何らの仕掛けも ない素の浴槽。深浅の浴槽は双方ともに42度くらい。もちろん井戸水を沸かしたものだ。

さらに、外壁の”別府温泉”は、淡く茶色に濁りのあるお湯がバイブラバスとして供されている。 湯温が少し高く43度くらい。サウナは無料の湿式(女湯は庭に増設されているけど物置)。スチー ムサウナに入るのは久し振りだ。

これというものは無いけど、なかなかに満足度が高い、いい銭湯だ。

そして、ビジュアルが充実している。奥壁には早川さんの男女ぶち抜きの富士山のペンキ絵「西伊 豆(平成十八年十月十八日)」。保存状況もまずまずだ。ペンキ絵の下には海中を泳ぐ熱帯魚のモザ イクタイル絵。さらに男女境には絵付けタイル絵。白樺林に囲まれた川の流れ。後方には前衛の山 と白い高峰の後衛の山々が描かれている。

東京で計画停電になったのは足立区と荒川区の一部だったけど、1年前、同湯も計画停電になった という。薪でお湯を沸かしているし、カランのお湯は自然流下なので、それでもいいという客のた めに営業をしたものの、シャワーは使えなかったという。あれから丁度1年。女将さんの方からそ んな話を教えてくれた。以降、お客さんがこまめに涼み処の電気のスイッチなどを操作してくれる ようになったらしい。

日曜日の夕方17:30から18:20に滞在。相客は4、5人ほど。どこからも遠く、距離以上に曲がりく ねった道を辿ってやって来るのは大変だけど、やはり想像していた通りの優れた郷愁銭湯だった。

帰りは西新井方向に歩いて行き、途中、西新井駅から赤羽駅に向かう路線バスに乗り込んだ。環七 をずっと進むのかと思っていたら、西新井大師駅西(日暮里舎人ライナー)や鹿浜、川口市の領家 などを通り、再び都内に戻るという複雑なルートを通るバスだった。これを使えば、赤羽から川口 市のいくつかの行きにくい銭湯にアクセスするのに便利だということも分かった。

上がりの一杯は、久し振りに赤羽の「まるます家」。鰻の値上がりは収まっていないようだ。軽く飲 んだ後に頂いていた750円のうな丼がメニューから無くなっていた。一時期は850円でがんばって いたけど、だめだったようだ。

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