三田浴場（目黒区三田町）

差出人: Masayuki Nakamura
送信日時: 2007年6月23日土曜日 7:11
宛先: 銭湯ＭＬ (sento-freak@kt.rim.or.jp)
件名: 三田浴場（目黒区三田町）

ナカムラです。

今日（6/22）は、「三田浴場（目黒区三田町）」に行ってきました。
恵比寿駅(山手線)から、0.7キロ、10分くらいです。

今日は夏至。横浜の日の入りは19:00。最も日が長い一日だ。
会社は｢ブラックイルミネーション2007｣という、ＣＯ2削減のためのライトダウンキャンペーンに参加しているため、20:00に巨大ビルが全館消灯となる。これ幸いと、社食で「力うどん」をかき込んで、恵比寿駅へ向う。

以前から、ちょっと気になっていた｢三田浴場｣が今月末を以て廃業する情報を頂いたからだ。

同湯付近は、中目黒に勤めていた時に、昼休みの散歩で時折歩いた。

恵比寿駅から、動く歩道を乗り継いで、ガーデンプレイスまで行けば、近くの目黒三田商店街の中にある。商店街といっても、既に、同湯と向かいのマンドリンという理髪店、八百屋の三軒の店しかない細い坂道だ。何と趣きがあるアプローチだろう･･･。

石川県ご出身の先代が、昭和10年に創業した。現在の建物は昭和37、8年の建物だ。後方にはコンクリ煙突の影が見える。細い路地につき、建物は横置きで、屋号を記したトンネルのような入口がある。手前が男湯になっている。

下足箱は松竹錠。2番の箱に靴を納めた。サッシの扉には、諸般の事情により6月30日(土)で閉店する旨を、カレンダーの裏紙に書いた貼り紙がある。

脱衣所に入ると、前面がカーブしたレザー張りの番台に女将が鎮座している。70歳は近いだろうけど、若々しい、かつてかなりの美人だったと思しき素敵な方だ。530円を渡して100円を受け取る。金曜日の20：30。男･女湯合わせて、この場に居るのは、小生と女将のみ。テレビも無く、ラジオも掛っていない、ただただ静寂な空間という脱衣所だ。

最近は泥棒対策として、番台から近くの、番台から見通せるロッカーを使うようにしている。この女将の前で裸になるのは、少し、恥ずかしい感じがした。

脱衣所の広さは、幅2間半、奥行2間強と小ぶりだ。天井は格天井で、鏡板には日本画調のクロスが使われている。梁には木目鮮やかな欅板、床には足触りがいい桜材が使われている。これは･･･。やはり、大黒柱の時計は鈴和建設から寄贈されたものだ。

松竹シリンダ錠の島ロッカーが横置きに1つ。小さな脱衣所には多少不釣合いな寺岡式の大きなアナログ体重計。高窓がプーリーとワイヤーで操作し開閉できるような珍しい仕掛けもある。その他、新型マッサージ機、少量の飲料だけが入った冷蔵庫などがある。基本的に余計なものは何もない、シンプルで、そして清潔な脱衣所だ。

脱衣所と浴室の間は、全面がサッシになっている。中央にある洗面台を挟んで２箇所のサッシの戸があるけど、これが凝ったものだった。見かけは普通のアルミサッシの戸だけど、夫々が、少しだけ斜めに取り付けられている。こうすることで、｢半自動ドア｣として、開けた戸が自動的に閉まる。冬など、浴室に寒い風が入らないようにとの工夫だ。ちょっとしたアイディアだろうけど、これを正確に施工するのは難しいと思う。鈴和建設もなかなか味なことをする。

浴室は、幅2間半、奥行3間の中型の浴室だ。天井高は、センター部分が2間と3/4、外壁側が３間。外側がセンターよりも高くなっている。木板で組まれた天井は、かもめが羽を開いた如く、微妙にカーブしている。あまり見ないタイプの天井だ。

島カランは1列で、カラン数はセンターから5･4･4･4。カランは日の丸扇の刻印がある古い丸型のもの。シャワーはセンターのみ。立ちシャワーなんてものもない。カラン周りのタイルは古くはないものの、床は懐かしい白色の3センチ角タイルが使われている。

椅子は清潔に磨かれたミドリ椅子のみ。浴槽の傍らに積み上げるのが同湯での作法のようだ。湯桶は黄色の無地のもの。

浴槽は、深浅2槽。双方ともジェットだのバイブラなんてものは付いていない。浅槽も深槽とも湯面は｢素｣だ。底が透き通って見える。温度は41と42度くらい。

この静寂な空間で、中島師のペンキ絵を眺めながら、ゆっくり湯に浸かる至福の時間がある。
レトロで清潔な浴室。いい空間だ。

恵比寿ガーデンプレイスは、ビールの試飲が目的で見学したこともあるけど、かつてはサッポロビールの恵比寿工場だった。同湯は近い立地ゆえ、昔は木箱だったビール函を解体した木材で、ビール函がプラスチックに変ってからは、ビール工場で使われるフォークリフトの木製パレットで湯を沸かしていた。

現在は井戸の出が細くなったので水道だけど、かつては井戸水を沸かしていた。下水道料金は、井戸の汲み上げ時間に応じて課金されるため、井戸の出が細くなって汲み上げに時間がかかっては割りに合わないらしい。

ビジュアルは、平成17年に描かれたこの中島師の富士山。そのほか、男女境には既製品のモザイクタイル絵がある。

脱衣所の中普請は10年ほど前。釜場は昨年にほぼ全てをリプレースしている･･･。同湯の歴史と歳を同じくするご主人と、この女将。何があったのか、たまたまなのか、急に、銭湯経営という仕事から解放されたくなったようだ。夫妻とも目黒で育ったので、目黒で新たな家を探しているけど、この土地からも解放されたいという感じだった。

上がりは、明日に検査がああって、お茶くらいしか口にできないため、缶入りのお茶120円を頂く。

女将は、中目黒小学校のご出身だった。終戦直後の時代なのに、向かいにあったアメリカンスクール(現目黒区役所)の生徒のお迎えのために、駒沢通りに外車が列をなしたという。敷地は、一面の広い芝生に白亜の建物が2棟。硝子が割れて、ボロボロだった中目黒小学校と大違いだったと笑っておられた。

ご常連には、在庫のシャンプーやタオルなどを袋にたくさん入れて渡していた。小生にも3本ものタオルのおすそ分けがあった。感謝。。。

金曜日の20:30から21:30に滞在。相客は2人。

清潔。静寂。美人女将。
気になっていた銭湯だけど、行ってみたら、やはりとてもいい銭湯だった。

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ナカムラ　（Masayuki Nakamura）
URL: http://www7a.biglobe.ne.jp/~masayuki/ （風呂屋の煙突）
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女湯	天井や梁が鈴和建設の施工と判る綺麗なものだ。

男湯。ペンキ絵は中島師のもの。
女湯	ジェットすらないイニシエの姿を守ってきた。

小生のメールを読んで、同湯を訪れた友人からメールが届きました。

三田浴場では、①鈴和建設、②斜めのドア、③欅だか檜の木（付随して釜の話もあった）、④中島氏の絵、⑤タイル絵、⑥アメリカンスクール、⑦井戸の地下水、⑧ロッカーの鍵、⑨最近のフロなしアパートの動向、⑩何故やめるのか（詰まるところ、主人が「あまり歳をとりすぎる前にやめたいなぁ」とのこと。二人の息子もそれぞれ独立したし。でも、残念そうだった）、⑪フロ桶とイスの離れている理由、⑫区の対応、などなど、結構おかげでお話できた。

きれいにしているシンプルな銭湯だからか、フロに入ってさっぱりして、にこにこして帰るお客の様子が目に浮かんだよ。しっかりした、良い銭湯だった。細々だけど、食べていければそれで良い、という、銭湯経営だけでなく、生活までシンプルな感じがして、田舎の母親とかぶったよ。

最後に、「ナカムラさんは番台の奥さんがきれいで、入り口近くのロッカーで裸になるのが恥ずかしかったって言ってました」と言ったら、少し照れていたよ。この銭湯でのコメントかどうかはよく覚えていなかったけど、まぁ悪い気はしなかったみたいだから。。。

この建物をどうするかは白紙とのこと。ほんともったいないな。

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