差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2013年7月11日木曜日 22:32
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 武蔵湯(津山市川崎)

ナカムラです。

今日(6/20)は、「武蔵湯(津山市川崎)」に行ってきました。 東津山駅(因美線/姫新線)から、0.9キロ、10分くらいです。

早朝、サッカーコンフェデレーションズカップの日本VSイタリア戦をテレビ観戦。その後、大雨の 中を津山へ移動する。

岡山発津山行の快速ことぶき号は、国鉄時代からの懐かしい気動車。津山線に寄り添う川はかなり の増水。さらに、線路際に茂った枝が窓ガラスをバンバン打ち叩く。これぞローカル線。津山線は、 車両、沿線設備、風景とともに、久し振りに乗る正真正銘のローカル線だった。

勢い余って、津山駅の扇形の旧機関庫に行く前に、駅観光案内所にあった「鉄道遺産を歩く/岡山の 国有鉄道(小西伸彦)」という書籍を買い求める。中国地方のローカル線はレベルの高い鉄道遺産が 集積しているようだ。そのうちに、因美線や木次線などに乗りに来たいと思いを募らせるものだっ た。

先ずは津山城東側の「津山温泉」を目指す。大正時代の旧土居銀行の建物やアールデコの翁橋など が残る一角にある。惜しくも、昨年末、廃業したらしい。パネルが張り付けられているものの、古 そうな建物の銭湯で、パイプ型の煙突もそのまま残っていた。

さらに、伏見町・材木町辺りにあった遊廓跡を散策。思案橋という小さな石橋だけしか残っていな いと思っていたけど、旧妓楼と見られる複数の軒灯の跡が連なる建物など、往時の建物を幾つか見 ることができた。

そろそろ草臥れたのと、夕暮れが迫ってきたので、2キロ程度離れた東津山の武蔵湯へ急いだ。

まさに旧街道という雰囲気を残す出雲街道の川崎。街道に面した連子格子の武岡米穀店の建物の端 に、奥へと通じる通路がある。1人がやっと通ることができるほどの幅の、小さな暖簾が掛かって いる。何という郷愁風景だろう。

同湯は、この細い通路を抜けた奥にある。創業がいつかは分からないとのことだったが、戦後始め た米屋よりは古いといい、戦前からの銭湯であることは間違いない。

現在の建物は、米屋の建物の奥に独立して建っている。全貌はおろか、煙突すら窺えない。もっと も、女湯の脱衣所からアクセスする釜場には、短くしたものの煙突があるという。

小雨が降っているけど、それを遮る庇すらない簡素な建物。目隠しを兼ねて、男女それぞれの入口 に暖簾が下がっているのみ。

暖簾を潜ればコンクリのタタキに番台。いきなり脱衣所が広がる。下足箱などはなく、番台の側面 に靴棚がある。相方が女湯にいる若女将に2人分の風呂銭800円を渡す。

表も釜場も一人でこなす有森裕子似の若女将によれば、津山にはピーク時に30軒ほどの銭湯があっ たという。しかし、昨年津山温泉が廃業。最後にはなりたくないと思っていたものの、津山市の最 後の一軒になってしまったという。

コンクリ造で粗末な波板を載せただけの屋根の浴舎は昭和39年築。脱衣所は火事に遭ったので、昭 和49年に建て直したものらしい。

脱衣所は、幅2間、奥行2間ほど。床は板の間。天井は今時のビル銭湯と同じくらい低い。壁も天 井も、紙が貼られた石膏ボードを何の仕上げも施さず、そのまま使っている。

ロッカーは木製のもので、錠はなく透明な硝子扉に数字がペイントされている。ロッカーの扉が透 明な硝子というのは珍しい。アナログ体重計などは無い。旧型マッサージ機がスペースの中央で普 通の椅子として使われている。

トイレは非水洗。久し振りの非水洗。子供のときの、これに跨る時の恐怖を思い出す。大人になっ てからも、携帯や鍵などを落とさないか不安をおぼえる。普通は臭いものだけど、臭いが無いのが 不思議だった。

浴室は、大きく言えば台形だけど、外壁側に張り出した部分があるなど複雑な形をしている。天井 は簡素な波板が載った片流れで、脱衣所側が高さ3間、奥壁側が2間半。脱衣所側には鎧扉の窓が 置かれている。床のタイルは濃淡の大小のタイルを井桁のように張っている。壁はコンクリに直塗 りされたペンキが風化してボロボロ。微かに苔蒸している。

カランは奥壁に4機。しかし、実際に稼働しているのはシャワーが付いた2機のみ。よく見ると外 壁側に6機ほどのカランを外した跡があった。シャンプー、ボディーソープのボトルと固形石鹸が 提供されている。若女将の人柄が感じられる。

広い浴室だけど、浴槽は男女境に接した隅に、堀り込まれた畳一畳ほどの広さのシンプルなものが 1つだけ。水道の水を廃材で沸かしたお湯は、やや温く41.5度くらい。

湿気が絶えることがない湯治場の雰囲気といったらいいだろうか。銭湯としては、結構壮絶系と言 っていい。しかし、静寂な広い空間で湯に浸かっていると、遙々やってきて、ここに身を置くこと の満足感が込み上げて来る。

少数の同湯の常連客は、みな内風呂を持っている。身体を洗うためだけに通って来るのではない。 だからこそ、なかなか廃業に踏み切れなかったのだろう。でも、そろそろ潮時。店を畳む覚悟が固 まった。

岡山県内では、そっちこっちで大雨警報が鳴り響くような雨降りの日。木曜日の19:00から20:00 に滞在。相客は3人。店に入って直ぐ、若女将からもうじき店を畳むと聞かされ、少々感傷的にな っていた。しかし、そんな感傷に値する、津山最後の一軒、味わい深い郷愁銭湯だった。若女将か らの新グロモント。とても冷えていた。

帰路、電話で地元のタクシーを呼ぶ。”川崎”の”武蔵湯”と話しても要領を得ない。ようやくやっ て来た運転手によれば、同湯からの客を乗せるのは何年か振りらしい。地方銭湯では、交通弱者の 年輩者がタクシーを呼ぶのは珍しいことではないので意外だった。

上がりの一杯は、精悍な運転手の案内で、宿から近い新開地の「小次郎」という古民家居酒屋へ。 宿泊先は築80年余の料理旅館「お多福」。向かいは古い立派な写真館。電柱には「新開地支」とあ った。昔はこの通りに4軒ほどの旅館があって、三味線の音が聞こえて来たという。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
メイン:masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp  
URL: http://furoyanoentotsu.com(風呂屋の煙突)
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