目次
ある理髪店の閉店
 2016.08.06.







先週、旅行から帰って、いつも通っている理髪店の前を通ると、日除けのテントが新しくなっていることと“暫く休業します”という貼り紙があった。

どうしたんだろうと気になったので、整形外科に行くついでに店の前を通ると、何と閉店のお知らせに変わっていた。大将か女将さんに何かあったに違いない。店の前で呆然としていたら、中に女将さんの姿があった。

暑いから中へどうぞとカーテンがが閉ざされた店内へ招き入れてくれた。何を話す間もなく“あたしで良ければ切りますよ”と言ってくれた。厚かましいとも思ったけど、これが最後かも知れないと思い、厚意に甘えることにした。刈ってもらっていながら、問わず語りに1時間半くらい話した。

いつも客が少ないので、大将の散髪の時間は時々の話題次第だった。昭和元年創業。町会長や地域の環境衛生同業組合の幹部なども務められた大将と地元出身の女将さんに、地元の昔話を本当によく教えてもらった。ここに越してから通い始めた医者は、全て大将から教えてもらった所にお世話になっている。。

先週、80歳までは頑張ると言っていた大将が倒れ緊急手術だった。幸い快方に向って2、3日前に退院したという。しかし、再発の危険性もあり、閉店の決断をされた。過去2回ほど、長期に仕事を離れたことがあったけど、その時は健在だった大女将さんと女将さんで凌いだ。しかし、既に女将さんも十ニ分にご高齢の域にあり、1人でこの店を切り盛りすることに2人の娘さんが反対したという。

仕事は“十分やったんじゃないですか”というのが女将さんの大将に対する評価で、それは間違いないだろう。アクが顔から滲み出ているような人柄だったけど、総ばさみで髪を刈ってもらう心地よさに、必ず半分は居眠りし、それが何よりも心地よかった。

腕は確か。客の心情や間合いも驚くほどに汲み取ることが出来る方だった。亡き父と同い年ということも、どこか小生と通じる部分があったのかも知れない。

理髪店のある角っこでお会いした時には立ち話でもしたいものだ。
早く元気になってほしい。

※写真の廃理髪店は、本文中の理髪店とは異なります。