差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2008年9月21日日曜日 17:06
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 滑床湯(石川県加賀市田尻町)

ナカムラです。

今日(9/10)は、「滑床湯(石川県加賀市田尻町)」に行ってきました。 大聖寺駅(JR北陸本線)から、6キロくらいです。

今春、大聖寺駅から同湯のある橋立という漁港へのバスが廃止された。 歩くと優に1時間はかかるので、タクシーで向かうことにする。

橋立は、「はしたて」と読む。現在は海際の小さな漁港の町だけど、かつては北前船の船主の屋敷町だった。寄港地は多いけど、同地はそうでないところが珍しい。

「犬神家の一族」に出てくるような屋敷(吹屋・広兼邸)に似た、豪壮な屋敷が残っていて、 そのいくつかは公開されている。公開されている建物への道は整備されているけど、誤って隣の道を登って行ったら、空家だったり、廃墟になりかかろうとしている豪邸がいくつかあった。

立派な建物が朽ちていくさまは美しいと思う。猛烈に蚊に食われながら、モノクロで何枚かの 写真を撮らせていただいた。

さて、滑床湯。「滑床」とは、かつて同湯で使われていた、肌がすべすべする、とろりとした粘 度ある水が出た井戸の名前だ。同湯に限らず、この地域の井戸は似たような性質の井戸が多くあったようだ。屋号はそこから来ている。

北陸地方の銭湯は、ビル銭湯が多い。全く情報が得られなかった同湯に赴くのは賭けだった。
しかし、同湯の建物を観た瞬間、報われた気がした。広い砂利の敷地の奥に、土管を継いだ煙突を持つ板張りの木造の2階家。大正末か昭和初期の レトロ度が高い建物だ。

アルミサッシの風雪避けの中に下がる暖簾を潜る。番台裏には鈴榮堂のタイル絵。絵柄は旅人 が渓流で休んでいる図。微細なタッチで描かれている。紅葉が描かれているのも珍しい。絵付 け師の銘は無いものの見事なものだ。鈴榮堂は金沢のタイル屋さん。ここ大聖寺に県立の九谷焼美術館がある。九谷焼きタイル絵の本場と言っていい。

タイル絵の両サイドには2つの扉があって扇型に「男」とある戸を開ける。 コンクリのたたきに番台。その反対側には下足箱という地方銭湯の典型的な構成だ。脱衣所の 広さは、幅2間、奥行3間。床は籐敷き。外壁側に台形のガラス窓がある北陸仕様のロッカー のほか、脱衣籠、冷蔵庫、アナログ体重計など最小限のものがあるだけのシンプルな脱衣所だ。

浴室は、幅2間、奥行2.5間ほど。カランは男女境に4、外壁側に4。男女境にはシャワーも しっかり付いている。タイル類は更新されていて古いものはない。床はグレーのタイルで、壁 は長方形の厚手の白いタイルだ。

浴槽は奥壁に接するかたちでの深浅2槽。「滑床」というぬめりは感じられないものの、湯温4 2度強の薪焚きのしっとりとしたいい湯だ。

浴室にビジュアルはないものの、明るくはない浴室は、相客がないこともあって幽玄な感じす らする。落ち着いた優れた空間だ。

上がった時には、番台は大女将に代わっていた。誠実な人生を歩んできたんだなぁという顔をされている。ひょっとしたら90歳を超えているのかなと思って、失礼ながら彼女の耳元に歩 み寄って年齢を伺った。返ってきた答えは「歳、取りましたぁ。。。」というものだった。素敵な間合いがとても心地が良かった。

海沿いの街道には何軒かの磯料理屋がある。しかし、越前ガニの季節でもなく、予約が入っていない時には店を開けていない。居酒屋や食堂的なものも見当たらない。本能に忠実で、食べ物が無いことにひどく臆病な小生。地元の食糧品屋が閉まる前に、念のためにとカップラーメ ンを調達しザックに確保した。結果的には、その後に暖簾を掛けている料理屋が見つかったので、19:30きっかりに来るから、何でもいいから夕食をと願いししておいた。

風呂を上がって19:30に赴くと。半信半疑だったのか、カウンターに女将一人が座ってい て、蒸し暑い中、ようやくクーラーのスイッチを入れてくれた。刺身定食とビールで2900 円。橋立漁港に揚った地物しか使っていないという刺身定食は美味しかった。

小松ではなく、大聖寺に宿を求めたのは、今日から週末まで小松のホテルは満室だった。何かあるとは感じていたけど、すぐ近くの片山津ゴルフ倶楽部で今日から女子プロのツアーが開催 されていた。

腹が朽ちたので、夜に始まる橋立の小さなセリを見る。そういえば、本当は立入り禁止のせいもあるけど、セリを見たのは初めてかも知れない。夜に始まるのも意外だったけど、小さな小 さなセリだった。近くに片山津温泉という大きな温泉があるけど、そこを賄うほどの量はないらしい。

いい風呂にめぐりあえて、地の刺身にあり付けて幸運だった。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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1938(昭和13)年開業