差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2010年12月3日金曜日 22:32
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 七滝湯(宮古市鍬ヶ崎仲町)

ナカムラです。

今日(11/20)は、「七滝湯(宮古市鍬ヶ崎仲町)」に行ってきました。 宮古駅(山田線)から、2.4キロ、30分くらいです。

昭和9年に盛岡からの山田線が開通し、宮古駅が開設されると、賑わいは徐々に駅の近くに移 っていった。しかし、漁で栄えた宮古の元々の中心地は、宮古港を取り囲むようにある鍬ヶ崎 だった。

上町・仲町・下町を貫く通りには、菱屋酒造の酒蔵(男山)、金融機関、鍬ヶ崎遊廓の旧妓楼、 漁協などが並び、かつての殷賑を偲ぶことは容易だ。

同湯は、鉄道が開通するはるか昔、鍬ヶ崎が栄えていた明治27年に創業している。4軒となっ た今でもそうだけど、ピーク時に19軒あった中でも、宮古で最も長い歴史を有している。

そして、宮古といえばサンマ漁。今年はのっけからの不漁で漁獲量は少なかった。しかし、魚 価が昨年の2倍で、漁師の身入りは良かったようだ。

同湯に営業時間を確認する電話を入れたら、サンマ船の入港次第というものだった。漁港の銭 湯の経験もあるけど、その日の漁次第というのは初めてだった。

盛岡の遊廓跡(八幡町・松尾町)などを散策し、昼過ぎに岩手県北バスの急行で宮古に入った。 日入りの時刻は16:15。東京よりも15分ほど早い。鍬ヶ崎遊廓跡を抜け、同湯に着いた時には 既に日が暮れている。

昭和31年築という現在の建物は、五角形の野球のホームべースを立てた形をしている。そして、 その後方に脱衣所と浴舎、油井型の煙突が連なる。

暖簾を潜りサッシの戸を開ければ、奥行半間ほどの靴脱ぎスペースがあって、外壁側にオール 木製の下足箱。番台裏の部分には、漁師が使うのか洗濯機が置いてある。

寒冷地故の二重構造。もう一つの戸を開ければ番台と脱衣所がある。宮古の銭湯料金は4年前 から390円。若き大将を早くに亡くし、以降、一人で同湯を切り盛りして20数年が経った。70 路を少し過ぎただろうか、そんな女将さんに風呂銭を手渡す。

一人漁師町で薪をくべているのが似合わない華奢で上品な方だ。10日ほど前に細かく営業時間 を聞いてくる奇特な旅行客のことを覚えていてくれた。

相客は浴室に一人。脱衣所には、ただただ、相撲中継の音だけが流れている。

宮古の漁港をベースに1ヶ月半ほど沿岸でサンマ漁をしていた出稼ぎの漁師たち。その間、同 湯に通い詰めた。そして、サンマ漁の終わりとともに、さっき預けていた桶を持って、海路、 北海道に帰って行った。彼らはこれから北の海で鱈漁に移る。ずっと賑やかだったのよと言う 女将が、何処となく寂し気に見えた。

脱衣所の広さは、幅2間半、奥行は3間ほど。天井はフラットな天板で、平屋ながらさほど高 くはない。番台は木目プリントの新建材張り。一部にショーケースが設えてあるもの。床はク ッッションフロアになっている。

ロッカーは外壁側に、真鍮製の取っ手だけで錠が無いオール木製ロッカーが9個ほど。扉の真 ん中に古い広告が張ってある。脱衣籠も20個くらい積まれていて、こちらが主力のようだ。

その他、Yamatoの古いアナログ体重計、小岩井の飲料がたくさん入った冷蔵庫、木製ベンチな どがある。

入口側コーナーの高い所にはテレビが置かれ、その前にはテーブルと椅子。その上に飴が入っ た籠と「自由に食べてくださいね」と書かれた煎餅の缶がある。家族と離れて漁に出ている漁 師たちとの交流を感じさせるものだった。

浴室の広さは、幅2間半、奥行3間半ほど。天井は緩やかなドーム型で真ん中に、波板で塞が れた湯気抜きの跡がある。天井も奥壁を含めた壁もプラ板が張られている。

壁は腰高さまで10センチ角の白タイル。床は滑り止めのザラつきのある5センチ角程度のグレ ーのものが使われている。

島カランはなく、カラン数はセンターと外壁側に各5機ずつ。カラン台はステンレス張りと実 用を重んじた仕様になっている。

古くはないタイル使いながら、洗い湯を流す溝はない。そのかわり、各カランの下に、個別に 小さな排水口がある。見たことがない構造だ。

浴槽は、奥壁に接するかたちで深浅2浴槽。漁師町の銭湯の通例で湯は熱い。深槽は44.5度、 浅槽は43度くらいはある。水道の水を薪と大鋸屑で沸かしている。硬度のある水なのか、あま り柔らかな感じは無かった。

ビジュアルはなく、殺風景というか質実剛健な浴室だ。そんな中、コーナーの三角棚に椿の枝 だろうか、ペットボトルを切った器に差してある。その下にはオレンジ色の漁に使う浮き玉が 下げられていた。ディスプレイとしてはかなり無骨なものだった。

上がりは、小岩井牛乳120円を頂く。腰に手を当てて飲むんでしょうと茶化されながら。銭湯 道を良くご存知の女将さんだった。

上がりの一杯は、今日揚がったサンマの刺身で始めたい。しかし、外で食べるものではないの か、サンマを食べさせてくれる店は限られているようだ。女将に何軒か教えてもらって、電話 までしてくれた最初の一軒は、無いとの答えだった。

もう一軒に行くが灯りは無かった。最後の選択肢は、翌朝、朝湯に入ると決めている「福島湯」 の向かいにある「無礼講」という居酒屋。活気ある店だ。果たして、今年最後のサンマに出合 うことが出来た。旬が過ぎているからか、やや細身だったけど、脂っこくなくて美味しいもの だった。

なかなか宮古は遠い。しかし、行く機会があるならば七滝湯とともに「無礼講」という居酒屋 の名前を覚えておいて損はない。安くて、どれもが美味しい居酒屋だった。

*************************************************
ナカムラ (Masayuki Nakamura)
メイン:masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp  
URL: http://www7a.biglobe.ne.jp/~masayuki/ (風呂屋の煙突)
*************************************************















海鮮料理・無礼講


旧鍬ヶ崎遊廓の遺構。現在はアパートのようだった。。。