南部湯（福井県勝山市元町）

差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2008年9月21日日曜日 17:24
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件名: 南部湯（福井県勝山市元町）

ナカムラです。

今日（9/1１）は、「南部湯（福井県勝山市元町）」に行ってきました。勝山駅（えちぜん鉄道線）から、1.0キロ、10分くらいです。

福井から終点の勝山までは２８キロで５５分くらい。かつては、大野まで線路が延びていたが、昭和４９年に廃線になっている。もっとも、勝山までも京福電鉄時代に事故が重なり一旦廃線。その後、第三セクターで復活したという稀な経歴を持った路線だ。

勝山駅は、地方の鉄道駅の通例で町のかなり外れにある。九頭竜川を渡った地域が町の中心になっている。駅が町はずれにあるので、町の中心にたどりつく前に、やや町の端に追いやられていた勝山遊廓跡を通る。まさに河原に近い「河原通り」がそれだ。目抜き通りに桜並木があって、当時からの古桜も何本か残っている。結構、往時の遊廓の街並みがオリジナルな姿で残っている。

大野ほど立派ではないものの「御清水（おしょうず）」という湧水井戸がその中心にあって、周りに立派な妓楼が数軒固まっている景観は見事だ。あまり期待していなかったので、その保存の良さに少し興奮して小さくガッツポーズが出る。他人が見たら？？？という光景だろう。われながらアホである。

でも、昨日、メイン機の一眼レフ（PENTAX/Ｋ１０Ｄ）がミラーの動作不良でリタイア。大聖寺のホテルからメーカーの修理センターに強制送致となった。手元に残るのはリコーのコンパクトカメラ２台（ＧＲ―ＤⅡ、ＧＸ２００）。頼りになる高性能機ではあるが、得られる画質は一眼レフと歴然とした差がある。まぁ、こんなこともある。そう自分に言い聞かせて、充実した被写体群に向かうことにする。

遊廓を一通り撮影した後、近年廃業した旧谷澤湯、旧長渕湯（煙突、釜場を最近撤去）、松の湯跡（ススキたなびく空地）を見てまわる。さらに、現役の喜久の湯、福の湯。ひと通り周った後に、最もレトロな「南部湯」に入る。勝山を歩いていると南部姓が目に付くので、同湯は苗字からの屋号なのかも知れない。

昭和初期か大正の終わりごろの木造の２階家。後方にパイプの煙突が伸びている。こげ茶色の沈んだ色に、前に並べられた鉢植えの花の鮮やかな色と、オリジナル暖簾の緑色が映える。

暖簾を潜って戸を開けると、コンクリのタタキがあって、傍らに木組の番台。その反対側に小さなおしどり錠が付いた下足箱。下が靴棚になっている。この下足箱、入り口に垂直に置かれている。その向こうには旧型マッサージ機、アナログの体重計、ベンチ。普通の地方銭湯とはちょっとだけ違うレイアウト。マッサージ機のある休憩エリアとの仕切りとして機能している。ただこれでだけど、上に鉢が並べられていることもあって、入った時の印象は大きく違うものだ。

そして、番台、入口周り、オール木製ロッカー、天井などの作りこみが、装飾などなくシンプルだけど精緻な感じがする。すべては黒とこげ茶色の中間の色をしていて、繊細だけど強固な感じを受ける。広さは幅２間強、奥行２間半ほど。かなりレトロで上質な空間だ。

浴室は、幅２間強、奥行は４間くらいとかなり縦長の浴室だ。天井は四角錘型で男女の真ん中に湯気抜きがある。浴槽は、男女境に接して中央に深浅２槽。カランは外壁側に縦長の浴室に１列ずらっと並ぶ。壮観でシンプルな光景だ。カラン台の前の椅子を置く部分が、ゴルフ場のグーリーンのように高くなっている。身体を洗った湯が、カラン下の溝だけでなく、後方にも流れ排水される構造だ。こんな仕組みに接するのは初めて。レアな構造だ。

湯は大鋸屑で沸かしている。近くの製材所から調達すると話していたが、かつて福井に沢山あった製材所は減っているはずだし、昨今の建築着工件数の急減で、工場の稼働は落ちている。そんな中で、銭湯の焚き物としては最も適している大鋸屑で沸かした湯に入れるのは幸せだ。

ビジュアルはない。しかし、相客がない中で幽玄な浴室を独り占め。脱衣所との境は磨きこまれたガラス張りで激シブの脱衣所空間が眺められる。なかなかに寛げる空間だ。

上がりは飲み物のなどの販売はない。ビールを求めてまた遊廓だったエリアに戻る。遊廓跡のスナックは時間が早いからか廃業しているからか判らないけど、看板に灯りはない。

元遊廓だったのか、元から料亭だったのか、古風な料亭建物を使っている寿司屋兼てんぷら屋の「吉志川」に入る。これで、１６：45の越前大野への最終バスには乗れなくなるけど、遊廓跡に残る当時からの建物で一杯やることを優先する。

内部は改装されていて、どおってことはなかったけど（２階を見せていただくのを忘れた）、アマチュアカメラマンとして福井では有名だった先代の作品を見せていただいたり、去年勝山市教育委員会がまとめた「勝山市の歴史的建造物」という本を頂いたりした。

勝山の歴史ある建物が、一部図面入りで記録されている労作で、この店やとなりの大料亭「花別別館」が載っている。恐らく、調査に協力したので献本されたものだろう。大将は、一見客に対して「興味ある方に読んで頂いた方がいいです」と話された。

早い時間の終バスをやり過ごし、タクシーでの大野行きを余儀なくされたものの、勝山での時間は満足なものだった。

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