差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2007年11月18日日曜日 8:35
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新島湯(群馬県太田市新島町)

ナカムラです。

今日(11/17)は、「新島湯(群馬県太田市新島町)」に行ってきました。 太田駅(東武伊勢崎線)から、0.7キロ、7分くらいです。

戸塚駅から湘南新宿ラインで久喜駅まで。東武伊勢崎線の鈍行に乗り換えて1時間ほど。絹織 物で栄えた北関東には訪れたい銭湯や遊廓跡が多い。

もう少し早い時間に来れば良かったかなと、後悔しつつ午後3時過ぎに太田駅に着く。陽が短 い季節につき、多くは望めない。現地で遊廓跡の聞き込みをした後、高砂湯の外観を見て、新 島湯に向う。太田にはピーク時に13軒銭湯があったが、現在は本町の高砂湯と同湯の2軒だ けになっている。

太田は北関東随一の風俗の街らしい。あまり歩く時間がなかったので、新島湯へ向かう途中、 端っこを通り過ぎただけだけど、太い街路に大きな風俗店が点在する感じで、新宿の歌舞伎町 や横浜の曙町などとだいぶ趣が異なる光景だ。

さて、新島湯。付近は新島町なので地名由来の屋号だ。土管を継いだ煙突に黒瓦を載せた大 きな2階屋。ただ、2階の休憩部屋の雨戸は久しく開けられていない様子。また、一階中央の玄 関も同様に開かずの扉になっている。かつては、駐車場になっているところに樹木が茂ってい て、昼湯有り、宿泊も可能な一大娯楽施設だった。

銭湯には「公衆浴場入口」と札が掛かった、開かずの玄関の隣にあるアルミ扉の出入口から入 る。この立派な建物は昭和16年築。一時は入場制限をした時代もあったようだけど、今は旧男 湯を2つに仕切って、そこを男湯と女湯として、縮小して営業している。こうなってからもかなり の時間が経っているようだ。

入口を入るとスノコがあって、靴を盗まれる旨の張り紙がある。小さな靴棚は番台の戸を開けた 所にある。

同湯は元旦を除く年中無休。17:00から22:00までの営業。83歳の女将千切春子さんに300 円を払う。番台は、中に椅子を置いた大きなものだ。かつての番台はもっと建物の中央にあっ たので、恐らくオリジナルではない。

脱衣所の幅は、オリジナルは2間半程だけど、現在はその半分となっている。奥行きは2間半 ほど。まさに地方の小銭湯。高さがない格天井がややボロボロになっている。床はビニールの ゴザ敷き。男女境は、厚手の大きな鏡が3枚連結された立派なもの。ただ、鏡面が剥げてこの 建物に相応しい風合いに落ち着いている。

今日は、今秋一番の寒さだ。脱衣所には灯油のストーブが焚かれている。最近は、この懐かし い灯油が燃える匂いを嗅ぐ機会も減った。匂いとは記憶を呼び覚ますものだ。このレトロ極まり ない雰囲気もあって、灯油ストーブ時代のことが思い起こされてくる。

浴室は、幅1間と3/4間ほど。天井は典型的な2段型。しかし、オリジナルの半分しか使ってい ないせいで、男湯の天井はウィング部の下にあたるので低い。女湯の向こうには、使われていない大きな暗い空間があるのが不思議な感覚で、上の天窓には夕刻の群青の空がある。

カランは左右に5機ずつ。浴槽は正面奥にU字型に張り出したもの。ジェットなどといった設備は 一切ない。若者たちが入った後だからか湯温は41度くらいとやや物足りない温度だったのが 残念。採算から水道や重油はとてもとても使えないとのことだけど、井戸水を薪で沸かしたお湯 はやわらかく落ち着いている。

ビジュアルは奥壁に古いペンキ絵が移設された男女境に分断されている。絵柄は岬に灯台と いうもの。旧女湯にも同様の大きさの古いペンキ絵が、やはり分断されてはいるけど残っている。 時折見かけるナショナル電球のホーロー看板がある。電球がタキシードを着ているこの看板も ビジュアルといっていいかも知れない。

飲料の販売は、旧型の横置きの大きな冷蔵庫がある。ビンのコカコーラなど懐かしいものの他、 いくつかの缶飲料に交じってビンの牛乳が1本だけ入っている。中学生がやってきた時に、女 将が牛乳を飲むか確認して「売約済」となった。恐らく、この牛乳は彼のために取り寄せられて いるのだろう。

女将に何か飲んでいけと勧められたけど、気持ちだけ頂くことにした。

女将は太田で最初に自動車の運転免許を取った。83歳の現在でも週一回、自ら運転して廃材 の調達に走っている。さらに、各種のボランティア活動に参加し自らのホームページ「ちぎらはるこの部屋」を立ち上げてもいらっしゃるなかなかのスーパーおばあちゃんだ。

番台稼業は面白いと話されていた。客の人生相談に乗ることもたびたびのようで、若い人も相 談を持ちかけてくれると嬉しそうだった。情けは人の為ならずということなんだろう。人生楽しか ったと何回も話されていた。我が身を振り返れば、人生にそんな自信は持てないので羨ましい 限りだ。

こんなことは初めてだけど、辞去する際に手を差し出して、彼女と両手で握手をした。予想して いたよりも遥かに張りのある掌で驚かされた。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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女湯。左の壁がオリジナルの男女境。