差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2008年7月14日月曜日 7:16
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 人参湯(木更津市中央)

ナカムラです。

今日(7/12)は、「人参湯(木更津市中央)」に行ってきました。 木更津駅(JR内房線)から、0.6キロ、6分くらいです。

木更津駅は、横浜駅東口のバスターミナルからアクアライン経由で55分ほど。JR線で東京湾 沿いを廻るのと比べ、あっという間に到着する。ただ、この東京湾横断道路は木更津をただ通 過する町に変えたようだ。観光需要や商業需要が他地域に流出して、この町は急速に衰退した。

鉱泉を有し木更津を代表した「木更津観光ホテル」は、併設のボウリング場や映画館を除いて 長いこと休業している。駅前の「そごう」だった建物もさほど稼働していないようだ。

さて、人参湯。 中央三丁目という分けの分からない地名に変わっているけど、かつては仲片町と言って江戸と の間を往復する木更津船の湊のあった所。そして、花柳界や遊廓があった地域。現在も千葉県 では唯一、「芸寮組合」なる見番が顕在だ。

その中でも、同湯のある一角は色町の中心だった。隣は「木更津東映」という小さくでオンボ ロな映画館。本当に「東映」と関係があるのか疑いたくなる何とも言えない場末感が漂ってい る。斜め向かいの駐車場の大きな敷地には、かつて三層の大楼があって、娼妓が手を振る写真 が残っている。何の店かは分らないものの向かいは「熟女パブ」という看板をあげている。同 湯周りの裏路地にも、ただ酒を飲むだけとも思われない店がいくつもある。時代は下ったけど、 色町だった状況証拠が色濃く残っている。

同湯の現在の建物は昭和27年築。エントランス部分と切妻横使いの脱衣所棟のそれぞれに、三 角の千鳥破風が載るダブル千鳥派風。特に大型というわけではないけど、遊廓の中心だっただ ろう銭湯として、風格と貫録は十分だ。何故か古風な板塀がピンク色のペンキで塗られている。 「ゆ/人参湯」とあるオリジナル暖簾も、落ち着いた深い色調ではあるけど、濃い桃色だ。

暖簾を潜るとカナリア錠の下足箱が並ぶエントランススペース。土曜日17:00。今日、明日と 木更津の一帯は祭礼で、神輿の担ぎ手の足袋などがいくつも並んでいる。趣きある番台裏には 福助のタイル絵があって、客を迎えている。「九谷」とあるだけで、絵付け師の落款はない。た だ、章仙画でも福二画でもない画風だ。

脱衣所は、3間四方。天井は折上げ格天井と伝統的木造銭湯の様式。ただ、番台は白の新建材、 壁は昭和中期的な木目プリントの新建材というように、風情とややかけ離れた材料で更新され ている。そして、男湯の前栽はコインランドリースペースに変わり、すぐ隣は木更津東映なの で外壁側にも庭はない。その点では、潤いに欠けるかも知れない。

しかし、あまり広い脱衣所ではないけど,島ロッカーがない広い懐かしい感じの空間になって いる。ロッカーは、外壁側と入口方に腰高の2段のものが少々。丸い脱衣籠も現役だ。島ロッ カーがない広々とした脱衣所空間は好きだ。

その他、旧型マッサージ機、デジタル体重計、飲料の自販機などがある。男女境にはかなり巨 大な浅草・大鷲神社の熊手が飾ってある。その大きさではマイベストワン。ただ、20年以上 も前のものらしく、色褪せてかなり埃が堆積している。

手洗いの扉は、古い模様ガラスが使われた古風なものだった。最初に小便器の部屋があり、奥 に非水洗の大便器の部屋があるという古風な造り。たまに行く大船・常楽湯がそうだけど、地 方に行っても最近は非水洗のトイレに遭遇することは少なくなった。

浴室は幅3間、奥行4間の2段型。奥壁の丸山師の本栖湖のペンキ絵の日付が18.8.8.となっ ているので、その頃に塗ったのか。白に濃いブルーの塗り分けはシャープで綺麗なものだ。

横浜銭湯のように、外壁側の一部に1/3ほど外に張り出した個所があって、現在は2機の立ち シャワースペースに充てられている。島カランは1つ。タイル類はコミカ風呂的で全てが更新 されている。

浴槽は3槽。奥壁と、外壁側が少し縦長に張り出したL字型という感じにレイアウトされてい る。男女境の小浴槽が「人参湯」となっているものの、ワイン色の薬湯で生薬系の入浴剤では なかった。高くて、人参實母散は使えないのかな・・・。湯温は42度弱。

センターの浴槽は冷えた水枕付きの座ジェット×2。濁った橙系の薬湯になっている。湯温は 44度くらい。

そして外壁側に格子の焚出し口のある縦長の浴槽は、透明な黄色の薬湯。湯温はやはり44度 くらい。海辺の町の銭湯だからか、夏にしてはかなり高めの温度設定になっている。

奥壁の「本栖湖」のペンキ絵は男女境に富士山を大きく描いた雄大なもの。千葉は丸山氏のエ リアなのかな。いつもながら、師の富士山はなかなかいい感じだ。

土曜日の17:00から18:00に滞在。神輿の一群が出た後の相客は3人ほど。ご常連によれば、 突き立てた人差し指で口を塞ぎながら、「ここはいつも空いている」という。

上がりは、廓内の料亭「宝家」は、さほどお高くなかったものの面白さに欠ける感じがしたの で、怪しげなピンクパブ(だと思う)が集まる小路にある割烹料理屋に入る。

80歳位の女将は、予想通り純な素人には知り得ないことまで知っている。ビール(中)、鯵南 蛮漬け、帆立と鯵フライを定食で頂いて2800円ほど。店を出る頃には遊廓跡の伝統を細々と引 き継ぐ、店々のいくつかに灯りが灯り始めた。

今日明日は、関東で最大の神輿という、八剣八幡の祭礼。夕方になって中高生が神社の周りで たむろしている。駐車場など、あちこちで女子の集団が地べたに座っておしゃべりに興じてい る。そして、それ目当ての男子も周辺をうろうろ・・・。通信手段が発達しても、想いを寄せ る異性にリアルで遭遇できるお祭り。若い彼らの気持ちが分かる。いつの時代もそうなんだ と・・・。

駅近くの「宮の湯」をチェックしてから、帰路のバスに乗る。今年は、これまではさほど暑く ない日が続いているという印象だったけど、今日は強烈に暑かった。ペットボトルの水を5本 くらい飲んだかな。

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