差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2011年8月13日土曜日 8:18
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 錦湯(中京区堺町通錦小路下ル八百屋町)

ナカムラです。

今日(7/22)は、「錦湯(中京区堺町通錦小路下ル八百屋町)」に行ってきました。 四条駅(市営地下鉄烏丸線)から、0.5キロ、5分くらいです。

村野藤吾が設計したウエスティン都ホテル京都で、建物や細部まで執拗にデザインしたインテリア など建築の枠を超えたディテールを鑑賞。今回のツアーで3軒目となる村野藤吾が設計したホテル。 宴会場の棟にオリジナルの内装や華麗な螺旋階段が残ってるのは収穫だった。

一方、宿泊棟は、エントランスホールから大々的に改装されて、部屋にはほとんどオリジナルと呼 べるものが無く残念だった。村野が亡くなってから設備の耐用年数よりも長い四半世紀が過ぎてい る。致し方ないのかも知れない。

銭湯は、先ず、円町駅(山陰本線)の太秦安井藤ノ木町の弁天湯へ。昨年京都に来た時も休業中と のことだった。今回も休業が続いている模様なので、洋風の看板建築の外観だけでも見ておこうと 朝6:00開店の二条の喫茶店「チロル」で朝カレーを食べ、近くの長池湯をちら見し、気合いを入れ て撮影に赴く。

同湯は、太子道と呼ばれる古道に延びる立ち枯れたような安井商店街の中心にある。太秦に賑わい があった頃は、かなり栄えた所だ。銭湯がアーチ窓の気取った洋風のファッサードを持つのも、そ んな繁栄の歴史からだろう。果たして、油井型の煙突を有する洒落た看板建築の弁天湯だったけど、 再び煙が立ち上ることは無いだろうと感じた。

次は、色町だった五條楽園へ。最近まで大阪・飛田と並ぶ現役の女性街だったけど、昨秋に京都府 警の摘発を受け、今年1月に組合が解散。用途を失った古い建物に解体などの動きが出ているとい うので写真を撮りにやってきた。

入口にあった「五條楽園」の看板は撤去され、ステンドグラスが見事だった大店は早くも解体され て駐車場になっている。4年前に楽園内の弁天湯にやって来た時は、近くでカメラを使っているだ けで、お茶屋の遣り手婆さんが付けて来た。今回は半ばゴーストタウンと化していてそんなことも ない。まだ、解体された建物は多くはないけど、人気の無い建物も多く今後の動向が気にかかる。

そう、七条方面の旧楽園入口には梅湯がある。同湯の写真を撮っていると、隣のビルのその筋の総 本山は現役。1階の駐車場に立つ人たちの強い視線を感じる。。。

さて、所変わって京菓子司・栖園でかき氷を頂きながら緊張をほぐし、錦市場で土産の漬け物など を買って、京都の超有名銭湯の錦湯に向かう。

細い通りの錦市場にこそ面していないものの、すぐ近くに市場が見渡せる場所にある。コンクリの 煙突を抱く一見三層楼にも見える大型の木造の建物。風格は京都銭湯随一だろう。

建物は表の通りから1間半ほど後方に建つ。屋号だけを記した小さな看板が、錦市場からも見える ようにだろう、軒からの長いアームで1間半ほども延びている。

一階の窓には連子格子。一見2階に見える脱衣所の高窓と、3階に見える実際2階の窓に簾が下が る。2房の大きな暖簾は紺地に「ゆ」と白の染め抜き。しかし、ただの染め抜きではなく絞り染め。 大きさも通常のものより大きい。初めて遭遇するかなり立派な暖簾だ。

中に入れば、コンクリの広いたたきの中に木組みの番台が建つという”土間構造”の古い銭湯だ。 毛糸のキャップを被った大将に靴を履いたままの相方が風呂銭を渡す。その後に、たたきの入口方 にあるおしどり錠の下足箱に靴を入れるという郷愁銭湯の作法に従うことになる。ただ、スノコの 周りに下足がいくつも並んでいることから下足箱を使うのは少数派のようだ。

改めてあたりを見渡すと、古色蒼然とした戦前の空間がそのまま残っている。感動的だ・・・。

脱衣所の広さは、真ん中の籐敷きのスペースが3間四方。その前と後に、たたき1間と流しがある タイル張りの緩衝スペース1間があって、奥行は都合5間強。かなり大きな空間だ。

天井は平格天井。浴室の入口や男女境の上にある欄間の造り込みもなかなか。そして、並の銭湯と の違いを際だたせているのは、コンクリのたたきから、高さのある2階に昇る黒光りする階段だ。 踊り場もあって黒電話が置かれている。手すりの作り込みも重厚ながっしりとしたもの。この広い 脱衣所空間にあって、演劇の舞台装置のように独特の存在感を放っている。ただ、荷物置き場と化 しているようで、2階は使われていないのかも知れない。

ロッカーは外壁側にオール木製のものが並ぶ。おしどり錠で内部に柳行李が収納されている古典的 な京都スタイル。そして、ロッカー上には、錦市場の食材店の屋号を記した柳行李が並ぶ。京極湯 のようにその脱衣籠の多くは現役ではないのかも知れない。しかし、その横にはマジックでカタカ ナの屋号を記した樹脂製の桶も並んでいる。こちらは現役のようだ。飲み屋なのかも知れないけど、 歴史は引き継がれている。

その他、旧型マッサージ機、テレビ、寺岡式・朝日衡機製のアナログ体重計など、ひと通りのもの が並ぶ。

浴室は、3間四方の広さ。天井は四角錘型で中央に湯気抜きがあるもの。脱衣所の棟からは独立し たコンクリート構造のようだ。

島カランは、中央右寄りに片側4機のカランが付いたものが1つのみ。カランは、さらに外壁側に 6、入口方の壁に2、男女境に2。

浴槽は、奥壁から男女境の半ばまで、薬湯のバイブラバス、電気風呂、浅槽42.5度、深槽43.5度 と並ぶ。湯温はやや高めの設定だ。さらに、男女境の2機のカランを挟み扇形の水風呂。広い浴室 だからか、この水風呂は、よくある緩衝スペースに張り出したものではない。

奥の外トイレを借りた時に、釜場からはポンポンポン・・・という古いポンプの音が聞こえて来た。 水は井戸を使っているようだ。燃料は重油かな。。。

ビジュアルというものはない。壁は白タイルが基調で一部レリーフ状の浅い模様が刻んであるもの。 男女境には一部ひし形を連続させた縦の模様が入る。

男女境に飲料の手書きの値段表があったものの男湯に冷蔵庫は無かった。

毛糸のキャップを被った大将は、入った時からずっと学生らしき2人の青年のインタビューを受け ている。銭湯好きだけに止まらない京都の至宝故に”マスコミ対応”も忙しい。

金曜日の夕方、帰京を前にした慌ただしい中の18:05から18:35に滞在。短い時間だったけど、相 客は10人を超えていたと思う。珍しさだけでなく、生活のインフラとして地域にしっかり根ざした 京都の繁華街にある郷愁銭湯だった。。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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