差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2009年1月4日日曜日 12:21
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 扇湯(兵庫県明石市二見町東二見)

ナカムラです。

今日(12/17)は、「扇湯(兵庫県明石市二見町東二見)」に行ってきました。 東二見駅(山陽電鉄線)から、0.6キロ、7分くらいです。

駅を降りて数百メートル緩やかな坂を下っていくと二見漁港がある。途中に旧二見村役場(昭和13年築/現二見市民センター)という印象的な近代建築があったりする。1951年に旧二見村 は明石市に合併されているけど、歴史的建造物が綺麗に維持されている。

詳細地図にプロットした位置が誤っていたのか、陽が落ちてから漁村の細路地にある扇湯がなかなか見付けられない。途中の酒屋で酔っ払い衆に教えてもらって漸くたどり着く。

同湯の周りには黒瓦を載せた立派な白塀がめぐらされている。その中央にやはり瓦を載せた木 戸。暖簾はその門に下げられている。なかなかの風格と風情だ。

建物は破風の入口を持つ2階家。暖簾を潜ると男・女湯への2枚のアルミサッシのドアがある。 入ると狭いコンクリのタタキがあって番台と反対側に縦置きにツバメ錠の下足箱がある。この 錠前は初めての遭遇かな。

脱衣所の床が高い位置にあるのか、タタキからは番台がかなり高く見える。あるいは番台の両サイドには、女湯への視界を遮るために数百冊の文庫本が積まれているので、それで高く見え るのかも知れない。

周りを見渡してもレトロ&ボロというただならぬ佇まい。やや怯んでいると、番台には若 い感じの女性が鎮座しているのに驚かされる。さらに、女湯から男の声がする。不思議に思っている と、高校生くらいか、若者が紋付袴姿で女湯側から登場。さらに驚かされる。

いったいここは何なんだ・・・。

脱衣所の広さは幅2間半、奥行きはタタキの部分を合わせて2間半ほど。天井は平格天井でそ れなりの趣きがある。変わっているのは男女湯の上に天袋があって襖があること。居間のよう なこの造作が脱衣所空間に独特のアクセントを加えている。

地方の小銭湯につき暖房は灯油のストーブ。灯油を燃やす懐かしい匂いが満ちている。そして、 天井扇がゆっくりと回転している。恐らくは暖気を攪拌しているのだろうけど、サーキュレー ターとして天井扇を回転させているのに初めて接する。

ロッカーは外壁側にIDEAL錠のオール木製型ロッカーがずらりと並ぶ。IDEAL錠は初 めての遭遇か。板鍵を引き抜く時に内部のツメが出て施錠される珍しい構造だった。

しかし・・・、ロッカーの上にいつの時代とも分からない段ボールの小箱が埃を被って堆積する。それも何年という単位の長い時間を経過している感じがする。この意味と理由は何なのだろうか。。。

浴室は、幅2間強、奥行3間半ほど。天井は四角錐型で真ん中に四角の湯気抜きがある。床は 面積ペースで半分くらいが石敷き。敷石の間はタイル張りになっている。壁も腰高までは石張 りの壁。なかなかな雰囲気がある。

カランは外壁脱衣所方に5つほど。レバー式の古いものでオール金属製。「ゆ」、「水」と金属の 取っ手が彫り込まれている。シャワーはいくら経っても湯が出てこない。カランの「ゆ」のレ バーを押してもやはり湯にはならない。かなりの時間押していれば湯に変わるのか。何れにしても水勢はチョロチョロよりやや太いくらい。湯に変わる前に風邪を引いてしまうのは必定だ。 ここまでキテいる設備との邂逅は初めてだと思う。

浴槽は、男女境に接して中央に幅1間、長さ2間程の石造りもの。一段ある幅広の踏み込み段 も趣きある黒御影石だ。使命を終えたカランと向き合っているよりも、この石に腰掛けて汲み 湯するというのがイニシエの頃からの同湯の作法なのだろう。

湯温は41.5度くらい。浅槽は40度くらいとやや温い。水道水を重油で沸かしているというけど、この石造りの効果か、湯は柔らかい。

奥壁と外壁に接するコーナーに掘り込みの副浴槽がある。使われてなくなって久しいようで、 使い捨ての髭そりなどが投げ捨てられて、変色し堆積している。営業している銭湯としてはな かなか壮絶な光景だ。この副浴槽が稼働していた時代の光景を想像していたけど、漁師町のな かなかの銭湯だったはずだ。漁の話題での喧騒があったはずだ。

白タイル張りの奥壁の真ん中に色褪せた小さなタイル絵があった。山や海を描いたものだけど 色だけが残るくらいでモチーフは何年も前に消え失せている。

上がりは、冷蔵庫はあって中に何か入ってはいるものの販売用って感じの商品は見当たらない。

そして、母屋との境には柵があってその内側には大人しい大型犬に近い犬が座っている。その 周りにもいろんなものが通せん棒するが如く堆積している。その奥に戸板に「便所」と大きく 墨書きされたトイレがある模様。実際にお借りしたい希望はあったけど、怖くて言い出せなかった。

水曜日の20:00から20:30に滞在。相客は無い。

来る途中の酒屋でビールでも飲もうと思ったけど、すでにシャッターは閉じていた。道すがら のお好み焼屋も同様。結局、駅横の踏切の所にある「二見名物/玉子焼/田村」という、渋い臙脂色の暖簾を掛けるシャビーな外観の店に入った。ここにも相客はない。失敗したか・・・。

コンクリの床にパイプ足のテーブル、背もたれも無いパイプ椅子。昭和中期の場末の大衆食堂 という感じの店だった。明石のたこ焼きは全国区になり横浜などでは明石焼きとして売られている。地元でも「明石焼」は観光客相手で、「玉子焼」は地元客相手の店らしい。まぁ、この店に観光客は来ないだろうから当然に「玉子焼」だ。

20個セットで800円。ほぼこれ一本でやっている店だ。聞けば先代から70年もの間ここでやっているという。温かい出汁に七味を落とし、それに浸して食べる。白鶴の燗酒で頂く玉子焼きは格別だった。これだけのメニューで22:00まで営業している。そして70年もの歴史。 なかなか奥深い文化だ。

暫く緊張していた感覚が、漸く解れていくのを感じた。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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