翁湯（横浜市中区寿町）

差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2007年2月10日土曜日 21:30
宛先: 銭湯ＭＬ (sento-freak@kt.rim.or.jp)
件名: 翁湯（横浜市中区寿町）

ナカムラです。

今日（2/10）は、「翁湯（横浜市中区寿町）」に行ってきました。
伊勢佐木長者町から、０．６キロ、６分くらいです。

横浜の寿町は、大阪･釜ヶ崎、東京･山谷と並ぶ、日本の三大ドヤ街だ。
この一角は、道路で寝転んでいる人もいるからだろう、見てると車が入って来ない。簡易宿泊所、異様な雰囲気の食堂や立ち飲み屋、コインシャワーやコインランドリーも、そこここにある。

翁湯が入っている「寿町総合労働福祉会館」は、ドヤ街の中の要塞のような建物だ。昭和49年築の９階建の灰色のビル。中に、診療所、売店、翁湯などの福祉施設と公共職業安定所、無料職業紹介所という職業紹介施設、4階以上が市営住宅になっている。

ドヤ街の人たちは、廓もそうだったようだけど、｢中｣と｢外｣の区別には敏感だ。彼らを仕切る業界筋の車も多く停まっている。外の人間が自由にカメラを扱える雰囲気にはない。学生の頃、｢釜ヶ崎レポート｣のようなものに触発されて、山谷で写真を撮っていてネジ込まれた苦い経験がある。学生の頃のように、カメラを持っていれば戦えるという幻想(大きな誤り)もない･･･。

コンパクトカメラのリコーGRデジタルから、普段使っているワイドコンバータを外して、カメラをポケットに入れて歩いた。それでも、さすがに、コンパクトカメラさえ、構えることができない･･･。それほどの雰囲気がある。(昔は無謀だったんだなぁ･･･。)

さて、翁湯。この要塞のどこにあるのか･･･。ここ数年、ピーコートを愛用しているけど、これでも、ここでは浮いている。２階というのは記憶にあったので、メインの外階段で、２階に昇る。たむろしている一団、階段で、死んではいないんだろうけど、普通の睡眠とも思われない感じで、おばちゃんが天を仰ぐように倒れている。全てが枯れたように、質量感が無く、座っているご老人も多い。

要塞の２階のメイン通路に、同湯の入り口があった。両サイドはロッカー室と洗濯室のようだけど、シャッターが閉まっている。

｢翁湯｣というプレートが掲げられている通路を入ると、２０メートル先くらいに、紺地に屋号を白抜きした暖簾が掛っている。その上には、やはり｢翁湯｣と墨書した額が掛っている。なかなか凛とした雰囲気がある。

靴脱ぎスペースの脇に、おしどり錠の下足箱。脱衣所への戸は、まさに飯場の入り口といっていいだろう、ベニヤに白ペンキといった風情の簡素この上ないものだ。

戸を開けると、この要塞に相応しい、大きくて高い巨大な番台がある。座っている女性も、やはり土地柄、表情に灰汁というか渋みがある。並みの神経ではやり切れない部分もあるだろう、遊郭の遣手婆さんという感じだ。下足のトラブルを裁いていたけど、下足のトラブルというのも、初めての遭遇かも知れない。

入浴料は４３０円。脱衣所は、幅６間、奥行２間半と広い脱衣所だ。高さ１間と１／４の天井が変わっている。こげ茶色の板張りだけど、節のある安い板材に茶色のニスを塗ったもの。こんな使い方は初めて見たけど、悪くない感じがした。床は新建材。ツメを切ったら掃除機で吸い込んでくださいというような、見たことがない張り紙がある。

ロッカーは小さい島ロッカーと、入り口壁側に、ボロく扉が黄ばんだロッカーが並んでいる。錠は、小さなアルミ板鍵をシリンダ錠のように使う、｢Oshidori｣の刻印があるブロック状のもの。

その他、旧型のマッサージ機、ＨＯＫＵＴＯＷのアナログ体重計、発泡酒も入った冷蔵庫などもある。シンナー臭い爺が居て、脱衣所にシンナー臭が充満していた。なかなかな脱衣所だ。

浴室へは自動ドアで入る。幅６間の奥行３間ほどと大型の浴室だ。天井は１間と１／４ほどで、アルミの天板が斜めに張られている。

島カランは３列で、カラン数は、センターから４＋立ちシャワー２･３３３３３３８。カランは両サイドが温度調節機能のあるハンドシャワー付のもの。島カランは、あまり銭湯でお目にかからない、プッシュ式の細身のものだ。

何のパイプだろう、太い管が何本も縦横に走っている。また、島カランが堅牢なステンレス製、立ちシャワーの部分も壁がステンレス張りになっている。言葉で書くと伝わらないけど、結構、異様な印象を受ける。床はクリーム色の３センチ角のレトロな感じのタイル。

浴槽は、奥壁に接して、真中にブルーのタイルが使われた１槽のみ。太いパイプでの焚出し口のみというシンプルなものだ。やはりというか、温度は熱めで、４３度はあるだろう。長湯する客も居ない。

ビジュアルは、奥壁に、東海道五十三次｢神奈川｣の浮世絵を描いたタイル絵。これがなかりせば、殺伐という浴室を救っている。

同湯へは、土地柄、複数の先達から湯が汚れない早い時間に行かなければならないと教えられている。銭湯マップでは１５：００開店となっているので、それに合わせて行ったけど、１４：００スタートのようだ。まぁ、問題は無かった。

１５：０５から１５：３５の滞在。寛げたかと言えば、尻が青いのか、緊張がほぐれなかった。緊張して入った銭湯のマイ･ベストワンかも知れない。
相客は１７、８人といったところ。ドヤ街の高齢化は進んでいる。歩くのが難儀になっているご高齢の方もいる。いろんなことを考えさせてくれる銭湯ではある。

同湯から出て、会館の階段のところでたむろしている一段にからかわれた。髪の毛が濡れているからだろう。｢あぁ～、翁湯はぁ～、今日もぉ～雨だぁった～｣と。風呂上りは、ドヤ街の立ち飲み屋で一杯やるというのが計画だったけど、戦意喪失気味になって、大船のいつもの観音食堂に向かった。逃げて行ったというのが正確なところだろう。

久しぶりのドヤ街は、想定していたよりも濃く、ハードだったかな。

(ウィキベディアより)
簡易宿所（かんいしゅくしょ）とは、旅館業法における4種（ホテル、旅館、簡易宿所、下宿）の旅館営業許可業種のうちのひとつ。ユースホステル、スポーツ合宿所、民宿もこれに該当する事が多い。
旅館業が5部屋以上の客室とそれに伴う定員を必要とすることから、4部屋までとか2段ベッド等階層式寝台を設置している施設が該当となる。

かつては通称ドヤと言われていた。これは宿（やど）を「人が住むところではない」と自嘲的に逆さまに読んだのが始まりといわれる。日雇い労働者が多く、彼らが寝泊まりする簡易宿所の多く立ち並ぶ街は「ドヤ街」と呼ばれた。こうした場所には労働者を求めた日雇いの求人（手配師）が毎朝多数やってくることから寄せ場とも言われ、横浜の寿町、大阪の釜ヶ崎（あいりん地区）、東京の山谷が三大寄せ場として有名である。こうした街は、戦後から高度成長期の間に全盛期を迎えた。他にも名古屋の笹島、神戸の新川、京都の九条南部、福岡の築港、広島の駅南口、川崎駅周辺にもドヤ街が形成されたといわれているが、現在では都市再開発や区画整理などによりほとんど消滅している。

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しめ鯖	すじこ丼大船･観音食堂。菊正宗、しめ鯖、すじこ丼、味噌汁で2480円。勘定が少し間違っていたようだ･･･。いつもより少し高い。
伊勢佐木町アントニン･レーモンドの建築作品	伊勢佐木町の古いビル