差出人: Masayuki Nakamura
送信日時: 2012年1月16日月曜日 23:13
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: おたっしゃん湯(長崎県雲仙市小浜町南本町)

ナカムラです。

今日(12/21)は、「おたっしゃん湯(長崎県雲仙市小浜町南本町)」に行ってきました。諫早駅(長崎本線)から、30キロくらいです。

長崎の大浦でレンタカーを借りて、50キロほどの道のり。途中、長崎市戸町遊廓跡、小田の湯と高崎湯を見るために枇杷で有名な茂木町に立ち寄る。そして、単調な道を延々と諫早経由で小浜温泉まで。

小浜温泉は、遠くからも湯煙が確認できるほど。湯量が豊富な温泉のようだ。近づくにつれて、国内の温泉場の多くがそうであるように古い建物が多く少々寂れている。

同湯のある通りは浜辺と平行する細い通り。古くからある通りのようだ。しかし、人通りは少なく、道に沿った規模の小さな旅館の多くは営業しているのか怪しい。新しい建物は老人保健施設だったりする。ここにも、よくある温泉場の風景がある。

しばらくそんな古い温泉街とも呼べなくなった道を進む。すると、この世のものとは思えないイニシエの共同浴場、通称”おたっしゃん湯”が現れる。昭和12年築の黒瓦、板張りの古色蒼然とした共同浴場だ。

建物の前には池や藤棚が残っている。今は数台分の駐車場となっているけど、昔はそれなりの庭だったんだろう。

正面の番台裏にあたる部分は連子格子。その左右に男女別の入口がある。中に入ればやや広いコンクリのたたきと、普通サイズの炬燵を載せた低い番台。かなりご高齢のおばあちゃんが湯屋番をしている。しかし、テレビを付けっぱなしで安らかなる昼寝中。昼食後の最も眠くなる時間だけど、息をしているのか定かでない程に安らかな昼寝だ。風呂銭は150円。相方はどうしたものかと困っている。

脱衣所の広さは、幅3間、奥行は1間のたたきを合わせ4間ほど。長い年月を経過した板の間と押縁の天井。外壁側に漢数字を大書きしたオール木製の脱衣ロッカー。錠はなく鍵穴と思ったものは指を差し込む式の取っ手の代わりになるものだった。

男女境にある鏡も額縁に入ったような古く小さなもの。地元地方紙の記事のコピーが張られている。俳人種田山頭火もここを訪れているらしい。この趣ある共同浴場で町興しをしていこうという内容のものだった。

浴室は、幅3間、奥行4間。腰高までは大判の古い白タイル張り。天井は淡いモスグリーンペンキ塗りの四角錘型で、中央に湯気抜きがある。カランは奥壁に2機あるだけで、男女境は天井と同様のペンキ塗りの古い板壁があるのみ。

昼間なのでスリ硝子の窓から陽光が差し込んでいる。夜の照明は、天井から垂らされた長い電線の先に吊された裸電球1個だけのようだ。陽が暮れてからの趣もなかなかだろう。そんな想いが巡る。

浴槽は、センターに長方形のものがあって、中央に仕切りがあって2浴槽として使われている。内壁の大判の白タイルも、独特な透明の釉薬の青が印象に残る底のタイルもこの鄙び切った共同浴場に合っている。

中央に湯口と水栓があり、竹を割った樋でそれらを混合、これ以上シンプルにはできない構造で、器用に温度調節を行っている。

温度は42度くらい。入れば驚くほどに粘度が高くトロリとしている。そしてお湯の円やかさに驚嘆する。一番多い成分は塩だろうけど、比重が重く他にもいろんな薬石が溶けていることを実感する。

さらに、飲泉して驚いた。先人のまっちゃんが”昆布茶のようだ”と表現していたけど、全く誇張ではなかった。これほどに旨味成分を含む温泉は初めてだ。あまりに想定を超える味なので、確認を繰り返し、迂闊にも飲み過ぎてしまった。げぇげぇ。。。

上がりのドリンクは無い。あっても、上質の”昆布茶”を飲み過ぎているので、もう飲めない。。。。

水曜日の昼下がり。地元の人という感じの相客は4人ほど。奇跡の空間は実にまったりとしている。番台の婆は相変わらず安らかに眠入っている。あれから目を覚ましたのだろうか。これを書きながらも気になっている。

裏山に回れば、建物の奥にコンクリートの大きな湯槽が2つあって、時折、湯煙とともにゴボゴボっと鈍い音を立てる。落ちたら最期という、怖いくらいの湯量だった。

20キロほど先の漁港の有家に2軒残る銭湯のうち、荒木湯が気になっていたけど、ここで時間がなくなった。諦めて雲仙の山を上がって、宿泊予定地の雲仙観光ホテルに向かう。

同ホテルは、昭和10年に竹中工務店が手がけた木造のホテル。日本で戦前の建物を使って営業しているクラッシックホテルが13軒ほどあって、そのうちの1つ。

”観光”を冠したホテル名はチープで安易。時代遅れの感じがする。しかし、戦前の暗い世相に明るい光を指すという意味が込められている。ネーミングのチープさとは違ってなかなか崇高な歴史を持つ。建物好きなら一度は泊まってみたいホテルの1つだと思う。

正月を前にした完全なオフシーズン。ほとんど貸切りと変わらない感じだった。広大なダイニングで食事をとっていたのは我々のほかに2組だけ。部屋、料理、Barなどが雲仙の自然に溶け込んでいるのが良かった。

そして印象的な老ホテルマンに会うこともできた。立ち振る舞いや表情に深いオーラがある。歴史ある名門ホテルではあるけど、所詮は田舎の山の上。不思議だった。

客も少なくスタッフも少ない。食事を終えてBarに移るとくだんの老ホテルマンが、暖炉に火を入れバーテンダーとしてカウンターに立っている。

ジントニックを頂きながら、ホテルマンとしての長い人生について耳を傾ける。東京の一流ホテルで長く研鑽を積んだ方で、郷里に戻っての第二の人生という。

印象に残るクラシックホテルで、この方と話が出来て楽しかった。酸いも辛いも味わったからこそ滲み出る深い味わい。小生、10数年後にこんな老ホテルマンのようになりたい。まぁ、無理だろうけどね。。。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
URL: http://www7a.biglobe.ne.jp/~masayuki/ (風呂屋の煙突)
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 泰山タイルと思しきタイルが床一面に敷き詰められている
 船会社を発祥とする大阪の名門ビルの堂島ビルヂングが今も経営にあたっている