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差出人: Masayuki Nakamura
送信日時: 2015年6月20日土曜日 23:10
宛先: 銭湯ML (sento-freak@freeml.com)
件名: 鹿王湯(京都市右京区嵯峨北堀町)

ナカムラです。

今日(2/14)は、「鹿王湯(京都市右京区嵯峨北堀町)」に行ってきました。鹿王院駅(京福電鉄嵐山線)から、0.2キロ、3分くらいです。

静かになった旧五條楽園を散歩。祇園では相方が幾岡屋で花名刺を選ぶ。手持ち無沙汰の小生は第2回目の学徒出陣で軍隊に行ったという90歳近くの爺さまから、昔の祇園の話や当時の銭湯事情などを伺う貴重な機会に恵まれた。さらに、着物屋のだいやすなどを冷やかして四条大宮駅から京福嵐山線という風情ある電車で嵐山方面に向かった。

この嵐電に乗るのは、思い返せば高校の修学旅行でバルジョと2人での嵯峨野巡り以来34年振りになる。まずは車折神社の電停で降り近くの寿湯を愛でる。嵐電の線路と踏切の際にあるという、かなり惹かれるロケーションの銭湯。湯井型の煙突というのも風景に合っていた。

さらに、鹿王湯のある隣の鹿王院の電停まで歩く。夕方近くなり行かなかったけど、嵯峨野や渡月橋まで僅かな距離しかない。

この付近には製材所が多かったという。その多くはマンションに変わった。いずれにしても静かな住宅地が続いている。京都の中心部と違って水路が縦横に走り、それらを渡って入る豆腐屋や銭湯がある。

さて、鹿王湯。屋号は近くの鹿王院から来ているんだろう。いかにも戦前からの風格を滲ませる漆喰塗りの小さな平屋の建物。後方には金属の漏斗を被せたようなコンクリ煙突が見える。そして、製材所が多かった地縁からか、脇の細い路地には切り揃えられた立派な角材が高く積まれている。

2房の男女別の暖簾を潜り、アルミサッシのドアを入れば両サイドにおしどり錠の下足箱が向かい合わせに並ぶ。上がりかまちは京都銭湯でよく出会う小石型のタイル張り。

古いガラス戸を開け脱衣所に向かう。大将は化粧板を張った簡素な造りの番台の傍らに立つ。相方が2人分の風呂銭860円を払う。

脱衣所の広さは幅1間半、奥行4間ほど。壁は昭和中期的な木目プリント合板で天井も少し煤けた白の新建材。床は籐敷き。残念ながら内部はロケーションや外観ほどの趣はない。

ロッカーは外壁側にKing錠のもの。チープな樹脂製で黄色の四角い脱衣籠も置かれている。アナログの体重計はゴツい寺岡式。

浴室へは、流しが置かれタイル張りの段差のある緩衝地帯を介する。広さは、幅1間半、奥行4間。正面奥壁には今は使われていない釜場と繋がっているんだろう伝声管の跡が残っている。

浴槽は奥から四角の浴槽が大・中・小と連なっている。奥が1穴ジェット×2の浅槽で42.5度くらい。真ん中が43度くらいの深槽。手前が42度くらいの極浅槽になっている。さらに脱衣所方には獅子口から水が注がれる”京都名物”の水風呂もある。

薪で沸かしたやや熱めの清冽な湯は、大将が朝8時には仕込みを始めるというもの。井戸水を地縁ゆえの上質の薪で沸かしている。

島カランは無く、カラン数は外壁側に9機、男女境側に3機。床のタイルは青とブルーの胃袋模様。郷愁銭湯にとって大した話ではないけどシャワーは温く、カランの細い湯も最後まで安定していなかった。取るに足らない話だ。

湯船から見れば、間隔をあけずに話しながらのご常連6人衆がカランに向かっている。湯に浸かりながらその横一線の後ろ姿を眺めていると、どこかコミカルで微笑ましかった。

ビジュアルはない。男女境の注意書きに”嵯峨公設市場”の名前があったのが気を引いた。

土曜日の17:45から18:45に滞在。相客は一斉に上がって狭い脱衣所で、半ば車座になって恐らく発砲酒1本だけの酒盛りが始まった。帰宅した同湯の息子さんにはご常連方々から声が掛かる。

内装は木目プリント合板の素っ気無さだけど、立地、ご夫妻、客層と好ましい銭湯だった。嵯峨に残る貴重な銭湯の一軒だ。

上がりの一杯は四条大宮駅から阪急で河原町まで戻り、気になっていた寺町のすき焼きの老舗「キムラ」へ。高校の修学旅行で食べた砂糖をどっさりと入れる京都のすき焼きの美味しさは驚きだった。味はそんな鮮烈な記憶ほどでもなかったけど、大衆的で昭和中期的な大広間による営業スタイルはどこか昔の映画を観ているようで嬉しくなった。

明日は「京都マラソン」があるようだ。隣席にそんな2人連れがあって、ホテルが混んでいる理由がようやく分かった。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
URL: http://furoyanoentotsu.com(風呂屋の煙突)
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                          用水路に橋が架かった形の同湯の入口









                                京福嵐山線・鹿王院駅




                            阪急京都線四条大宮駅(昭和6年)
      京阪電気鉄道の新京阪線の終着である京阪京都駅として開業。単に「京都駅」とされることも多かったようだ。
      一見して、古い駅の雰囲気が残っている。
























                        当時は寺町通りにアーケードは無かったようだ。




                       旧八千代館 ※「港町キネマ通り」>八千代館