差出人: Masayuki Nakamura
送信日時: 2013年2月2日土曜日 8:30
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 敷島湯(北九州市八幡西区田町)

ナカムラです。

今日(12/21)は、「敷島湯(北九州市八幡西区田町)」に行ってきました。黒崎駅(鹿児島本線)から、1.0キロ、12分くらいです。

波多江駅から”糸島手造りハム”という地ビールレストランに併設された”ハミングジョー”という北欧雑貨店に行く。帰りには、寒い家具倉庫兼リペア作業場兼店舗の方にも周り、我が陋屋に合う家具を探すための所業。さらに、薬院周辺の雑貨屋逍遙。相方曰く、福岡には東京と違った感度の高い物があるという。

今日は、天神のホテルに連泊だけど、敷島湯の定休日との兼ね合いで、特急に乗って、遙々黒崎を往復する。

工業デザイナー水戸岡鋭治氏を擁する、JR九州の車両は乗って楽しい。自由席だけど4人掛けのコンパートメントのようになっていて、しっかりとしたテーブルが付いている。かつては軽食なども提供していたのか、ラウンジの趣。駅で買い込んだ鯖寿司などを摘みながら、雲が垂れ込めた日本海側特有の風景を眺めていた。

黒崎は、広く高いアーケードが放射状に広がっている。寂れ方が凄まじいと聞いていたが、パチンコ屋が多いのはともかくとして、頭の中で膨らんでいた想像ほどではなかった。もっとじっくりと対峙したい街だった。

敷島湯は、そんなアーケード街とは線路を隔てて反対側。製鉄用コークス工場や伝統的な石炭化学の工場が立ち並ぶ洞海湾側にある。

自らが、製鉄の町の一員であることを示すように、鉱滓煉瓦(製鉄過程で発生する工業廃棄物・溶融スラグを焼いた煉瓦)積みの建物。今も北九州一帯では塀や擁壁に見られる粗末な煉瓦だ。釜場周りという例は北九州の銭湯にはあるだろうけど、建物の主要部材に使われているのは、恐らく同湯だけだろう。戦前派の貴重な銭湯遺産だ。

切妻の倉庫のようなシンプルな形の建物。後方のステーで支えられたパイプ煙突からは、薪を燃す細い煙が上がっている。今日は冬至。そして強烈に寒い雨降り。工場地帯に隣接していることもあって、周囲の風景は何処か殺伐としている。そんな中の銭湯の煙。細い煙だけど、一気に気分が和む。

エントランスは、やはり鉱滓煉瓦積みの立方体。その左右両側面に入口の扉がある。なぜか、石段を2段ほど降りてアクセスする構造になっている。

扉を開ければ、天井の低い”立方体”ゆえ、天井に押し込まれたように縦長のゆったりとした新建材張りの番台がある。番台の横から脱衣所に向けて、L字型に広がるたたきは濃淡ブルーの2種類のタイルが平滑かつ精緻に張られ印象的だ。

相方が、女将に2人分の風呂銭を払う。1人350円。福岡県の料金は440円なので、久しく料金が据え置かれているようだ。

脱衣所の広さは、幅3間、奥行が2間半ほど。番台も壁も合板張り。高さ2間ほどの天井は石膏ボード。ロッカーは、外壁側にある脱衣籠を収納する棚の上に、グレーのスチール製のロッカーが載せられている。籠の方が使われている感じがする。その他、卓上ゲーム機、ソファ、Yamatoのアナログ体重計など。少女を描いた青く色褪せた油絵が目立つくらい。外観と比較すれば、内装は凡庸かな。。。

しかし、男女境には黒枠の古い鏡。戦前のものだろう、右書きで「丹頂クラッチ」と記されている。その他、萬國式検眼の張り紙、木製の身長計測器、混浴は12歳までという注意書きなど、古くからの物が垣間見られる。

それにしても、混浴が12歳までというのは、今まで見た中で最も規制が緩い。神奈川県が9歳、東京都は10歳だったと思う。もっとも、その前に女将さんに断られるんだろうけど。。。

浴室は、3間四方。中央、上部がガラスの男女境の上に湯気抜きがある。床のタイルは赤・白で構成される”胃袋模様”。奥壁はプラ板張りでビジュアルはない。

カランは男女境に6機のみ。小石タイルが張られた湯桶を載せる台がある関西風。意外にも銭湯ではあまり見かけない自動でお湯が止まるカランが使われている。

浴槽は、小判型のセンター浴槽と、奥壁と外壁に接した使われていない空の副浴槽。

今日は柚子湯だ。濾過設備がない極めて原始的なセンター浴槽。薪で沸かされたお湯が8分目ほど入れられている。そして、売り物にはなりそうもない、小さな柚子がそのまま100個以上も浮かべられている。

去年は、熊本の泉湯だったななどと感慨に浸りながら、寒い雨降りの日、一人っきりで頂く。浴室に音はない。熱湯が細く注がれる微かな音があるだけだ。薪で沸かした42度くらいの柔らかなお湯と柚子の香り。無上の郷愁に打たれ、ただただ、心は痺れていた。

女将さん1人でやっているのかな。1日の営業時間は17:00から19:30の2時間半程度と短い。一時、休業してもいたらしい。女将は”お客は少ないし、いつやめようかと考えている”と問わず語り。

柚子湯の懐かしい香りの中、時間だけが流れるのを感じることができる。印象に残る今年の柚子湯。。。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
URL: http://www7a.biglobe.ne.jp/~masayuki/ (風呂屋の煙突)
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                      糸島手造りハム/ハミング・ジョー




             黒崎のアーケード