差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2007年9月5日水曜日 0:13
宛先: 銭湯ML (sento-freak@kt.rim.or.jp)
件名: 新橋湯(輪島市新橋通)

ナカムラです。

今日(8/19)は、「新橋湯(輪島市新橋通)」に行ってきました。 能登空港から「ふるさとタクシー」というワンボックスカーで約25分です。

金沢から特急のバスで2時間を要する輪島も、羽田発10:05の便で能登空港に入れば、午前 中に輪島の市街に入ることができる。かつては鉄道もあったけど、能登線の輪島支線が廃止さ れたのは2001年。もっとも、地元の人もあまり鉄道など利用していなかったようだ。

銭湯の開店まで時間があるので、まずは市街地の散策。輪島は、いつの間にか「輪島温泉郷」 というらしい。立派な足湯の建物「湯楽里」があった。周りには誰も居なかったものの、「全身入 浴はしないで下さい」と先手を打たれたので、飲泉のみに止めたがかなり塩辛くて渋味の利い たお湯だった。

街の中心の重蔵神社は、春の能登半島地震で鳥居が倒れ参道の脇に積まれている。市街に はそっちこっちに更地がある。輪島塗りの塗師の作業場でもある土蔵が結構やられたらしい。 敷地奥の土蔵を壊すにも直すにも、表の建物も壊す必要があったりするようだ。

朝市が撤収された頃、かなりキテいる少し傾いていてもいる中華屋でビールとチャーハンで腹 ごしらえ。 いざ新橋湯へ。

輪島にはピーク時には8軒の銭湯があった。諏訪湯と建物が立派だった宝湯が廃業。さらに、 昨年に喜久乃湯が廃業して、5軒になっている。

新橋湯は、古い商店街にある輪島で最もレトロな湯。先代が昭和21年に古い銭湯を購入し、 火事で焼けたので、現在の建物は昭和28年に建てたものらしい。切妻屋根に破風屋根の入 口部を付けた、構造としてはありふれたもの。しかし、茶色の下見板張りと漆喰、黒瓦という渋 いコラボレーションになっている。

15:00の開店よりも10分ほど前に到着。丁度いい。開店前に写真でも撮らせてもらおうと入っ て行く。明るい女将は、開店前の準備を中断して、近所の人と世話話に興じていた。

来意を告げると(横浜から風呂入りに来たと言っただけだけど・・・)、まぁ一服してからと冷たい お茶が出される。ひとしきり話しをしてから浴室に向かった。危うく370円払うのを忘れるところ だった。

脱衣所の広さは、幅2間、コンクリのタタキを入れて奥行3間。天井は格天井ではないものの高 さ2間はある堂々とした空間だ。レトロな天井扇も現役で回っている。番台は茶色の木組の渋 いもの。銭湯のサイズに合わせてか、やや細身のものだ。下足箱はなく、タタキの横に木製の 棚があるのみ。

ロッカーは、戦後の物の無い時代に作られた、閉めると自動ロックされる木製の貫ぬきを応用し たものだ。女将に十手のような鍵を借りて、開閉を試したが、なかなかコツが要る。ご常連はみ な丸籠を使用するようだ。

浴室は、幅2間、奥行2間半。天井は東京と同様で2段型だ。先代女将は、東京の銭湯で働い たことがあって、だから東京の銭湯に似た構造になっているらしい。

カラン2つの島カランと、男女境と外壁側に4個ずつ赤・青レバー式のカランがある。浴槽は深浅2槽の シンプルなもの。創業以来の小タイルが使われ、井戸水時代のミネラルの付着が少し黒ずんで いる。双方ともに青の薬湯が満たされていて、湯温は42.5度といったところ。暑い日には少し 熱いと感じる温度だ。

最近までずっと水道水を沸かしていた。しかし、地震で自噴井戸が30年振りに復活。今は半分 この井戸水を混ぜて沸かしている。裏にある、この鉄分が多いという井戸を拝見したけど、暗い 中で水の盛り上がりが確認できるほどに湧き出していた。

ビジュアルは無く、奥壁が小タイルの組み合わせでデザイン風になっているのと、浅槽のすぐ上 に鯉のレリーフがあるくらいだ。

能登半島地震では、脱衣所の壁と柱の間に隙間ができたくらいで、浴室のタイル類は無傷だっ た。床のタイル以外は創業以来55年を経過したもの。昔のタイル職人の施工技術はやはり高 かった。

上がりは飲物の販売はない。しかし、湯あがりの水分補給は大切だと言って、女将の実家門前 地区の山で汲んできたという冷えた水をせっせと振る舞っている。買って飲むミネラルウォータ ーより遥かに美味しいせいもあって、1.5リットルくらい飲んだかも知れない。

男女境の扉には、一面大きく田村隆一の詩を白抜きしたブルーの古いポスターが貼ってあっ た。

 銭湯すたれば人情もすたる   
 銭湯を知らない子供たちに   
 集団生活のルールと マナーを教えよ   
 自宅にふろありといえどもそのポリぶろは
 親子のしゃべり合う場にあらず、ただ体を洗うだけ。   
 タオルのしぼり方、体を洗う順序など、   
 基本的ルールは誰が教えるのか。   
 われは、わがルーツをもとめて銭湯へ。

輪島の朝市は観光客相手だけど、地元の人が通う夕市は同湯の近くで開かれている。 また、同湯でも女湯の使われなくなったベビーベットの上に、女将が育てた採れたての野菜が 並べられて売られている。

輪島で後継者の居ない銭湯は、この新橋湯だけ。 女将は10年は頑張ると話してくれた。 10年なんて直ぐだ。そんなケチなこと言わず、長らくやってもらいたい、いい銭湯だった。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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中華屋。よく見ると傾いていたりする。