新川温泉（愛知県碧南市山神町）

差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2007年6月6日水曜日 23:50
宛先: 銭湯ＭＬ (sento-freak@kt.rim.or.jp)
件名: 新川温泉（愛知県碧南市山神町）

ナカムラです。

今日（6/2）は、「新川温泉（愛知県碧南市山神町）」に行ってきました。
新川町駅(名古屋鉄道三河線)から、０．５キロ、５分くらいです。

今日は、誕生日。ただ歳だけ食ったなという徒労にも似た感慨で、刈谷駅６：１０発の一番電車で、碧南駅に着いた。

今回の碧南行の第一目的は、戦時下に、海軍将校用に開設された特殊飲食店街の｢衣浦荘｣跡を訪れること。特攻隊の飛行士養成の明治航空基地と、そのための特飲街･･･。どんな、悲しくも艶のある物語があったのだろうか･･･。

そんな「衣浦荘｣は、売春防止法施行を控えた昭和２９年に、転業旅館街の｢衣浦温温泉｣に変わった。温泉ではなかったようだけど、最盛期には１０軒の旅館に、置屋、劇場、パチンコ屋なども並んだ、碧南一の歓楽街だった。字名は「常盤浦･沖見台｣。しかし、崖下に海が広がるという風光が、埋め立てによって４０年ほど前に消滅。急速に衰退した。

今回は、特殊飲食店からの転業旅館｢すゞ本｣に泊まる。今は使っていない、かつての玄関には、｢二十歳未満の方の/お客様はお断りいたします。｣という、意味深な錆びたホーロー看板が残っている。向いの、同じく転業旅館｢清元｣は、昨年廃業して空家。隣の｢翠扇｣は、女将が亡くなられて、やはり昨年暮れに廃業した。かなりゾクゾクするロケーションだ。

通された部屋の前には、廃墟となっている増築棟があって、風光もへったくれもなかったけど、これがなくて、眼前に海が拡がっていた時代はかなりの部屋だったはずだ。恐らく、久しぶりだろう宿泊客は、小生のみ。大浴場や大広間は、長い間使われていないらしく、砂埃が堆積している。主屋の真中は吹き抜けになっていて、石灯籠が建つ中庭になっている。まさに遊廓だ。神棚もタダモノではない感じの凝った仕様。遊廓時代の名残が濃厚だ･･･。

建物の一部を探検しただけだけど、時折、背筋がゾッとする感覚がある。

それは、朝方だった。２間続きの部屋に内設の水洗トイレから、水洗の音がする･･･。
誰が･･･、入っているのぉ･･･。小心者の小生、気絶しそうになる。

見に行くと、勢いよく水が流れている。ホラー映画のようだ。単に設備がボロいからか。それとも、いわくある旅館に遠路訪ねる変わり者に、遊女の霊が悪戯に来たのか。そんなことを考えていた･･･。

前置きが長いが、さて、新川温泉。
５０年前に経営を引き継いだので、それ以前のことは判らないという。でも、脱衣所も、コンクリの浴室も、昭和初期のもの。それを丁寧に直して、メンテナンス良く使っている。

門柱の意匠や、建物から独立しているコンクリ造のトイレボックスもレトロだ。傍らの手入れされた棕櫚の木もなかなかいい感じ。この古風なトイレは、ドアを開けても、コンクリの溝があるだけ。懐かし過ぎる光景がある。

暖簾を掻き分けて、サッシの戸を開けて入ると、幅１間幅の広いコンクリのタタキに、番台がある。名古屋銭湯に良くある大振りのもの。下足箱はなく、外壁側にある棚に載せることになる。料金は３８０円だったかな。

脱衣所の広さは、幅２間強、奥行はタタキの部分をいれて４間ほど。天井高は、１間と１／３くらい。オリジナルの天井はもっと高くて、カマボコ型にカーブしていたのを、新しい天井板で蓋をしている。

ロッカーは外壁側にあって、ブロック状のオシドリ錠。床は籐敷きになっている。その他、ベンチ、デジタルの体重計、タタキ手部分が複雑な形状の旧型マッサージ機、男女境には熊手が飾ってある。中京地区でも飾りの熊手があるようだ。

緩衝部分の半分は、マッサージ機を置くスペースに改造してある。残る半分に、お決まりのタイル張りの流しが残っている。

浴室は、幅２間強。奥行３間半ほど。コンクリの天井は、白ペンキが丁寧に塗られているし、タイル類は新しい厚手のしっかりとしたタイルが使われている。古い物は何も残っていない。だけど、清潔で好感が持てる、いい浴室だ。

赤･青の三角取っ手のレバー式カランは、外壁の奥側と奥壁にＬ字型にあるのと、奥壁の向かい合わせの浴槽との仕切り壁にいくつかある。

浴槽は男女境に、脱衣所側から、デンキ、座ジェット×２＆バイブラ、その前に白湯とある。また、外壁側の脱衣所側にバスクリンの薬湯と水シャワーがある。温度は４２度弱と意外にも温度は高くない。

夜行で降り立ち、碧南駅、碧南中央駅、新川町駅、北新川駅、高浜港駅と走りまわり、足は限界に来ている。
そんな状態なので、同湯での時間は、かなり至福な時間だった。

上がりは、２枚扉の冷蔵庫の最下段に鎮座する｢オリオンサイダー｣１１０円。素の硝子瓶に安っぽい紙ラベル。かつて、田舎、田舎に独自のブランドがあったご当地サイダーだ。懐かしい･･･。何故か、女将がティッシュを差し出してくる。最初は意味を図りかねた。栓抜きで王冠を開けると、飲み口に黒い錆びがびっしり付いている。それを拭えという。こんなの初めてだ。大丈夫なのか･･･。

土曜日の１６：４５から１７：２５に滞在。綺麗ないい銭湯なので、入れ替り立ち替り客が来る。相客は１０数人と言ったところか。

表に出ると、中年の方が、老母の上がりを待っていた。誰かの孫娘さんと話に夢中で、なかなか上がって来ない。
上がって来ると、老母は正座して乳母車に座り、その中年男性が押して行かれた。

中京地区では、乳母車屋さんを見かける。大振りの乳母車だなぁと思っていたけど、これらは赤ん坊用のものではなかったようだ。
良く見ると、奥に、子供用のも、あることはある。しかし、高齢化が進んだ街にあって、目に付く場所にあるのは、高齢者用ということのようだ。

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