差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2012年11月4日日曜日 12:35
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 寿美乃湯(伊勢崎市緑町)

ナカムラです。

今日(10/20)は、「寿美乃湯(伊勢崎市緑町)」に行ってきました。 伊勢崎駅(両毛線等)から、1.1キロ、12分くらいです。

赤羽駅に出て、高崎駅で両毛線経由の伊勢崎行に乗り継ぐ。秋晴れ。籠原駅では電車の両側の扉を 開けた”虫干し”の風景に遭遇。高崎駅では、隣のホームに「みなかみ号」という葡萄色の旧型客 車が停車していて、往年の駅弁立売りの姿もある。旧型客車は言い知れぬ郷愁がある。ゆっくり眺 めていたい所だけど、乗り換え時間が5分しか無かった。。。

伊勢崎駅で降りるのは初めて。そして、少し遅かった。昭和9年築のJRの駅舎も、明治43年築の 伊勢崎線開業以来の東武鉄道の駅舎も、2年前の両毛線の高架化に伴い無くなっていた。

もともと伊勢崎の市街地の北端というロケーションではあるけど、駅前付近は建物が解体された更 地が広がり、古い街灯だけが残るという異様な光景。市街を歩いていてもコンビニが無い。東武鉄 道が、伊勢崎線の目的地として線路を延ばした地が、今はコンビニすら成り立たないまでに衰退し ている。しかし、周囲には納得させられる現実が広がっている。

秩父とともに伊勢崎は、絹織物の”銘仙”で繁栄していた歴史がある。今日は、燈華祭りに合わせ てのアンティーク銘仙市なる催し物がある。先ずは、廃業蕎麦屋が会場の、たった4店舗だけの着 物市を見て、煉瓦造の時報塔や明治45年築の旧医院の明治館などに寄る。

公式的には伊勢崎に遊廓は無かったけど、繁栄した街に、花街やそういった類の店(乙種料理店) がないわけはない。聞けば、旧赤線地帯が緑町にあったという。さらに、該当地の理髪店主に確認 し、やたら寿司屋が多い、近くの2本の筋がそれだったと辿り着く。

残っていないと言われたものの、若干のそれらしい建物と、何より普通ではない濃厚な気配が漂っ ている。隣の本光寺の無縁仏の墓石を積み上げた山には“廓”の文字で始まる墓石を2基ほど見る ことが出来る。

さて、寿美乃湯。同じ緑町の赤線地帯の傍らと言える場所にあった。昭和元年築の、コンクリ煙突、 縦型の窓がある洋風のファッサードの看板建築だ。

入口のドアを開けると、コンクリのたたきと、いきなりの番台。木組みのかなり大きくて、ボリュ ーム感のあるものだ。下が指物師が手掛けたオール木製錠の下足箱になっている。しかし、使われ ていないようで、番台と反対側に簀の子と木製の靴棚がある。

女将は、番台ではなく、その前に入口を向いて座っている。相方が2人分の風呂銭を渡す。小生は、 思わず口をあんぐりさせ、相方と目を合わせる。

煙突が建つ敷地を見て何となく感じていた。ここは・・・。番台や女将が座っている周りにも古新 聞、雑誌などの束がうず高く積まれている。釜に放り込めば良さそうなのものだけど、同湯は、た だただお湯を沸かすことのみに専念しているようだ。

脱衣所の広さは、幅2間半、たたきの部分を含め奥行4間ほど。天井は押縁で、高さは住宅よりも 少し高いくらいしかない。屋根は木製の小屋組みにトタンの波板が被されている。2階はなく表の 洋風の縦型窓が活かされていない。現在の構造がオリジナルなのか、読み解くことができず苦しむ。

ロッカーは、男女境に木製扉のおしどり錠のもの。ロッカーの周囲がかなり埃っぽく、丸籠を使う。 その他、メイトー牛乳が入った冷蔵庫、デジタル体重計、新型マッサージ機、テーブルと椅子など がある。

外壁側の古いガラス扉の一部に、模様硝子とともに赤色硝子が入っていた。赤線地帯至近の銭湯だ からだろうか。そんなことを考えてしまう。

トイレは、篇額に右書で「所便」とあった。恐る恐る入ると、大小の便器が並んだスペースには天 井がない。そして、廃屋のトイレのように乾燥した埃と蜘蛛の巣。全てが干涸らびた空間。尾道の 某湯と並ぶ凄みがある。

浴室は、幅2間半、奥行3間ほど。天井は高さ2間程で、フラットな樹脂製の棒を並べたようなも の。壁も高い部分は白い樹脂製のフラットなもの。浴室棟の外観は、小さな体育館のような直方体。 外装もパネル張りだった。下部はオリジナルのようだけど、上部はリプレースされているのかも知 れない。

シャワーはあるけど鏡がないという珍しい島カランが1列で、カラン数はセンターから6・4・4・0。 外壁側は鏡のみというイニシエ仕様。カラン周りはオレンジ色に近い本物の大理石。意外に豪華。

床はちょっとヌメるものの、大きな御影石がタイルを挟む関西風と違って、隙間なく敷き詰められ ている。洗い湯を流す溝などない古風な造りだ。

壁は古く黄ばんだ中版の白タイル。目を引いたのは洋館風のドア枠。釜場へ通じる扉の枠に、小さ いな庇があり、三重に枠が連なる重厚な造りになっている。いくつもの洋館風のレトロ銭湯に入っ てきたけど、初めて遭遇するものだ。

元々はどんな空間だったんだろうか。。。

浴槽は、奥壁に青い薬湯が満たされた深浅2浴槽。お湯は43度くらいのやや熱めだけど、無類の熱 さを誇る北関東の銭湯にしてはかなりマイルドと言える温度だ。深浅の浴槽境にある大理石の分湯 器などは、どことなく鄙びた温泉場を思い起こさせる。

浴槽の奥に床の間のような引きがある。元々はペンキ絵があったのだろう。今は塗り潰され、晩秋 の西陽を受け、オレンジ色になっている。

ビジュアルは、男女境には「京華(けい加)」銘の淡い絵付けのタイル絵が3幅(筏流し、富士山、 海と夫婦岩)残る。掠れた部分もあるけど上品でいい絵だ。そして、絵の傍らに、多少埃を被った 観葉植物も置かれている。

何故か湯治場のような雰囲気。そんな空間で、数人の相客とともに明るいうちからの湯浴みを楽し む。ある意味壮絶な空間だけど、それ故に、深い郷愁を感じるのかも知れない。

上がりはメイトー牛乳110円。買うのを少し躊躇していたら、相客が毒味よろしく購入し、美味し そうに飲んでいる。小生も従って、恒例通り頂いた。美味。

燈華祭りの日。土曜日の15:15から16:05に滞在。横須賀の汐入・大黒湯と甲乙付け難い壮絶な空 間があった。こんなだけど、大将は電話を架けると、珍しいくらいに愛想がいい対応だった。ご常 連も普通。どうなっているんだろう。いろんな意味で、理解に苦しむ、不可思議な銭湯だった。

かなり突き抜けたマニア向けだけど、訪れない手はない。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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               やたら寿司屋の多い街