差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2010年1月13日水曜日 22:43
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件名: 大社湯(鳥取県倉吉市新町)

ナカムラです。

今日(12/27)は、「大社湯(鳥取県倉吉市新町)」に行ってきました。 倉吉駅(山陰本線)から、2.3キロ、30分くらいです。

山陰本線は長大なローカル線。サンライズ出雲などの東京からの優等列車は、京都経由から岡 山・播但線経由で運行されるようになって、鳥取方面は時間的にやや遠くなった。

鳥取では、れんが湯が気になっていたけど、ま新しい住宅に変わっていた。しかし、いくつか の地名が「○○温泉町」となっているように、周辺の公衆浴場はみな温泉で、朝6:00から営業 している。風呂好きには気になるエリアだった。

さらに、鳥取の遊廓「衆楽園」跡をめぐり、遊女の衣装蔵跡に建つ「鳥取民芸美術館」、「たく み割烹店」を経由し、倉吉に向かった。

古い白壁の街並みを残す倉吉の市街地は、天神川を渡った先にあって、駅から離れている。

大社湯はそんな歴史ある町の中心にあるものの、周囲をゆっくり歩く時間がなく、カーナビに 指示されるままにピンポイントで向かう。しかし、同湯の裏に通る旧道や、向かいの屋敷塀の 白壁。周りを見渡しただけで、いい雰囲気の街であることが分かる。

大社湯は、築120年を経過した下見板の2階家。濃い茶色の建物は角地にお尻を向けて建って いる。角に面した、正面向かって左側が脱衣所と浴場で、右側に居宅と釜場があるようだ。浴 場スペースの基部は煉瓦積みで、同湯の長い歴史を示している。

軒灯の下を通り、半間幅ほどの通路に入ると、いい風合いの木製建具のガラス戸が男女それぞ れにある。側面には「レート白粉」のホーロー看板があって、営業時間が掲げられている。

ガラス戸を開ければ、幅1間半、奥行2間ほどの手入れが行き届いた狭小の脱衣所がある。2 階があるので天井も高くはない。

下部に下足箱を組み込んだ番台にタタキ。コンクリではなく、ほとんどは磨耗仕切っているも ののレトロな模様が入ったタイルが使われている。入口方の壁も床とは違った古いタイル。小 さいながらも相当に気合いの入った建物であることが分かる。番台の反対側にも下足箱があっ たようだけど、現在は常連桶の棚に変わっている。

脱衣所に上がれば、足触りのいい板の間。天井扇と板にペンキ塗りという天井。外壁側にはお しどり錠のロッカー。男女境は、昭和中期の木製の窓の目隠しのような造りで更新されている。

その他、kamachoのアナログ体重計、木製のベンチ、灯油の燃える匂いが郷愁を誘う感じがす る石油ストーブ、番台後方にはレトロな丸時計などがある。時計はもっと古いものが懸かって いたけど、欲しいという人にあげたという。壁にうっすらと振り子時計の跡があった。

そして、何より同湯の脱衣所を印象深くしているものは、細い脱衣所の一番奥にあるレトロで 細い硝子のドアだ。奥壁は腰高まで白の古い大判タイルが使われ、その中央にある木枠の細い 硝子戸。人ひとりがやっと通れるくらい、幅60センチくらいだろうか。浴場への扉がドア式と いうのはかなり珍しい。そして同湯のものは小さく繊細。印象に残る「風景」だった。

浴室は、幅1間半、奥行5間と細長い。床は市松模様で腰高まで白いタイルが張られている。 天井は、後方が四角錘型で真ん中に湯気抜きがあるもの。入口部には大きな汲み水槽があって、 男女境の下で開放的な感じで繋がっている。

主浴槽は、中央に男女境に接するかたちで1間四方のもの。踏み込み、縁、底のいずれもが石 造りの立派なものだ。「湯は焚き物入れ物で違う(倉敷・船五湯主人談)」。なるほど、ただのお 湯とは似て非なる、柔らかく心静まるいい湯で満ちている。奥壁に接して、少し小さな副浴槽 があったようだ。しかし、今はコンクリで蓋がされている。

同湯の最大の特徴はカランがないことだろう。正確に言えばシャワーが男女境に1間ほどの間 隔で3機だけあるものの、湯・水のカランが1組もない。汲み湯至上主義。温泉場の共同浴場 ならともかく、カランのない銭湯は初めての体験だ。

ビジュアルは、男女境にマジョリカタイルによるウグイスのタイル絵。マジョリカタイルのタ イル絵は概して大ざっぱなデザインではあるけど、同湯のものは繊細だ。そして、外壁側には 色あせた絵付けのタイル絵。山、川、筏流しの絵柄。さらに、男女境の上部と下部に緑と白の マジョリカタイルの装飾の帯が走る。ラーメンどんぶり紋様とは異なり、幅もあって細かな造 り込みがなされたものだ。

日曜日、開店時刻の16:30から17:10に滞在。口開きの相客3人がさっと上がった後はこの印 象的な銭湯にひとりだけだった。クルマで戻って乗り込む、夜行サンライズ出雲号に急かされ、 やや慌ただしい入浴だったのが心残り。

倉吉の大社湯は優れた郷愁銭湯。今回の旅行で最も印象に残るものだった。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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