大正温泉（和歌山県海南市船尾）

差出人: Masayuki Nakamura
送信日時: 2014年8月21日木曜日 22:16
宛先: 銭湯ＭＬ (sento-freak@freeml.com)
件名: 大正温泉（和歌山県海南市船尾）

ナカムラです。

今日（6/18）は、「大正温泉（和歌山県海南市船尾）」に行ってきました。黒江駅（紀勢本線）から、1.2キロ、15分くらいです。

7年振りの和歌山海南。紀州塗（黒江塗）で栄えた町は、その伝統の事実上の消滅とともに衰退は度を増したように感じる。そういった印象は、しぶとい雨が降る陰々滅々とした天気だからだけではないだろう。

前回の訪問時、タッチの差で内外の意匠に観るべきものが多かった洋風建築の新町温泉に間に合わなかった。しかし、海南にはまだ10軒近くの銭湯が残っていたと思う。先月、宮の湯が廃業して、宝湯、芦原温泉、内海湯、大正温泉の4軒にまで減っている。

今回の計画は、東新地、西新地という2カ所の遊廓跡とエントランス周りの意匠が気になる旧昭和湯の建物を観ること。さらに、大正時代からの建物を今に引き継ぐ大正温泉に入ること。

「黒江ぬりもの館」などを回り、黒江塗が事実上既に途絶えていることを知る。昔からの漆器卸は、家族だけで黒江塗以外の品物を細々と商って凌いでいる感じだった。内部に入ると予想外に広い江戸時代からの建物や、漆器卸商の看板の立派さとは、余りに大きな落差がある。

東新地、西新地は、幾分か建物が減って更地が増えたものの、印象として大きな変化は感じなかった。いずれも日方川に面する何処となく湿った感じのする一角だ。

大正温泉は海南駅から最も遠い黒江の中心地に位置している。途中、休業の情報があった宝湯の開店の時間で、煙突から煙が立ちのぼり、ご主人が表に暖簾を掛けた。7年前、朝の散歩の途中に中を撮影させて頂いた恩義がある。まだまだ頑張ってほしい。

さて、船尾地区にある大正温泉。連子格子を持つ家並みはかつての繁栄を物語っている。しかし、近くの「船尾市場」は荒廃が進み、8割方廃業が進んでいる。同湯の隣はホーロー看板を掲げている酒屋。その隣も酒屋。2軒酒屋が並ぶという不思議な光景がある。

油井型の煙突を持つ大正湯は、屋号からも分かる通り大正時代の創業。浴室部分はコンクリ造だけど、かつての休憩所が2階に残る、下見板張りの建物は創業当時からのもの。

エントランスは増築か改築だろうか。黒瓦を載せた切妻の大きなもの。そこにSSｰLOCK錠の下足箱と大きな傘立てが並んでいる。

脱衣所へのサッシの扉を開ければ新建材で組まれた番台。気さくなおばちゃんは脱衣所のテーブルだけでなく、帰る客に手渡すために番台におやつを山盛りにして客を迎えている。相方がそんな女将さんに2人分の風呂銭760円を渡す。

脱衣所の広さは、幅3間、奥行は増築の部分を含めて3間半ほど。天井は2階が載っているので高さ1間半ほど。高くはないものの平格天井になっている。前栽だったと推測される部分の、外側半分は屋根付の自転車置き場に、内側半分は脱衣所に取り込まれている。

ロッカーは両サイドに、木製扉のロッカーにしては小振りのKing錠のものが並ぶ。そして、ロッカーの上には小さなテレビが置かれている。

床はカーペットと籐敷きの混成。男女境の上には子供向けの色々な飾りが並んでいる。少々、雑然としているかな。

中央に菓子盆を置いたテーブル。向かい合わせにベンチ。増築部には2枚扉の古い冷蔵庫と2台のマッサージ機。体重計はTanakaのアナログ機などが並ぶ。

浴室の広さは、幅3間、奥行2間半ほど。天井はやや平べったいドーム型の縞模様柄のプラ板張りで、中央に四角の湯気抜きがある。

島カランはなく、カランは外壁に6、奥壁に1。白ケロリンの桶が使われている。床のタイルは八角形の淡いブルーと小さな紺色の正方形のタイルを組み合わせたもの。壁は中判の白色のタイル。ビジュアルはない。強いて言えば、タコのビニールのおもちゃが男女境の上につるされている。

浴槽は、男女境および奥壁に接するかたちで、浴室面積の4割をも占める大きなものが置かれている。縁の上面にはちょっとリッチに黒御影石が貼られている。

奥壁側は、かなり浅い槽になっていて、湯温は41度くらい。内側に濃いブルーのタイルが貼られた深槽は、42度くらい。温くなると太いパイプから勢い良く熱い湯が注がれる。

お湯は、カラン、浴槽ともかなりの軟水。地方の田舎銭湯なのでかなりの意外感がある。

水曜日の17:20から18:10に滞在。3代目の経営者として昭和49年に経営を引き継いでいる。廃業があると、「いつも次はウチかなぁと考える」と明るく話してくれた。

帰りに黒江駅までタクシーを呼ぶと、石鹸の香り漂うタクシー運転手。何と少し前に出た同湯での相客だった。そういえば同湯向かいの4、5台停められる駐車場に富士交通のこの黒いタクシーが停まっていた。不愛想極まりない運転手だったけど、大正温泉で休憩する輩。大正湯では普通に常連客と話に興じていた。きっといい奴なんだろう。

一日中弱い雨に祟られたけど、黒江駅でようやく上がって、大きく、二重の珍しい虹が出た。

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ナカムラ　（Masayuki Nakamura）
URL: http://furoyanoentotsu.com（風呂屋の煙突）
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　　　　　　　　　　　同湯近くの船尾市場。2007年に訪れた時と比べ、一気に廃れた感じが強まっていた。