差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2006年1月3日火曜日 14:54
宛先: 銭湯ML
件名: 大正湯(因島市田熊)

ナカムラです。

今日(12/26)は、「大正湯(因島市田熊)」に行ってきました。
尾道駅からバスで、45分程度です。

因島市は、1月10日に尾道市と合併が予定されている。バス停で、地元のご老人の話を聞くとははなしに聞いていると、良くなる面と悪くなる面があるという話。福祉の面など、自治体によって大きな較差がある。どちらかというと、不安がっている感じだった。

田熊は、昭和28年に周辺の町村合併で因島市が出来るまで田熊町だった。20年ほど前に富田靖子主演の映画「さびしんぼう」のロケ地になったりしている。バス停を降りると、田熊港(漁港)の反対側に、小さな小さな商店街の跡といっていい寂れた通りがある。ここら辺りが街の中心だったのだろう。同湯はそんな商店街跡の奥にある。向かいは食料品店、斜向かいには花屋と商店街の名残の一角にある。

同湯の営業時間は16:00から19:00。さらに湯を沸かすのは月・水・土の三日間だけ。因島の3つの銭湯の中では一番入りにくい。幸運にも今日は湯を沸かす日だ。17:00から仕舞の19:00近くまで滞在する。

因島の銭湯の煙突を4本(同湯、旧赤松湯、寿湯、紅梅湯)見たけど、全て煉瓦積みの煙突。少ない経験からしても、煉瓦煙突の銭湯は、みんな個性的だった。同湯の創業は屋号からして大正時代。他の銭湯も恐らく、古銭湯なのだろう。

入口には、「ゆ」と大きく書かれた暖簾が下がっている。その上に「男湯」の文字。一瞬、男湯しかないのかと思ったけど、暖簾を潜ると、入口の硝子戸は2つある。同湯の下足箱は、小銭湯ながら、番台への扉の外にある。錠はツルカメの旧型。

ガラガラと硝子戸を開けると、番台に女将。女将に370円を渡すと、来年からにしているからと20円バック。広島県の銭湯は12月8日から370円に値上げになっている。

外観の印象に比べて、中は大きい。脱衣所の広さは、幅2間半、奥行3間ほど。天井は押し縁天井。そこから、蛍光管2本の昔の日本家屋のどこにでもあった、懐かしい照明器具が下がっている。

この空間に入った瞬間にはっとする。外壁側の上部には一杯に富士山のペンキ絵がある。浴室への入口上部には地元商店の広告が全面にある。女湯方を見ても同じ。初めて見る、でも、とても懐かしい感じがする。

ペンキ絵には「清酒 太平洋」とある。地元の酒かと思ったが、和歌山・熊野の酒のようだ。
外壁側は、漢数字が記されたロッカーになっているが、材は安っぽいベニヤ板で更新されたもの。錠はKINGの板鍵。昔の欅材のロッカーは、丈夫なので、奥で道具箱になっているという。錠も真鍮の鍵を差し込むものだったという。

脱衣籠は、パンか何かを入れるプラスチックのケースで代用している。初めての遭遇。補修だらけの藤の脱衣籠も1つだけ残っている。

その他、ビニール張りのやや傾いたベンチ、テーブル、何故か小学校にあったようなオール木製の懐かしい椅子が2脚ほど。

浴室は、幅2間半、奥行3間半。天井は四角錘型で真中に四角い湯気抜きがある。床のタイルは、ボロボロという状態。昔(昭和50年くらいまで)のように石張りだったら、自分で目地を補修できたが、タイルでは自分で修理できない。以前使われていた御影石は、同湯の入口の前や、建物脇の通路の敷石として余生を過ごしている。

浴槽は中央やや奥側に長方形のもの。それが深浅2槽に仕切られている。湯は飲用可能な井戸水を沸かしている。そのため、浴槽の内側はミネラルが付着して、真っ黒だし、内側のタイルもボロボロ。そんな浴槽に、蛇口で熱い湯が注がれている。温度調整は完全にマニュアル。

カランは、男女境側のみにあって、6つくらい。シャワーは奥側3つのみ。湯・水・シャワーとも、奥壁から伸びる管に直結している。

同湯の湯桶が変っている。肉厚のアルミで底に大きく温泉マークがある。鉛色で鈍く光っている。新し物好きだった先々代が、大阪の製缶メーカーに特注したものらしい。ケロリン桶は50年は持つというけど、この質感たっぷりの湯桶はそれ以上の年月を経ている。思わず脱衣所に持ち出して、小学校椅子に乗せて、写真を撮った。

ビジュアルは、浴室の奥壁に小さなモザイクタイル絵。絵柄は、湖・洋館・高峰とありふれたもの。

1日の客は15人くらいで、入りに来る時間も決まっているという。小生が滞在した時間での相客は5人。上がってから、女将に教えられたけど、その一人が同湯の3代目。同湯は女将に任せて、他で仕事をして、他の客と同じように、1日の終わりに湯に浸かっている。

今日の女湯の客は全て上がったというので、女湯も見せてもらう。5人用の古い木製のベビーベッドが目に入る。往時は5人のこのベッドが順番待ちだった頃もあったらしい。もう、何年も使われていないようですねと問うと、最後の赤ちゃんは10数年も前かなということだった。赤ちゃんだけでなく、子供も多かった。同湯のすぐ近くには2軒の駄菓子屋があって、それは繁盛したらしい。

上がりは、名古屋牛乳鰍フロイヤルトップ、100円。そうこうしているうちに、今日の最後の客が、18:40に男湯にやってきた。









天井は檜材。一度も張り替えていない。


女湯。男湯ほど傷んでいないようだ。


長らく使われていないベビーベッド。
女湯には、男湯にはない飾り物がある銭湯が多い。

肉厚のアルミの湯桶。






敷石は以前浴室に張られていたもの。


やや低い煉瓦煙突。